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百肆拾壱.届かない思い

 天照『あれ? 姫ちゃん、もしかしてこっちに来れないの?』

 俺『……行けないよ。悪いか』

 天照『別に、悪くなんて全然ないんだけどぉ』


 どんどん笑みが深くなっていく少女。嫌な予感しかしない俺。


 天照『こっちに来てみたい?』

 俺『……』

 天照『1つだけお願いを聞いてくれたら、こっちに入れてあげてもいいんだけどぉ』

 俺『……何をすればいいんだ?』

 天照『後でこの本を声を出して読んでくれないかなーって』


 そう言って天照は例のすせり姫作の本を指差した。


 俺『ばっ』

 天照『もちろん全部なんて言わないから。ほんの50ページ位読んでくれたら十分だから』

 俺『そりゃ十分だろっ!』


 (どうする? あんなものを声を出して読むとかどんな罰ゲーム?だけど、この機会を逃したら結界の中に入るのは次いつになるか分かったもんじゃないわけで……)


 俺『1つ条件をつけていいか?』

 天照『なあに?』


 (くっそ。うきうきした声しやがって)


 俺『中に入ったついでに大国主とも話をしたいんだけど、お前も付き合ってくれるか?』

 天照『そんな、正式に結婚を前提としたお付き合いの報告をしたいだなんてっ!!』

 俺『言ってねーよ!!!』


 ぼける天照に届かない突っ込み(主に結界のため)を歯がゆい思いで耐え忍びながらも、なんとか合意にこぎつけた俺は、天照の助けでようやく結界の中へと侵入することができた。


 俺『なんでやねん』


 バシッ


 天照『痛ったーい。何すんのよ』

 俺『結界のせいで突っ込めなかった思いをまとめて吐き出してみた』


 ようやく溜まっていたものを吐き出した俺は本来の目的に向かって頭を切り替えた。……朗読の件はまた後で考えよう。


 俺『すせり姫と大国主はどこにいるんだろう?』

 天照『うーん。もう夜遅いし、一緒に寝てるんじゃないかな』

 俺『一緒に……』


 (あ……れ……)


 大国主とすせり姫って結婚してるんだから、一緒に寝てるってことは……


 天照『さっきまですせり姫はあたしと話してたから、そろそろ寝入った頃かもねー。あはは。寝室はこっちの方だったかなー』

 俺『ちょ、ちょっと待てっ!』

金曜の更新は私用のためお休みします。次回は月曜日です。

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