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百陸.古の都

 「暑っ」


 皆さんは空を飛ぶ鳥はきっと風を全身に受けて涼しいだろうときっと思っていることだろう。実のところ俺もつい最近までそう思っていた。そして、それが間違いだということを今、身を持って体験しているのだった。


 考えてみよう。夏の炎天下、日陰の全くないどこまでも続く真っ直ぐな道を全力疾走で走り続けた時、その風は涼しいだろうか? あるいは、そよ風の吹く真夏の炎天下、日陰のない屋外で椅子に座り続けるのは涼しいだろうか? きっと直射日光に肌がちりちりと焼け、全身からは滝のように汗が流れ、身体が水を欲するようになるに違いない。


 何の話? 俺は今、旅の空にいる。文字通りの空だ。平安京を離れ、八咫烏の羽を羽ばたかせて一路南へ、奈良の都に向かっているのだ。灼熱の真夏の炎天下の空を。いや、正確には残暑だけど……。


 (喉乾いたよー。一旦、降りようかなー)


 旅の荷物は極めて軽装だ。大体のことは魔法でなんとかなってしまうから、例の木箱とその他少しの魔法具を布に包んで背中に括りつけている。ちなみに飲み水は魔法ですぐに生み出せるから水筒の類は持っていない。ならば、空中で水を作って飲めばいいと思うかもしれないが、そこには大きな問題があった。


 俺「墨、お前は暑くないのか?」

 墨「zzz」


 俺の腕の中には墨がいるのだ。両手が塞がれていては魔法が発動できない。それにしても猫という生き物はどうして炎天下の直射日光の下で気持ちよさそうに寝ることができるんだろう? いや、それは墨だけか。


 結局、俺は喉を潤すのと用を足すのとで一旦休憩を取ることにした。あー、一応俺も女の子なので道端で用を足すのはちょっと抵抗があったんだけど、仕方ないじゃないかっ!


 さて、そもそも一体どうして俺が奈良へ行こうと思ったのか、それは俺の裳着の祝宴の最終日の事件に遡る。あの時、俺はこの世界が自分の本来いるべき場所じゃないことを痛感して、心の底から現代に帰りたいと思った。だけど、天照はまだ当面俺を現代に帰してくれるつもりはないようだ。


 なら、自力で現代に戻る方法を探してみよう。


 もちろん、そんなうまく事が運ぶとはかぎらないので、もしかしたら何も得られないかもしれない。でも、やってみるくらいやってみてもいいんじゃないか。その過程で天照が何を求めているのかも分かるかもしれないし、そうすれば天照に俺を現代に帰させることができるかもしれない。


 そうと決まったらまずは情報収集だ。これまで神とか魔法とかの情報はほとんど天照を介したものしかなかったけど、もっと他の情報源にもあたってみたい。できれば天照と月☆読以外の神さまにも会って話すことができればいい。そう思った俺は奈良へと向かうことにした。


 奈良。それは平安京へと都が移る前まで日本の中心だった場所だ。都が移った今でも奈良が中心だったころの制度があちこちに生きている。その中でももっとも重要なのが春日神社という神社で奈良という地域を実質的に支配している領主のような存在である。


 そして、俺は今、春日神社の前に立っていた。


 (さて、ここまで来てみたはいいけど、どうやったら神さまに会えるのかな?)


 これまで会ったことのある神さまは天照と月☆読の2柱。どちらも向こうから声をかけてきたわけで、こちらから声を掛ける方法なんて知らなかった。


 (えっと、神さまは音声じゃなくって念話で話をするんだったよな。なら、念話で呼んでみたらいいのかな)


 春日神社に祀られている神さまはいくつかいるが、有名所は武甕槌命たけみかづちのみこと天児屋命あまのこやねのみことの2柱だ。武甕槌の方は藤原氏の氏神で天児屋の方は藤原氏の祖先神として知られている。なら、とりあえずその2柱に呼びかけてみよう。


 俺(ごめんくださーい。武甕槌さんと天児屋さんはいらっしゃいますかー)


 返事はない。うーむ。そう簡単には出てきてくれないか。


 俺(すいませーん。郵便局のものですけど、書留が届いてるんですが、サインかはんこを……)


 とか言って、出てくるわけない……


 (はいはーい。今行きまーすっ)


 出てきたし。

復帰しました。第3章開始しました。いきなりかぐや姫が平安京を離れてしまいましたが、第3章はかぐや姫が旅行します。まずは奈良へ。


奈良はかなりの部分が藤原氏の荘園で、それを春日神社が束ねるという構造になっていて、ほぼ実質的に藤原氏が春日神社を通して支配しているという状況になっていました。


ところで、猫は、暑がりな猫もいるんですが、たまに嬉々として真夏にひなたぼっこをする猫もいますよね。あれはどういう神経をしているんでしょうね。

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