百卅肆.相性
再び襲い掛かる式神。しかし、不意打ちに怯んではいても、2度も同じ失敗をする俺ではなかった。
俺は胸元に手を入れると、手に触れたものを接近する式神の進路に転がした。
式神『うぷっ。な、何、何これ』
いつもの例の不思議な種だ。それは瞬く間に成長して式神の手足を絡めとり、空中に釣り上げた。
俺『どうだ。参ったか』
式神『うふん。かぐやちゃんったら。こんな激しくしなくても言ってくれればいつでも縛られてあげるのに』
俺『そうだな。じゃあ、今晩はそこでそのまま夜を明かしてくれ』
式神『ちょ、ちょっと。ねえ、いつものムチは?』
俺『そんなものはないっ!』
なおも式神が何か言って騒ぎ出したので、不思議な草のつるを猿ぐつわのように口に噛ませて、静かになってもらった。
式神『ふがふが』
じたばたする式神はそのままにして、俺は雪の私室へと足を進めた。式神とやりあって少し冷静になった俺は、すでに夜も遅く寝入っているところを起こすのも忍びないと思い直し、雪の様子をちょっとだけ見て自室で雪が起きるまで待つことにした。
俺「雪」
返事はない。俺はそれだけ確認すると、自室へと向かった。庭に放置したままの式神は、明け方皆が起き出す前にでも回収しておけばいい。
式神『や。遅かったね』
俺『何でお前がここにいる?』
式神『やだな。あの魔法はかぐやちゃんのものなんだから、私に解除できないわけないでしょ』
涼しい顔でいう式神に、俺は頭が痛くなった。俺との相性で言ったら、こいつは天照の次くらいに面倒な相手なんじゃないか?
式神『そんなことよりも、今度こそ再会を祝して私と濃厚な愛の営みをっ』
バチコン
(まあ、木箱で叩けば紙に戻るんだから、面倒というほどでもないか)
紙片に戻った式神を拾い上げて木箱に戻すと、俺は久しぶりに自分の部屋で眠りについた。
朝、目が覚めると、雪は自分が上着を着たままで寝ていたことに気がついた。その理由を思い出そうとして、昨晩、式神の膝枕で眠りについたことを思い出し、式神の姿を探すがすでに部屋にはいなかった。
(いつの間にかお戻りになられたんだ)
主人よりも早く寝てしまって、世話をしなければならないはずの相手に逆に世話をされてしまったことに恥じ入った雪は、さりとてここでぼーっと過ごすわけにもいかず、手早く身支度を整えると式神を起こしに部屋へと向かった。
雪「式神さま、失礼致します」
式神は朝に弱いので、大抵このように声を掛けても返事が返ってくることはない。雪はいつもの様に少し控えて中の気配を伺っていたが、起き出してくる気配がないことを確認するとふすまを開けて中へと進み出た。
雪「式神さま、朝でございますよ」
総合評価が1400ポイントを超えていたことに気づきました。いつもご愛読ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。