プロローグ
『おまえなんて好きじゃない』
わたしの初恋は、いつもふわふわして幸せなものだった。
色に例えるとやわらかなピンク色。
その後ろ姿を見つけた瞬間、世界がバラ色に色を染める。
もう他のものなんて目に入らなくなるのだ。
『おまえなんて好きじゃない』
好きだと伝えるたびに返されるその言葉は何度も何度も聞かされたし、もう挨拶のようなものだと思って気にはしていなかった。
それに、耳を真っ赤くして唇を引き結ぶ様子にまんざら嫌がられていないことは知っていた。
『じゃあ、わたしがその分好きだって言うわ』
だからこそ、万に一つの可能性を信じて、わたしはひるむことはなかった。
明けない朝はない。
きっと朝は光を連れてくる。
そう信じて疑わなかった。だけど、
『本当に、無理なんだ。諦めてほしい』
あの雨の日、真っ暗な空の下で頭を下げられた。
深く深く。
大好きだったつやのある黒髪に水をしたたらせ、顔を一向に上げようとしないその姿を前に、少しずつ周りの音が聞こえなくなっていったのを感じた。
肌寒い日だなって思っていたのにいつの間にか感覚がなくなっていった。
こうして、わたしの小さな恋は終わった。
恋が終わったからと言って、すべてが終わってしまうわけではない。
わたしは前向きな方だし、少しは凹んでしまったってまた新しい希望を見つけて前を向けるはずだ。……そう思っていたのに、そうはいかなかったのかもしれない。
物心ついてすぐからの長い長い片思いだったため、意外と心の傷は大きかったのか、どうやら何もかも終わってしまったようだ。
何をしても朝がやってこない。
朝なのか昼なのか、夜なのかさえわからない日々は続く。
普通に生活をしているつもりでも、もう何も見えてくることはなかった。
徐々にわたしの世界からは色がなくなり、気づいたら深い深い闇の中に沈んでいく感覚を覚えた。
そんなに脆かったのかと自分でも驚いてしまうけど、どうやらそれから先、もとに戻ることはなく、いつの間にかそのまま命を失ってしまったらしい。
走馬灯さえ見ることもなく終えたわずか十五年の命はあっけなく散り、そうして次に目を覚ました時には、驚くほど一変した新しい人生が幕を開けたのだった。