第49話 わたしの記憶の大木くん
あれは8年前、夏休みを利用して葵さんのお家……つまりわたしが今住まわしてもらっているこの家へ泊まりに来ていた時期だ。
正直葵さんと何をして遊んだのかは覚えていない、何か普通じゃない少し危険な遊びだった気もする。けれど、脳というのは不思議で忘れるべき記憶は忘れるようにできているのかもしれない。葵さんと遊んだ記憶はあってもその内容は覚えていなかった。
それとも、その時出会った男の子との記憶が強いからそっちの方が印象に残っているのかもしれない。
「ヒマだなぁ、あおいちゃんはお外であそべないしぃ」
当時8歳だったわたしは、遊び相手が居なくて近所の公園で暇を潰していた。お家で出来る遊びには少し飽きていたし、外にいる方が楽しかったんだ。
3m程の大きな滑り台は1人で滑ってもまぁまぁ楽しくて、服の汚れも気にせず思いっきり滑っていた。
「うーん、あきた」
まぁまぁ楽しかったのだけれど、ソロの滑り台は3回くらいで飽きてしまった。
周りには4人の女子グループがいて、今からでも混ぜてもらおうかなとか思っていた。だけど年上っぽかったので少し怖かった。
そんな時、滑り台の着地点にある広い砂場で遊んでいる男の子を見つけた。短パンにTシャツ、いかにもって感じの小学生男子。けれど、同い年くらいの子が1人で遊んでいるのを見て、もしかしたらあの子もヒマなのかなって思ったんだろう。男子は少し苦手だったけど、話しかけてみた。
「キミもひとりであそんでるの?」
その子は急に話しかけられて少し驚いた様子だった。
「しー! 座って!」
静かにしろのジェスチャーをされ、言われた通りその場にしゃがみ込む。わたしそんなにうるさい声出してないのに。
男の子は滑り台の上を指指し、少し小声で予想外の事を言い出した。
「あの女の子のパンツの色を当てたら勝ち! オレは白だと思う」
「……はぁ?」
言われた通り上を見ると、今まさに滑り降りようとしている女の子の姿があり、その子はスカートを履いていて、無防備に滑ったら確かに丸見えだろうなと思った。
小学2年生にもなれば、スカートの中を覗いてはいけない事くらい分かっていた。そもそもわたしは覗かれる側の性別だし、理由は分からないけどパンツは他人に見られちゃダメだって意識はあった。
だけどこの男子はそんな常識を破る遊びを提案してきたんだ。
「ダメだよ! スカートの中を見るなんてダメ!」
「早く! 時間切れで負けだぞ!」
いいから早くパンツの色を予想しろと捲し立てられる。いつから勝負が始まっていたのか、そもそも負けたからなんだって感じだけど、時間切れという言葉に焦ったわたしはとりあえず色を言う。
「み、水色……」
わたしたちがパンツを見ているとも知らずに、女の子は思いっきり滑り台を降りる。彼女からしたらただ砂場で遊んでいるだけの存在だったのだろう、特に隠すこともしなかったのでしっかりと確認できた。
わたしの近くで着地をした女の子は、お尻を叩いて汚れを払うとまた滑り台を登っていた。
奇妙な遊びを提案した男の子と顔を見合わせる。
「わたしの勝ちだね……?」
「うわー負けたー! 水色かよー!」
男子は知らないと思うけど意外と白以外も持ってるんだぞ、とは流石に言わなかった。
「名前教えろよー」
「わたしは、咲百合。キミは?」
「オレは大木、明日もパンツ当て勝負しようぜ、またな!」
わたしに負けた大木くんは、それだけ言うとさっさと帰って行った。
あの女の子……水色のパンツを履いてるんだ……。
大木くんの存在よりもそっちの方が印象に残る。
隠されている部分を見てしまった罪悪感や高揚感でドキドキしていた。
人のパンツを見て、色を当てる遊びなんて絶対おかしいのに……退屈だったわたしには刺激的で、新鮮で。イケナイことをしているという感覚が楽しかった。
わたしが、同性の下着や身体を少し特別な目で見るようになってしまったのはそれがキッカケかもしれない。
普通は同性の下着なんて見ても何も思わないけど、幼少期に与えられた刺激というのは簡単に拭えなかった。




