百廿参.隠れヲタ
俺は大国主と「いいこと」をした後、それは立派な部屋を用意してもらってそこに逗留することになった。ちなみに、大国主はさすがに使い魔にはならなかった。ぶたになっても大国主ということだろう。「僕のご主人さまはみゆきちゃんだけだっ」などと意味不明なことを言っていたような気がするが、きっと気のせいだ。
気がついたらもう夜になっていたし、お腹も空いていたので夕飯を用意してもらってその日はそれで寝ることにした。寝る前に雪と話したらあっちはあっちで面倒なことが起きそうな気配だが、面白いことを思いついたので時間を見つけてそっちのことも考えて置かないと。
天児屋(ねぇ、ご主人さま。ぼ、僕もそっちで寝たいな)
俺(そうだね。そこからちょっとでもこっちに来たら、○○○○を○○○○して○○○○が○○○○になるまで○○○○してあげるよ)
天児屋(ひぃっ)
就寝前の諸注意を天児屋に再確認してから、なぜか涙目になっている墨を抱っこして、素晴らしい猫耳の感触に癒されながら俺は眠りに落ちた。
翌朝、長距離の飛行で疲れていたのか、日が上がってから起きて遅めの朝食を取りながら天児屋に大国主のことを聞いた。
天児屋(ニートって何だ?)
俺(要は働けるのに働いてない人のことだよ。お前みたいな)
天児屋(なっ、ぼ、僕だって、は、働いてるさ。……、時々)
俺(神社でいたたまれなくなって、下界に降りて人の話を盗み聞きするお仕事でしょ)
天児屋(ううう、うるさいっ。それが何だっていうんだよ)
俺(だから、大国主はニートなのかって聞いてるんだよ)
天児屋(お、大国主は、仕事してるよ)
俺(えっ、あれで?)
天児屋(毎日きっかり5つから7つまでしてるよ。一瞬たりとも早く始めないし、一瞬たりとも延長しないってことで有名な神さまなんだよ)
(どこの地方公務員だよ、それは)
きっと終業時刻の後はプライベートだからって飲み会にも行かないで家に直行して録画したアニメとか見てるタイプなんだろうなと思ったところで、大事なことに気がついた。
(ていうことは、大国主と話をしようと思ったら夕方まで待たなきゃダメってことか?)
朝食の後は、大国主の仕事の様子を見てみようと天児屋に案内させて執務室を覗きに行った。
俺(……すげっ)
そこで見たものは、俺の想像をちょっと超えた光景だった。どうせ大国主が仕事してるとか言っても、仕事と称して新聞を読んだり携帯をいじったり(比喩的な意味で)している程度のことだろうと思っていたのだが、現実の姿は大国主の執務室から伸びる長蛇の列だった。
俺(あれ、何だ?)
天児屋(地方神の陳情の列だよ)
俺(マジで!? 春日神社でもあんなの見なかったぞ?)
天児屋(当たり前だろ。春日神社はもっと高尚な神社だから地方神の陳情なんて下っ端の仕事はやらないんだよっ)
(そういえば、武甕槌に初めて会った時、出雲がどうたらと言っていた記憶があるけど、これのことを言っていたのか)
俺(大国主はただの萌豚だと思ってたけど、お前よりずっとまともな神さまなんだな)
天児屋(ふふふ、どうだ、参ったか……、って、今、僕のことバカにしなかった?)
俺(何を言ってんだ。今に始まったことじゃないだろ)
天児屋(キィィィィッ)
悔しそうにしている天児屋を尻目に、大国主と話をするのを諦めた俺は屋敷の中を探索しはじめた。特に何か目的があるわけじゃなくて、単に暇つぶしだ。何か面白そうなものはないかなと……
(ん? 誰かいる?)
5つは午前8時で7つは午後4時です。労働時間8時間、休憩込み、残業なしです。