第47話 わたしの匂い
友達の母親に誤解されてしまった……別にえっちな事とかはしてないのに……。誰も喋らないし気まずい。
「二人とも、仲良しなのはいいけど……鈴の見てるところではあんまり……ね?」
「ごめんなさい……」
凛ちゃん? 素直に謝ったらそういう事してたみたいになるじゃん!
「あの、本当にただ抱き合っていただけで……やましい事とかしてないですよ? ほら!」
左で物置と化していた凛ちゃんを抱き締める。これくらい普通のスキンシップですよと訴えるために。
「くるし……」
「ほら! 女同士なら普通です! はい、ぎゅ!」
凛ちゃんを離し、凛ママにも抱き着く。
一番テンパってるの……もしかしてわたし?
「ふふ、冗談」
わたしに抱き締められた凛ママが笑う。
「ちゃんと分かってるわ、ごめんなさいね。二人の反応が面白くてつい」
案外茶目っ気たっぷりな母上ですね。
「これからも凛や鈴と仲良くしてね」
「それは……もちろんです」
わたし、なんで友達のお母さんに抱き着いてるんだろう。
「えー!? 今度はお母さんとくっついてる!?」
トイレから戻ってきた鈴ちゃんが驚きの声を上げた。
凛ママから体を離し、鈴ちゃんを手招く。
「ほら、鈴ちゃんもおいで〜」
再び膝の上に乗っけて4人でゲームを再開した。正直ゲームより今のやり取りの方が疲れたよ。
ちなみにゲームの方は凛ママにも惨敗だった、なんだこの家族は、全員ゲーマーなのか。いや、わたしが下手なだけか……。
ほぼ毎回僅差で鈴ちゃんが1位、凛ちゃんが2位なんだけど多分上手いこと手抜いてるな? わたしは1回も勝ててないけど。
「それにしても咲百合ちゃん……」
凛ママから下手すぎて草とか言われたら流石にショックかも。
「本当に良い香りがするのね」
「えっあ、ありがとうございます……」
わたしの体からは結月家を虜にする成分が出ているらしい、なんか合法か怪しくなってきた。
「自分の匂いって分かんないんですけど……ちょっと恥ずかしいですね」
「言葉にするのは難しいけどなんか甘い匂いみたいな、香水っぽくもないし……不思議」
わたしからしたら、凛ちゃんの方がずっといい匂いなんだけどなって、一緒に保健室へ行ったあの日から思ってた。
「ただいま」
「ん、おかえり」
家に入るとまた葵さんと鉢合わせになった。
わたしも結月家みたいにこの家にもっと馴染みたい! なぜか住んでる家より結月家の方が居心地が良いと思ってしまったのだ。居候の分際で申し訳がない。
だから、葵さんに踏み込んでみることにした。
「葵さん……その、わたしってなんか匂いとかキツイ……?」
なんだろうこの、なんかめちゃくちゃ恥ずかしいことを聞いているような。
「え……別にくさいと思ったことはないけど」
とりあえずそれなら良かったけど。
「えっと、体臭が気になるの?」
「なんか友達にいい匂いってめっちゃ言われるから気になっちゃって」
「ふーん……ちょっとこっち来て」
「うん?」
言われた通り葵さんの前へ行く。
「ひゃ」
葵さんの顔が後頭部に近付き……うなじ……嗅がれてる……うわこれくすぐったい……。
「うん、別にくさくないよ。でもなんか……」
どこか歯切れが悪い言い方が気になる。
「なんか……?」
「なんか、他の家というか、他の女の子みたいな匂いがめちゃくちゃする」
「あ……」
それはそうだろう。凛ちゃんに抱き着かれ、凛ママにも抱き着き、鈴ちゃんをずっと膝に乗せていたのだ。結月家の香りが強く染み込んでいるのは明白だった。
「ほら、友達の家に居たから! その匂いだよ」
「ふーん……」
それだけ言うと葵さんは部屋に戻って行ったみたいだ。
なんか少しだけ上手く話せた気がする。気まずさも少なかったし、また仲良く話せるかも。
とりあえず夕飯の前にお風呂入ろうかな? 匂いは別に気にしてないけどね?
部屋に戻ってパジャマに着替えたけど、ふと気になり今日着ていた制服の匂いを嗅いでみる。
こ、これはすごい……。完全に凛ちゃん……いや、結月家の香りが付いている。やっぱりわたしの匂いなんか全然しない。
なんかこのまま学校行ったら同じ匂いがするって仲の良さも匂わせてるみたいにならないかな。……別に上手いこと言ったつもりはないけど。逆に凛ちゃんの制服にはわたしの匂い付いてないのかな?
まぁ周りに気付かれたらそれはそれでいいか。とりあえず夕飯食べてお風呂入ろう。
脱衣所で服を脱ぎ、改めて自分の匂いを嗅いでみる。
良い匂いって言われたんだから気にする事ないかもしれないけれど、結月家にとっては良い匂いでも他の人からしたら嫌な匂いかもしれない。もちろん自分で嗅いでても分からなかった。うーん、気になる。
ガチャっとドアの開く音がした。
「葵さん……!?」




