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百卅壱.心の距離

 その日もいつものように遠見の鏡で雪の部屋にテレビ電話をかけた俺は、雪の様子がいつもと違って落ち込んでいるような気がした。


 俺「雪、どうしたの?」

 雪「何がでしょうか?」

 俺「何か、いつもと違って落ち込んでるみたいだけど。公卿たちに課題を説明するときに何かトラブルでもあった?」

 雪「いえ、式神さまが立派に代理をなさったお陰で、公卿の皆様は納得なさったようでした」

 俺「そう。じゃあ、他に何か?」

 雪「……なんでも、ありません」


 おかしい。雪のこういう表情はこれまで見たことがない。基本的に雪は裏表なく一途に向かってくるタイプで、こんなふうに隠し事があるような表情はしたことがなかった。


 俺「なんでもなくないでしょ」

 雪「……か、……、かぐや姫さまには関係のないことです」


 あやしい。完全に挙動不審だ。


 俺「ね。悩みがあるなら相談してよ。なんだって力になるよ」

 雪「だから、悩みなんてないんですって」

 俺「そんな顔をしてそんなことを言われても説得力ないよ」

 雪「私がどんな顔をしてたって、かぐや姫さまには関係ないじゃないですかっ」

 俺「……、そんな言い方ないじゃない。心配してるだけなのに」

 雪「余計なお世話です」

 俺「…………」

 雪「……」


 俺は内心、ひどくショックを受けていた。もしかしたら顔にも出てしまっていたかもしれない。でも、そんなことに意識を向ける余裕もないほどショックだった。


 例の歌会の失敗で雪につらくあたった翌日、謝ろうとする俺の機先を制していつもと全く変わらない様子で接して来た雪に対して、俺は今まで以上の安心感を雪に感じるようになっていた。今回の旅に雪を連れて来なかったのも、雪ならきっと俺の意図を汲んで、頼りない式神のフォローを万全にやってくれると思ったからだ。


 だけど、今はその判断が恨めしい。出雲と平安京の距離が、俺と雪の心の距離を遠ざけてしまったようだ。


 雪「これ以上、話すことがないようでしたら、今日はこれで。おやすみなさいませ」


 雪はそう言って一方的に通信を切ってしまった。


 俺「もしもし。雪、雪?」


 俺はもう一度遠見の鏡を接続しようとするが、画面には真っ暗な絵が映るだけだった。多分、雪が向こう側の遠見の鏡を伏せて箱にしまってしまったのだ。


 (雪……)


 俺はそのまま、しばし呆然と座り込んでしまった。


 (一体、何があったんだ)


 ようやく思考能力が回復してきた俺は、式神の記憶を覗けることを思い出して、雪の異変について式神が何か知っていないか見て見ることにした。


 (こいつ、雪のうなじばっか見てるじゃないか。何やってんだ……。愛のムチって、おい……。あ……)


 予想通り式神の記憶はろくでもないことばかりだったが、その中で雪が小声で呟いた言葉を俺は見逃すことはなかった。

月曜は祝日のため、更新はお休みさせてください。次回更新は水曜になります。

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