百玖.緊急事態
俺(じゃあ、千利休もいたりするのか?)
天児屋(は? 誰だそれは?)
俺(千利休はダメか。なら、栄西は?)
天児屋(だから、何を言っているのだ、お前は?)
千利休はご存知茶道の大家で、栄西は日本に茶を持ち込んだとされる人だ。この2人を知らないということは、神さまの世界のお茶は人間界とは違った発展をしているってことだろうか? 少なくとも、神さまの世界のお茶が人間界の未来から持ち込まれたものではないということだ。
天児屋(とにかく、お茶が飲みたいんだな。じゃあ、ちょっと待ってろ)
そういうと、天児屋はふいっとどこかへ行ってしまった。
(ちょっ、慌ただしいやつだな)
墨「あ、あの……」
俺「ん?」
墨「おしっこ」
俺「何!?」
しまった。そういえば、墨は途中休憩でおしっこをしていなかった。昔は猫の時の習性が抜けていなくて庭の土を掘り返して用を足していたのだけれど、さすがにそれは厳しく躾けて今は普通にお手洗いを使うようになっているのだが、ここでお手洗いがなければまた猫の時に逆戻りだ。
(仕方ない。天児屋を待たずに少し探させてもらうか)
人の家を家探しするようで気が引けるが、手遅れになるとまずいからその辺を歩いて見ることにした。誰もいない山中ならともかく、こんなところでその辺の土を掘り返してとかちょっとまずい。
そんなわけで、俺と墨は天児屋に案内された部屋を後にして建物の中をあちこち歩きまわり始めた。しかし……
(うーん、こっちも違う。もしかして、神さまはお手洗いとかいらないのか?)
ありそうな話で怖い。まだ墨はしばらくは我慢できそうだけど、限界になったらどうしよう?
(お、こっちは渡り廊下か)
どんどん元いた部屋から離れていっている気がするが仕方ない。とにかくお手洗いを探すのが先決だ。
渡り廊下を渡った先は小さな建物でそこにもお手洗いはなかったが、さらにそこから別の建物へと渡り廊下が伸びていて、それを伝って更に別の建物へと渡り歩いていった。
墨「かぐや姫さま……」
廊下をどんどん歩いて行くと、墨が俺の裾を引いて身体を後ろに隠すようにしたので、もしかして限界が近いのかと思ったが、どうやら廊下の向こうから何かが近づいてくる気配がしたのに警戒したようだった。人のようだがここに人がいるとは思えないので別の神さまなんだろう。
付き人1(閣下、こちらはどのように?)
閣下(それはもう不要だ)
付き人1(は、そのように)
付き人2(高天原の方から使者が参っておりますが)
閣下(後で行く。待たせておけ)
付き人3(下総の神々からの陳情が)
閣下(またか。そういう話は出雲の方に回してくれ)
(あれは…………?)
おつきの人を何人も連れて、歩きながら聖徳太子みたいに次々と返事をしている神さま(?)がこっちに近づいてくるけど、あれはなんだろう?
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