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凛と咲き誇る百合の花  作者: イチノセ
第6章 日常
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第44話 ハグ

「今日っは〜凛ちゃんっの〜お家〜で遊べる〜!」

「咲百合、テンション高いね」

「だって! 可愛い妹ちゃんと美人なお母さんにも会えるんだよ!」

「なんか……まぁいいや」


 学校終わり、公園で待ち合わせをしたわたしたちは凛ちゃん宅へ向かっていた。

 数日前、初めて凛ちゃんの家族とエンカウントをした。わたしは、その顔面偏差値の高さに驚いたのだ。凛ちゃんはどちらかと言うと美人系だけど、妹ちゃんとお母さんは可愛い系。というか、わたしの周りって結構美女が多いな。


 玄関前、家に入ろうとドアに手をかけた凛ちゃんが何かに警戒しているように見えた。なんだろう、怖いな。

「咲百合、ひとつ忠告」

「え、何?」

 結月家に入る際のルールとかあったのか、お父さんの話は禁句とかそういうことなら問題ないよ、わたしデリカシーあるから。

「もし、鈴が先に帰って来てたら、すごい勢いで突進してくる。多分咲百合の肉体じゃ耐えられないから気を付けて」

「えぇ……そんなに? まぁやんちゃで可愛いんじゃないかな」

 ちなみに突進を警戒されている『鈴』というのは飼っているイノシシとかではなく、凛ちゃんの妹だ。

 この前来た時は、凛ちゃんが先にご飯を作りに帰って来てたから、鈴ちゃんも居ないのは把握済みだった。

「じゃ、開けるよ」

 そんな事を言われると身構えてしまう、普通の一軒家が敵城のように思える。そして、そんな城門がゆっくり開かれた。


 …………。

「静かだね」

「鈴、まだ帰ってなかったみたい。帰らずにそのまま学校で遊んでるのかな」

 わたしたちも学校終わりにそのまま遊んでるので、なんだか小学生の気持ちが分かる。

「とりあえず私の部屋に行こう」


 凛ちゃんの部屋に入るのは2回目だけど、初回のインパクトが大きくて思い出しちゃうな。

 大切なお父さんとのお別れ、しかもあんな形で。わたしとはまた違う種類のトラウマ。

 きっと乗り越えることは出来ないけれど、わたしが傍に居ることで少しでも前を向けるならそれはとても嬉しい。


 自分のベッドに座った凛ちゃんが、右の空いているスペースを手でトントンしている。

 今日はソファじゃなくてベッドに座っていいよ、という合図らしい。

「じゃあ、横に座るね」

 な、なんかベッドに2人で並んで座ってるのってちょっとアレというか。わたし、最近脳内ピンク過ぎるかな……。

 これが凛ちゃんのいつも寝ているベッド……特にわたしの物と感触は変わらない、一番違う点はやはり匂いだろうか。

 座っただけなのに凛ちゃんの香りがする。わたしは普段から香水などは使ってない、だけど凛ちゃんはわたしをいい匂いと言っていた。逆にわたしからすれば凛ちゃんの方がいい匂いなのだけれど。

 ベッドに下ろした左手が一瞬で繋がれた。もうかなり慣れたけど、凛ちゃんはわたしと手を繋ぐことに安らぎを覚えていて二人でいるときはほぼ繋がっている。


「咲百合は……小学生の頃って友達いた?」

 急に切り出された話題は、もしかしたら凛ちゃんの昔話とも繋がりがあるのかもしれない。

「まぁ、いたけど。ほとんど覚えてないかな」

「そっか、私も怪我させちゃった友達の顔と名前がうろ覚えなんだ。家も引っ越しちゃってて連絡取れないし」

 やっぱりその話に繋がっていた。実際大親友って子も居なかったし、毎日お手手を繋ぎたがるような子も居なかった。

 そういえば1人だけ覚えている子がいたような。

「1人だけ、男の子なんだけど。よく遊んでた子がいるのは覚えてる」

「えっそうなの……男子の友達……意外かも」

「その子、元気な性格だったから一緒に遊ぶのが楽しくてね。違う中学に行っちゃったから今どうしてるか知らないけど」

 名前もうろ覚えだし、確か木って漢字が使われてたような……。

「咲百合ってクラスで男子と話してるの見かけないし、苦手なのかと思ってた」

 教室でひとりぼっちの凛ちゃんが何して時間を潰しているのかと思ったら、わたしのこと観察してたのか。少し照れちゃうな。

「確かに男の子は苦手かも……だけどあの頃は小学生だったし、全然普通に遊んでたよ」

「ふーん、そっか」


 なんだろう、この感じは。今の会話は本題じゃないような、まだ何か言いたげにしてる。

 わたしから聞いてみようかなと思った瞬間。

「おわっ!」

 ばさっと、凛ちゃんが思いっきり抱き着いて来た。

 制服の上からでも分かる人の体温、これは確かに生きている証だ。

「っと、急に抱き着いてどうしたの」

 見えないけど、凛ちゃんの顔は少し赤いような気がする。肩に乗っかった顔の部分だけ体より暖かい。

 凛ちゃんは何も答えない、とりあえずわたしの方からも抱き締め返す。

 もしかしたらまた、お父さんの事を思い出してしまったのかもしれない。これで気持ちが落ち着くのなら、このままでもいいか。

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