表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/362

百肆拾陸.おまる

 そんな顛末で、俺はようやく明け方近くになってようやく寝ることができた。失意の俺はこの後のことを考えると頭がいっぱいで寝られる気がしなかったが、強行軍の旅に身体は疲れきっていたらしく、横になるとすぐに寝入ってしまった。


 夢見は最悪だった。


 天照と大国主とすせり姫がにたにた笑いながら俺を取り囲んでいて、その向こうには現代の俺の家や学校が見えているのに、そちらに行こうとしても3人に邪魔されて近づくことができない。そんなことをしているうちにいつの間にか隣にいた雪がどんどん年老いていって最後は砂のように崩れてしまう。


 そんな夢を幾度となく繰り返し見ているようだった。


 「かぐや姫さま。かぐや姫さま」


 何度も夢を見た後、何かに呼ばれた気がして目を開けると、そこには美しい猫耳幼女の顔があった。


 俺「墨?」

 墨「かぐや姫さまぁっ!!」


 墨はまだ頭がぼーっとする俺に抱きついてきて、胸に顔をうずめて泣きじゃくり始めた。


 事態がよく飲み込めない俺は墨をそのままにしたまま視線を周囲に向けると、目を赤くしてほっとしたような顔の天児屋と目が合った。俺の視線に慌てて目を逸らしす天児屋。


 天児屋(べっ、別に、僕は全然心配してたわけじゃないんだからな。その洗濯板があんまり泣くからちょっと一緒にいてやっただけなんだからな。それだけだからなっ!)

 俺(何をお前はツンデレの真似をしてるんだ?)


 天児屋は更に顔を赤くしてちょっと怒ったように部屋の外に出ていって、入れ替わりですせり姫が入ってきた。


 すせり『あ、ようやく起きたんですね』

 俺『はぁ。今、何時ですか?』


 少しだけ意識がはっきりしてきたものの、まだふわふわしている感じがした俺は、とりあえず、自分がどれだけ寝たのかを確認しようと思った。夢見も悪かったみたいだし、多分、あんまり寝られてないに違いない。


 すせり『昼の11時すぎです。2日後の』

 俺『えぇっ? 俺、2晩も寝てたんですか?』

 すせり『そうですよ。しかも、高熱でうなされていて、大変だったんです。墨ちゃんと天児屋くんが交代で寝ずの看病をしてくれていたんですよ』

 俺『そうだったんですか』


 俺はなおも胸元で泣きじゃくる墨の頭を撫でてやると、ようやく落ち着いたらしく顔を上げた。


 墨「かぐや姫さま、死んじゃうかと思いました」

 俺「心配かけてごめんな。ちょっと無理しすぎたみたいだ」


 2晩も寝ていたと聞いても、あまり実感がわかない。でも、ちょっと無理をして平安京まで往復したし、精神的な負荷もかかっていたし、そもそも旅自体の疲れも溜まっていたのかもしれない。


 頭がだんだん覚醒してくるにつれて、徐々に小用を催してふと気づいた。寝てる間は一体どうしてたんだろう?


 俺は目をうるませる墨の顔を見て、にこにこしているすせり姫の顔を見て、もう一度目をうるませる墨の顔を見て、その件について追求することをやめた。どういう答えであっても、喜ばしい内容にはなりそうもない気がしたから。


 とにかく、お手洗いに行こうと立ち上がろうとしたところで、身体がふらついて立膝をついてしまった。


 すせり『まだ体調が万全じゃないんですから、もうしばらくゆっくりしてってください』

 俺『あ、いえ、ちょっとお手洗いに』

 すせり『だったら、今、おまるを持ってきますね』


 そして、なんだかとても嬉しそうなすせり姫の後ろ姿を見て、絶対に寝ている間の件について聞いてはいけないと確信したのだった。

貴族は普段から樋箱ひばこというおまる的なものを使っていたみたいです。樋殿ひどのという名前の専用の部屋に樋箱を持ち込んで用を足していたそうです。女性の場合、着物が大変なので侍女の手を借りないといけなかったようです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この小説は、一定の条件の下、改変、再配布自由です。詳しくはこちらをお読みください。

作者のサイトをチェック
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ