百拾弐.うわさ話
俺(で、未来に行く方法なんだけど)
天児屋(これ、絶対に僕が言ったって言っちゃダメだからな)
俺(うんうん。分かってるよ)
天児屋(あと、その「いいこと」は絶対だからな)
俺(分かってるって)
しつこく念を押してくる天児屋にちょっと面倒くさくなりながら答えてやると、天児屋はようやく納得したようだ。
天児屋(実は、何百年か前に天照が倒れたことがあって、その時は高天原と葦原中国を巻き込んで大騒ぎになったことがあったんだけど、その原因が時間転移魔法じゃないかって噂があったんだよ)
その話で俺は以前聞いた月☆読の話を思い出した。確か、時間転移をすると魔力を使いすぎて数百年身動きが取れなくなるとかなんとか。
俺(って、天照が倒れたら太陽が登らなくなるんじゃないのか?)
天児屋(んー、そうかも知れないんだけど、その時にはなぜかそういうことにはならなかったんだよね)
俺(何だそれ)
天児屋(神さまでもわからないことくらいあるんだよっ)
逆ギレする天児屋。どこまで行っても子どもだな、こいつは。
俺(分かったよ。で、その噂はそれで終わりなのか?)
天児屋(それが、時間転移魔法には出雲の大国主が1枚噛んでるとか噛んでないとか)
俺(どっちだよっ)
天児屋(噂だよ、噂)
俺(ふーん。で、どうしてそれがそんなに重要な秘密なんだ?)
天児屋の話は面白かったが、どうしてこんな程度のうわさ話をするのにこんなに勿体つけるのか納得がいかない。ただの意地悪じゃないのか?
天児屋(うー、絶対言うなよ)
俺(分かってるって、しつこいな)
天児屋(その事件があってから、武甕槌がこの神社に赴任してきたんだけどさ、あいつにこの話をするとめちゃくちゃ不機嫌になるんだよ。それが怖いのなんのって……)
顔が青ざめて、身体がぶるぶると震える様子を隠す気もない天児屋の様子からして、相当怖かったのだろう。
天児屋(すっごい怖い目で、「天児屋命よ、今すぐそのくだらないおしゃべりをする口を閉じないと、根の国の岩を飲ませて口を縫い付けるぞ」とかって言うんだよぉ。あれは絶対、本気で殺る目だよぉ)
当時のことを思い出したのか、歯の根をガチガチ鳴らして涙まで流し始めた。
俺(あー、分かった、分かった。もう分かったから)
天児屋(えーん)
なんかかわいそうになって、天児屋の側によって頭を撫でてやった。天児屋は心細くなったのか俺の身体にしがみついてきて胸のあたりに顔を押し当ててきた。肩が震えているところをみると、まだ泣いているのだろう。
天児屋(うへへへへ。おっぱいだ)
俺(死にくされ)
ガッ
天児屋はやはり天児屋だったことを確認できたので、脳天に全力のげんこつを一発くれてやったら、カエルのように潰れて伸びてしまった。