百漆.男子禁制
がさがさと林の木々が風に揺れたと思ったら、不意に目の前に現れたのはちびっこい男の子だった。
チビ(あれ? 郵便屋さんは?)
俺(お前が、神さま?)
チビ(おっ、お前、誰だ?)
見た目はただのチビだが、念話で話しているから神さまなんだろう。だけど、こんなチビが?
俺(武甕槌さんと天児屋さんに会いたいんだけど)
チビ(男と子どもに用はない。帰れ)
俺(なっ)
俺が2柱の名前を出すと、チビは急に目を細めてそう言い放った。言うまでもなく男とは俺のことで子どもは墨のことだ。ていうか、自分自身子どもじゃないか。
俺(そんなこと言わないでね、僕。ちょっとお願いを聞いてくれるだけでいいんだよ。武甕槌さんと天児屋さんのどっちでもいいから会わせてくれないかな)
チビ(男が顔を寄せるな、気持ち悪いっ)
びゅっ
俺『ひっ』
危ない。顔を近づけた途端に、チビのやつがものすごく鋭い体捌きでいきなり手刀を打ち込んできた。危うく顔面で受け止めるところだったじゃないか。女の顔をなんだと思ってるんだこいつは。
はらり
と、避け切ったと思っていたのだが、どうやら烏帽子の先端にかすっていたらしく、束ねてしまっていた髪がほぐれて顔の横に落ちてきてしまった。
チビ(お、お前、まさか女か?)
チビは不審そうな目で俺をじろじろと見てきた。男か女かがそんなに大切なんだろうか? もしかして神社の中には巫女さんしか入れないとかそういう決まりがあるのか?
俺(ちょっと、お前、どこ見てんだよ)
チビ(……)
チビのやつ、さっきから俺の胸を凝視していやがる。なんか、邪まなオーラを感じるのは俺だけだろうか?
チビ(むーん。とぉっ)
ぷちっ、はらり
チビが右手を指2本立てて何か集中して十字を切った思ったら、狩衣の下で俺の胸を押さえていたさらしが切れて外れてしまい、押さえるもののなくなった胸は狩衣の上からでも分かるほどに自己主張をするようになった。
俺(ちょぉっ)
チビ(おおぉぉぉっ。巨乳だぁぁぁぁ)
俺(てっ、てめっ、どこ触ってんだ、こんにゃろ。チビだと思ってたらっ)
ゴツン
どさくさに紛れて胸を触ってきたので、俺はチビの頭にげんこつを落としてやった。怯んだ隙に頭をロックしてげんこつでこめかみにぐりぐりとやってやる。某幼稚園児が日常的にやられているあれだ。全く、天照といい、神さまというのはこんなのばっかなのか。
俺(ねぇ、僕? いい加減、武甕槌さんと天児屋さんに会わせてくれないかな?)
ぐりぐりぐりぐり
チビ(痛い痛い痛い。おっぱいが当たって気持ちいいけど、痛い)
俺(余裕だな。むしろ、いっぺん死ぬか?)
チビ(待て待て、ぼ、僕が天児屋だっ)
俺(はあ?)




