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百廿玖.なんでもほしがるかぐやちゃん

 ようやくかぐや姫が結婚に前向きになったと聞いて、爺と婆は大喜びした。しかし、結婚の条件の話をすると急に顔を曇らせた。


 とはいえ、それでもそれまで全く気のない素振りであらゆる誘いを断り続けてきたのだから、見ようによっては進歩と言えるのかもしれない。爺と婆は複雑な気持ちで翌日の午後を待つこととなった。


 かぐや姫の屋敷に真っ先に到着したのは石作の親王だった。親王はかぐや姫が求婚を受け入れたと早合点してまるで結婚式に臨むかのような豪華な一行で訪れて、後4人の公卿が招待されていると聞いて憮然としていた。


 ややあって、右大臣と中納言が相次いで訪れた。2人は、親王の牛車が必要以上に飾り立てられていて、おつきの人数も多い様子を見て、親王が何を勘違いしたかを悟ったらしく、憐れむような視線を親王に向けていたが、親王がそれに気づくことはなかった。


 さらに待っていると、大納言からの使者が到着し、仕事が長引いているので少し遅れるとの連絡を受けたが、それから10分もしないうちに大納言が到着した。使者を送り出してすぐにトラブルが解決し、大急ぎで追いかけたのだそうだ。着替える余裕がなかったのか、内裏に参内していたときの服装のままでの訪問だった。


 4人が到着してからたっぷり1時間も経って、ようやく関白が到着した。先についていた4人は呆れ顔であったが、当人は全く気にする素振りも見せずに堂々と上座に着席した。


 親王「今日のファッションは随分と豪華で時間の掛かるもののようですな」


 関白が着席するやいなや、すかさず親王は軽く皮肉を浴びせた。


 関白「親王さまこそ表のお車の豪華さ、私には到底及びもつきません」


 が、親王は自分がどんなファッションでここを訪れていたのかを思い出させられて、逆に赤面させられるだけだった。


 親王と関白のやり取りは、それまで比較的和やかにしていた右大臣、大納言、中納言の3人にもこの会合の趣旨を思い出させて、以降誰も口を開くことなく、唾を飲み込む事すら憚られる緊張感の中でかぐや姫の到着を待つこととなった。


 雪「式神さま。全員お揃いになりました」

 式神「んー。分かったぁ。起こしてー」


 雪は直前までごろごろと転がっていた式神の手を引いて起こすと、その手を引いて5人の公卿が待つ部屋へと連れて行った。


 公卿の待つ部屋は半透過性の御簾で仕切られて公卿たちはかぐや姫を直接見ることはできないようになっていた。これは、以前の歌会での惨事を反省してのことである。しかし、彼我の身分差のことを考え、かぐや姫の座が公卿たちの座よりも高くなることはないように作られていた。


 かぐや姫はそのように設えられた席へと雪の案内で着席し、雪はすぐに脇へと下がっていった。これからのことは、すべて式神に一任で雪は脇から見守ることしかできない。これまでの経験から式神のことを信頼している雪も、目の前に集まる公卿の方々の貴さを思うとはらはらどきどきとせざるを得なかった。


 式神「皆様、本日は急なことにも関わらずお集まりいただきましてありがとうございます。すでにご存知のことかと思いますが、私の結婚につきまして多くの方から求婚頂きまして、正直な所1人を選ぶのに選びかねております。そこで、私がただ今欲しいと思っているものをお一人お一人にお伝えしますので、それをいち早く手に入れた方の元へと嫁ぐことに致したいと思う次第です」


 そのように述べ、式神は5人の公卿に対して、それぞれの品物を伝えた。それに対する5人の反応は5者5様であった。


 親王は仏の御石の鉢と聞いた時、何かを納得したように首を縦に振り、勝ち誇った様子でにやにやと笑って他の4人の課題を聞いていた。


 右大臣は火鼠の裘を聞いて、それは何かと尋ね、品物の特徴を詳細に聞いた後に深く考えこんでしまった。


 大納言は龍の頸の玉と聞き、龍の住む場所について幾つかの仮説を立て、必ずや手に入れて見せます、と大見得を切った。


 中納言は燕の子安貝という課題にややほっとした様子であったが、その詳細を聞いて容易に手に入らないものであることを理解すると、表情を引き締めた。


 関白は蓬莱の玉の枝の説明を受けた後も、全く顔色を変えずに淡々としていた。そして、なんでもないことを引き受けたかのように、儀礼的な受け答えを返したのだった。


 式神「では、皆様、大変困難なことかと思いますが、ご健闘をお祈り申し上げます。品物が手に入りましたらすぐにご連絡ください」


 そのように言って、その日の会合は解散となった。

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