第1章 脱出
西暦722年
夜は冷たく重苦しかった。空は紫がかった色に染まり、鉛色の雲が濃く垂れ込めていた。遠くから兵士たちの鬨の声、あるいは犠牲者たちの絶望の声が聞こえてきた。数少ない松明の薄明かりに照らされた岩だらけの道の静寂を破るのは、戦いの喧騒だけだった。
暗い道の真ん中を、一人の人物が走っていた。
彼は顔を含む全身を覆う巨大な外套を羽織っていた。さらに夜の闇が重なり、誰なのか見分けることはほとんど不可能だった。外套の下には、その人物が何かを運んでいるのが見えた。目の前には大きな物体があり、息の限り必死に走りながらも、しっかりと腕に抱え、非常に慎重に運んでいるようだった。
走れ!女王がそこにいる!後ろにいる!
フードをかぶった人物は叫び声の方向を見やると、前方の丘の上に兵士たちの集団を見つけた。彼らはウィルフォードの兵士、つまり人間だった。重厚な青銅の鎧を身にまとい、兜と盾には王家の紋章――小麦の茎でできた冠――が刻まれていた。
「我が軍に襲われるとは、なんと皮肉なことか」フードをかぶった人物は独り言を言った。
「忌々しい魔術師め!彼女を捕まえろ!」兵士たちのリーダーらしき人物が叫び、他の兵士たちは丘を駆け下りて女へと駆け寄った。
しかし、彼女はひるまなかった。彼女はそこに立っていた。
「逃げたら…逃げる場所などどこにもない。他に道はない。アルゾリアには戻れない。進むしかない。」
兵士たちは剣を抜いて近づいてきた。フードをかぶった人物は立ったまま、ただ右手を上げた。それだけで、一部の兵士は退却した。
「いや、待て!」兵士たちは前進を続ける者たちに向かって叫び、退却した。
– ファヤ・ミット・クル – 女がそう言い終えるやいなや、目の前の兵士たちの周囲に巨大な炎の輪が浮かび上がった。
輪の中に閉じ込められた兵士たちは、女が通り過ぎて暗い道を逃げていくのをちらりと見ただけだった。
– ちくしょう! – 隊長らしき者が叫んだ。– あの忌々しいロザリアめ!
七年間魔法もキシュタル語も使っていないくせに、そんなに錆び付いているわけじゃない。ロザリアはそう思いながら走り続け、岩だらけの小道を抜け、目の前の深い森へと入った。
ここはアルバーの森に違いない。このまま行けば、すぐにウィルフォードの境界に着くだろう。
安全な距離にいるようだと分かり、ロザリアは木の幹に腰を下ろした。フードを外し、長く伸びた麦わら色の髪と、二つのルビーのように輝く赤い瞳を露わにした。火の魔法使いの間では、赤い目を持って生まれた者は計り知れない力を持つと言われていた。
「落ち着いて。連れ出してあげるわ」と彼女は言った。
小さな子供の泣き声が聞こえた。ロザリアは身を包んでいた外套を開けると、美しいドレスが姿を現した。豪華な白いレースのディテールが施された、空色のロングドレス。女王にふさわしい装いだった。そして、ウィルフォードからの脱出を始めて以来、彼女が大切に運んできた荷物、小さな布の包みが姿を現した。
ロザリアは慎重に包みを開けると、バラ色の頬、ブロンドの細い髪、そして母親と同じ赤く生き生きとした瞳を持つ、美しい幼い子供が姿を現した。
「私の小さなカイラ」ロザリアは悲しげな声で言った。「あなたは魔術師と人間が共存できるという証拠よ。なぜこんなことが起こるの?」
カイラは好奇心旺盛な小さな目で母親の目を見つめた。魔術師と人間がなぜ憎み合うのか、なぜ戦争をするのか、なぜ母親が権力の座から追放されたのか、そしてなぜ母娘が今迫害されているのか、理解するにはまだ幼すぎた。そのため、母親が考え深げに地平線を見つめ、そこで何が起こっているのか理解しようと無駄な努力をしている間、カイラはただ微笑んでいた。しかし、娘の無邪気な笑顔を前に、ロザリアも思わず微笑んでしまった。
「カイラ、君の言う通りだ。今はここから出なければならない。君の面倒を見なければならない。君は私の最後の『希望』だ。キシュタルでは君の名前がそういう意味だって知ってた?」
娘にそう言うと、ロザリアは立ち上がり、歩き続けた。走り疲れた足は、ほとんど立っていられなかった。しかし、ロザリアは痛みを無視し、以前よりも落ち着いて再び歩き始めた。
彼らは既に首都を脱出していた。運が良ければ、二日も経たないうちにウィルフォード領の国境の町、ヒルローゲン・ヒルに辿り着き、そこから王国の外へ出ることになるだろう。
その先に広がるのは、人が住めないと考えられていたゲナスの荒涼とした平原だった。怪物や野獣が跋扈する、荒涼とした土地。その先に何があるのかは謎に包まれていた。これまで誰も、この地を越えて戻ってきて、この物語を語り継ぐことはなかった。
しかし、今はそんなことは問題ではない。重要なのは、母娘がウィルフォードから生きて脱出し、どこか遠くで新たな人生を始めることができたことだ。




