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百肆拾玖.黄泉比良坂

 それから数日して俺は随分回復して、もう庭を歩きまわることもできるようになっていた。


 病気の原因はよくわからなかった。多分、大国主の見立てでは過労だろうということだった。ちなみに、大国主は医療の神さまでもあるから、医学の心得だって当然あるのだ。こんなにすごい神さまなのに、なぜか尊敬できない気がするのはなぜだろう?


 あの後、2日ぶりに雪と話をして、俺が寝込んでいる間に石作の親王が偽物の鉢を持ってきて、式神の機転で追い返したという話を聞いた。雪にきちんと本物と偽物の見分け方を教えておかなかったのは失敗だったと反省して、今度ちゃんと説明することにした。


 元の時代に一緒に帰れないということは、まだ雪には言っていない。どう切り出したらいいのか分からないのだ。だけど、今は病気の療養でここに残っているものの、治ったらすぐに帰らなければならなくて、そうしたらいつまでも隠しているわけにはいかない。そのことを思うと気が重くなる。


 天児屋(どうした? さっきからため息ばかりついて)

 俺(なんでもない。気にすんな)

 天児屋(そう言ってもなー。い、一応、お前は僕のご主人さまだからな)

 俺(お前、一応、偉い神さまなんだろ? そんなんでいいのか?)

 天児屋(無理矢理、力ずくで使い魔にしたご主人さまがいう言葉じゃないんじゃないか?)


 なんだかんだと墨と天児屋はあれからずっと俺の行く所行く所についてくるようになった。天児屋はこうやって話しかけてくるが、墨はずっと服の袖を握ったまま無言で離そうとしない。


 俺(そういえば、俺が平安京に戻ったら、お前はどうするんだ? 春日神社に戻るのか?)

 天児屋(使い魔がご主人さまの元を命令もなしに離れるわけにはいかないだろ)

 俺(お前、最近、神さまって自覚を失って来てないか?)

 天児屋(うるさい)


 実のところ、もう大国主とも話したいことは話せたわけで、未来に帰る手段がないことがわかってしまった以上、ここに残る理由もなく、体力の回復を待つばかりですっかり退屈してしまった俺だった。ゲームでも持っていないかと大国主に聞いてみたものの、あるにはあっても大国主の趣味のものばかりで俺にはレベルが高すぎた。


 そこで墨と天児屋を引き連れて庭をぶらぶらと探索していると、庭の隅の方に意味ありげに口を開けた洞穴があることに気づいた。ご丁寧に入り口に結界まで張ってある。


 俺(うぉ。これは怪しい)


 嬉々として洞穴の入り口に近寄る俺にびくびくと付いてくる墨と天児屋。


 墨「かぐや姫さま、ここなんか怖いです」

 天児屋(こ、これはきっと根の国へ続く洞穴だよ。黄泉比良坂よもつひらさかだよ、絶対)

 俺(絶対ってことは、お前も知らないのか。じゃあ、入ってみるしかないじゃん)

 天児屋(何言ってんの。入ったら出られなくなっちゃうよ。絶対ダメだよっ)

 俺(ダメと言われたら入りたくなるのが人間の心情ってやつじゃない?)

 墨「私は猫だから……」


 ここのところの退屈な日々に飽き飽きしていた俺は、目の前に突然出現した冒険に完全に心を奪われていた。


 俺(ちょっとだけ。ちょっとだけだからさ。入り口のあたり、ちょっとだけ入るだけだから)

 天児屋(そんなプレイボーイみたいな言い方してもダメなものはだめだよっ)

 俺(えいっ)

 天児屋(ああっ、本当に入っちゃった)


 結界として貼られていたしめ縄を飛び越えて、俺は洞窟の中に飛び込んだ。自分でもどうしてこんなに積極的に危険な場所に踏み込みたくなったのか疑問だったが、なんとなく、後100年もこのままならば少しくらい意味のないことをしても十分「間に合う」と思っていたのは間違いない。


 俺が飛び込んでから少し遅れて、墨と天児屋も飛び込んで来たようだ。足音が後ろから近づいてきて、やがて2本の手が両側から俺の裾を両側から掴んで引っ張った。


 天児屋(ねえ、もう帰ろうよ。こんなとこ来ちゃダメだよ。根の国にはスサノオがいるんだよ)

金曜は新嘗祭で祝日なのでお休みです。その次の月曜日は私用でお休みさせていただきます。ですので、次回更新は来週の水曜日になります。よろしくお願いします。

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