百肆拾漆.招かれざる客
かぐや姫が行ってしまったその日から、毎日あった連絡が突然ぱたりと途絶えてしまった。遠見の鏡にこちらから呼びかけてみるが全く反応はない。
式神「雪ちゃん、どうしたの? 深刻な顔して」
雪「式神さま。かぐや姫さまとここ2日連絡が取れないものですから」
式神「あれ、雪ちゃんもか。私もかぐやちゃんのここ2日の記憶が覗けなくなってるんだよね」
雪「えっ? 式神さまもですか?」
かぐや姫と連絡が取れなくなった時、雪はとうとうかぐや姫に愛想を尽かされてしまったのかと落胆していたのだが、式神も記憶が覗けないと聞いてむしろかぐや姫の安否が心配になった。
雪「かぐや姫さまに何かあったんでしょうか?」
式神「んー、わからないけど、寝てるのかもねー」
雪「え?」
式神「ここ2日の記憶の見え方が寝てる時の様子とちょっと似てるんだよね」
寝てるってそんなのんきなと思ったけれど、かぐや姫と特別な繋がりのある式神の言うことだからと思い直し、雪は2日間も寝続けるような状況について少し考えてみた。
女房「雪さま、大変です。あ、かぐや姫さま、失礼しましたっ」
とその時、女房の1人が慌てて雪の部屋に駆け込んできた。
雪「どうしたのかしら?」
女房「それが、石作の親王さまが約束のものを手に入れなさったので、これからおいでになるとの使者が先ほど参りまして」
雪「そんなこと!」
(どうしよう。よりによってかぐや姫さまと連絡が取れない時に……)
女房が去った後、雪は不安な顔で式神を見た。
式神「ま、どうなるか分かんないけど、私が出てみるよ。要は追い返せばいいんでしょ」
雪「でも、もし本物を持ってきていたら」
式神「というより、どうやって本物じゃないことを証明するかのほうが難題かもねー」
雪「どういうことですか?」
式神「誰も本物の仏の御石の鉢なんて見たことがないから、本物かどうか誰にも判断できないってことさ」
雪の助けを得て式神が正装に着替えているうちに、親王が到着したとの知らせが届いた。
少し遅れて親王の待つ部屋へと向かうと、親王はそれは豪華な衣装を身にまとって供を大勢連れて来ていた。
式神「自信満々だね」
雪「どうしましょう。かぐや姫さまがいない時に……」
式神「というか、むしろそう見せているってことなのかな」
雪「え?」
式神は雪を制すると、ゆっくりと親王の方へと進み出た。
親王「これはこれは、かぐや姫殿。ご無沙汰いたしております」
式神「親王さまこそお元気のようで何よりでございます」
親王「それもかぐや姫殿にまたこうやって会えたからにほかなりません。あなたのお顔を見られない日々はまるで世界から火が消えたかのようでした」
式神「それでは、きっとこの世は火事のない平和な世界になったのでしょうね」
親王「はっはっは」
式神「ほほほ」