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百廿弐.五人囃子

久しぶりの雪視点です。

 雪「はい。ありがとうございます」


 式神から書き直したふみを受け取った雪はにっこりと微笑んだ。


 かぐや姫が旅の空に発ってから半月ほど経って、かぐや姫のいない生活にも式神の扱いにも慣れてきた。かぐや姫が警告した式神の文の問題も、ちゃんと目を通してあまりにひどい時は書き直させるようにしたせいで、ダイレクトなダメージを負う貴族も減ってきたようだ。


 それに対抗して式神も際どいところを突くようなやり方を工夫してくるので、可哀想な貴族は相変わらずいるにはいるが、あからさまなものでないと雪も指摘しづらいし、どっちみち誘いを断る必要があるのである程度は黙認している。それが功を奏したのかどうか分からないが、徐々にかぐや姫に対する求婚の数は減ってきていた。


 (あ、またこの方だ。熱心だなー)


 そんな中でも、熱を失わずに求婚を続けてくる貴族が何人かいた。そういう貴族は決まって身分の高い貴族で、むしろ彼らが大っぴらに求婚をしているせいで、身分の低い貴族が遠慮するという構図もできあがりつつあるようだ。もっとも、その辺の事情は屋敷に籠っている雪には伝聞情報でしか伝わってこないが。


 (でも、最後まであきらめなかったら、かぐや姫さま、どうなさるのかな?)


 今では雪はかぐや姫が結婚に後ろ向きなことはわかっているし、それがかぐや姫の望みならと協力を惜しむつもりはない。しかし、他の人たちは当然かぐや姫が今求婚されている人々の中から誰かを選ぶのだと思っている。特に爺と婆は頻繁に雪にかぐや姫の心境を雪に確認してくるのだ。


 今はまだそれなりの人数の求婚があるから、心が決まっていないとか言ってごまかせるけど、全員諦めて最後の1人とかになったらさすがにごまかせなくなってしまう。雪は自分が矢面に立つことを厭うつもりはないが、かぐや姫自身に何か不都合があったらどうしようかと悩んでしまう。


 俺「ちなみに、最後まで残りそうなのは誰かしら?」

 雪「石作の親王さまは大変積極的で、1日に何通も文をくださいます。大納言の大伴さまも積極的で何度もご自身で文をお持ちになっていらっしゃいます」

 俺「その2人だけ?」

 雪「いえ。他には、関白の車持くらもちさまは毎回文をたいそうきらびやかに装飾なさっていて、右大臣の阿倍さまはどこから手に入れなさるのか毎回触ったこともない手触りの紙に文を書いていらっしゃいます」

 俺「う、関白殿か……」

 雪「かぐや姫さまは関白さまが苦手でいらっしゃいますか?」

 俺「うーん」

 雪「後1人、中納言の石上さまはそのような派手さはございませんが、式神さまのお手紙に誠実にお返事なさっているようです」

 俺「式神の手紙に誠実に返事!? そんなことが物理学的に可能なの?」

 雪「ぶつりがくてき、というのがどういう意味かわかりませんが、式神さまは面白そうにお返事を書いてらっしゃいます」

 俺「……そうなんだ。他には?」

 雪「最後まで残りそうなのはその方たちだけだと思います」


 かぐや姫はそこまで聞くと額に手を置いてしばらく考え込んだ後、何か面白いことを思いついたような顔をした。


 俺「雪、文を送っていらっしゃるのが5人だけになったら私に教えてくれる? ちょっと考えがあるから」

 雪「はい、わかりました」


 それ以上はかぐや姫は何も言わなかったので、雪はかぐや姫が何を考えているのかわからなかったが、きっと雪には思いもつかないようなことを考えているのだろう。


 式神「雪ちゃん、何考えてるの?」

 雪「あ、式神さま」

 式神「悩み? 相談乗るよ?」


 かぐや姫との話が終わった後、しばらくかぐや姫の考えに思いを巡らせていた時、式神が雪の部屋を訪ねてきた。式神は部屋に入るやいなや床に寝転がってころころ転がりながら雪の膝下まで近づいてきた。


 雪「いえ、なんでもありませんよ」

 式神「本当? そんなふうには見えないけど……」

 雪「大丈夫ですよ。そんなことよりこんな時間まで起きていらっしゃっていいんですか?」

 式神「あ、わかった。例のなんとかの民部みんぶとかいうやつがしつこいんだね」

 雪「いえ、まさか、そんなこと……、ありますけど……」

 式神「わかった。じゃあ、次の文が来たら、返信は私に書かせて。二度と返事を書こうなんて気力も奪ってあげるから、大丈夫だよ」


 実のところ旅のかぐや姫に心配をかけさせたくないと思って遠見の鏡では相談してはいなかったものの、雪に対する求婚もしつこいものがあって、かぐや姫に一生尽くすつもりの雪はそういう求婚にどう対処したものかと困っていたのだ。


 (かぐや姫さまは悪く言うけど、式神さまも優しくていい方ですよね)


 雪が式神に対する好意的な認識を強める影で、式神はごきげんににやにやとしていた。最近、雪の監視が強くなって自由に和歌を作っていなかったけど、久々に全力を出せそうだと。

雪に迫っているのは民部省の長官である民部卿の想定です。官職としては正四位下相当ということで、雪の身分からするとかなり上位になります。まあ、今後、登場機会があるかどうか分からない小物なので覚えなくていいですけどね。

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