百卅弐.そんな萌えとしか言えない表情で上目遣いに見つめられた私はこれから一体何をすることが正解なんですか?
かぐや姫との通信を一方的に切った雪は、すぐに遠見の鏡を伏せて箱に入れて部屋の隅に押しやってしまった。
どうしてかぐや姫にあんなふうな態度に出てしまったのか、雪自身にもよくわかっていなかった。冷静に考えてとても弁明のしようのない態度だと思う。ただ、落ち込んでいる原因を作った当の本人から力になると言われたことで、逆にふてくされたような気持ちになってしまったのだ。
式神「どうしたの、大きな声を出して」
雪「……、式神さま」
不意の式神の来訪に、雪は姿勢を正す余裕もなく、ただ涙にうるむ目で力なく式神を見上げた。
式神「そんな萌えとしか言えない表情で上目遣いに見つめられた私はこれから一体何をすることが正解なんですか?」
雪「何をおっしゃっているんですか?」
式神「なんでもないです」
改めて見た式神の姿は全くかぐや姫とそっくりだった。くつろいでいる時の態度や表情や話し方などがかぐや姫と全然違うところで式神を区別できるだけで、黙って座っているだけなら雪でさえかぐや姫との区別はつかないだろう。
そんな式神をじっと見つめていると、自然と涙腺が緩くなるのに雪は気づいて、慌てて目を伏せた。
雪「あ、あの……、あの、式神さま」
式神「ん?」
雪「こ、こちらに来て座っていただけませんか?」
式神「いいよ。どうしたの?」
雪「……」
式神は雪に手で示された辺りに腰を下ろしたが、雪はそのまま何も話さずうつむいたままだった。
そんな雪を見た式神は、何も言わずただ開け放たれたままのふすまの外に広がる夜空を見つめたまま、時間が過ぎていくのをじっと待っていた。
それからどれだけ経っただろう。夜が更けてうとうとし始めた雪は、やや強引に式神に膝枕されてすやすやと眠りについていた。一方の式神は、まんじりともせずに夜空の一点を見つめ続けていた。まるで何かを待つように。
真夜中を超えて丑三つ時に差しかかろうとする頃、式神が見つめる空の一点に動く光の点が現れた。
式神「やっと来た」
光の点はどんどん近づいてきて、やがて庭へと降り立った。
俺「雪っ!」
懐かしさを感じる住み慣れた我が家の庭へと降り立った俺は、一目散に雪の部屋へと駆け出そうとした。その時、
式神『ここから先に行かせはせんっ!!』
俺『式神、お前、なんでここに?』
式神『この先に進みたければ、私を倒して行くがよい』
俺『おまっ、何ふざけてんだよ』
式神『ふざけているかどうか、その身体で理解してみるがよい』
式神「別雷の名により、我が敵を滅す」
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