百卅参.王道ストーリー
聞き慣れた呪文に反射的に身体を捻って飛び退いた直後、天から伸びる神の怒りがさっきまで俺のいた地面を焦がして消えた。
俺『あっぶねー。何するんだ、一体』
いつものようにキーンとする耳に気を使う暇もなく、俺は式神に大声で抗議した。それにしても、いくら式神が俺のコピーだといえ、魔法まで使えるとは思っていなかった。
式神『いいかっ。主人公が留守にしている間に、親友が彼女とイイ仲になってしまう。これぞ王道だぁっ』
俺『はぁ?』
式神『そして、主人公のことを疎ましく思うようになった親友は、一計を案じて主人公を亡き者にしようと企むのだっ』
式神はドヤ顔で、人差し指を俺の顔に向けてびしっと伸ばしきた。
俺『そのストーリーだと、結局最後にお前は負けるんじゃないか?』
式神『しっ、しまったぁぁぁぁ』
俺『土遁、石牙弾』
式神『ぐぁぁぁぁぁっ』
式神が怯んだ隙にまた何か因果律に抵触しそうな魔法を行使して、式神を仕留めた。え、嫌だな、平安時代なんだからこっちが先のはずですよ?
式神『くっ。しかし、いつの日か、第二第三の式神が……』
俺『現れるかっ』
うずくまって頭の悪いことを言っている式神は放っておいて、雪の部屋へと行こうと式神の脇を通り過ぎた瞬間、足を式神に掴まれた。
式神『とりゃっ』
俺『うぼっ。なっ、何するんだっ』
足を取られて前のめりに倒れた俺に容赦なく式神が襲い掛かる。
式神『ふっふー、こんな千載一遇のチャンス、私が逃すとでも思ってました?』
俺『ちょ、や、やめっ』
式神、意外に力が強い。というか、あれか。体力まで俺のコピーなのか。
式神『いっただっきまーす』
俺『戻れ』
式神『げふっ』
俺は日頃から手に仕込んでいる小型化した衛府太刀を式神のお腹の下で復元させた。元の大きさに戻る太刀のさやがお腹にぶつかって弾き飛ばされる式神。
式神『くそー。またしてもかぐやちゃんのファーストキッスが』
俺『うるさい、この変態め』
式神『ふん。雪ちゃんを泣かせるようなやつに変態とか言われたくはないね』
俺『うっ』
完全な不意打ちを食らってうめき声を上げることしかできない俺。
式神『隙ありーっ』