百廿漆.岩戸隠れ
天児屋(大国主、開けるぞ)
ガタガタ
先に走りだした天児屋が障子を開けようとするが、障子はガタガタ音を立てるだけで1ミリも動く気配はない。
天児屋(おい、大国主。ここ、開けろよ)
大国主(嫌だ。もう怖いのは懲り懲りだっ!)
(あー……)
俺のせいか。昨日の「いいこと」がトラウマになったらしい。天児屋の方はどれだけやられてもぴんぴんしてるのに、同じ神様でも随分違う。
天児屋(何言ってるんだ。巨乳のお姉さまに責められるなんて、冷静に考えたら一種のご褒美じゃないか)
違った。天児屋が変態なだけだった。
俺(大国主、聞きたいことがあるんだ)
大国主(ひぃっ)
俺(お前の持ってるDVDは……)
大国主(みっ、みゆきちゃんは渡さないぞっ! この部屋は僕の持てる力を結集した結界が張ってあるんだ。入れるもんなら入ってみろっ!!)
俺(いや、俺は○○キ○アには興味……)
大国主(そっ、そうやって僕も天児屋みたいに使い魔にして、みゆきちゃんを僕から奪い取るつもりなんだろ。絶対に許せないっ!!!)
違った。大国主はトラウマじゃなくて、若干被害妄想のあるオタクだった。後、そのセリフはシリーズが違う。
俺(だから、俺は……)
大国主(あー、あー、きーこーえーなーいー)
そう言ったかと思うと、大音響で某アニメのオープニングテーマが流れ始めた。大国主がDVDを再生したのだ。
天児屋(これじゃまるで岩戸隠れじゃん)
俺(なら、墨に裸踊りさせるか)
墨「ええっ!! なんでですかっ!?」
天児屋(裸踊りならご主人さまの方がいいですっ)
俺(なんでだよ。大国主は巨乳には興味ないんだろ?)
天児屋(天照は天鈿女の裸が見たくて出てきたんじゃなくて、外が楽しそうだから出てきたんだよ。そんな貧乳を見たって、僕は全然楽しくないよ)
俺(ほぉ、じゃあ、もっと楽しい「いいこと」をここでしてやろうか)
天児屋(ご、ごめんなさい、もう、生意気なことは、いいません、許してください)
まあ、ここで「いいこと」をしたら、大国主をさらに意固地にさせるだけだし、今日はおとなしく引き上げよう。明日になれば気が変わってくれるかもしれない。
ところが、大国主は翌日になっても、その翌日になっても、結界の外に出ることはなかった。昼間はきちんと仕事をしているのだが、ご丁寧にいつの間にか廊下にまで結界が伸ばされていて、移動中の大国主に近づくこともできなくなっていた。さすがに仕事の邪魔をするのもはばかられるので、仕方なく、大国主の怒りが解けるまで俺は杵築大社に滞在することとなった。
俺(でも、それだとあの可愛い奥さんも大国主に近寄れないんじゃないの?)
天児屋(すせり姫は結界をすり抜けられるようにできてるみたいだよ)
俺(……、くそリア充め)
岩戸隠れの時、天鈿女という女神が裸踊りをして、集まった神々を笑わせたという記述が古事記にあります。爆笑させるほどの裸踊りってなんなんですかね……