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凛と咲き誇る百合の花  作者: イチノセ
第5章 凛より。
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第43話 大好きなお父さんへ

「お母さん、鈴……どうして?」

 暗い中歩いて来たのは、その2人だった。

「お母さん……怖いよ……」

「大丈夫、お母さんもお姉ちゃんもいるからね」

 夜の霊園というのは、やはり9歳の子どもにとっては怖いらしく母が落ち着かせていた。

「2人とも……どうしたの?」

「うーん、凛が寄り道するって言ったからもしかしたらって思ってね」

「姉ちゃんなんでお墓にいるんだよぉ」

 寄り道という単語だけでここを当てるなんて察しがいいとかの話ではない。となるとこれは間違いなく……。

「その、もしかして、部屋での会話聞こえてた?」

 咲百合に話した昔話、お父さんへの懺悔。それを聞いていたなら、ここに集まったのも納得出来る。

「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、部屋のドア半開きだったから。咲百合ちゃんに挨拶しようとしたらあんな話してるんだもの」

 そうか、ちゃんと閉まってなかったのか。

「あ、あぁ……どれくらい聞いてたの?」

「うーん、ほとんどかな」

 泣いてるのも、咲百合に慰めてもらっていたのも全部見られていたのかもしれない。これは……恥ずかしい。

 鈴は何の事か分からない顔をしていたので多分お母さんだけだろう。

「まぁいいや。そう、だからお父さんと話したくなって来たんだ」

 別に隠すような事でもないので正直に話す。

「凛、良い友達だね」

 家でも言っていた事をまた言う。

「まあね、面白いし」

「それもだけど、凛がそんなに大事な話を打ち明けられて、しかもあんな重い話でも真摯(しんし)に聞いてくれるような子。大事にしなよ」

 私もそれは思っていた、咲百合のおかげでこうして過去と向き合うことが出来たのだから。

「……うん」


 静かに返事をすると、母は口を開いた。

「家では、あんまりお父さんの話しないよね」

「うん、そうだね?」

 別にタブーという事は無いけど、なぜかあまり話題に上がらない。

「あの時って、凛もまだ9歳だったからどこまで昔の事を覚えているか分からなかったの。あんまり思い出させちゃうと辛いと思って」

 お母さんも、ずっと気遣ってくれてたんだ。

「だから、今日咲百合ちゃんとの話を聞いて、思ってたより鮮明に覚えてるんだなって思った」

「忘れたいって思った事もあるけど……やっぱりお父さんとの思い出だから……」

「そうだよね。だからね、もっと早く教えてあげればよかった」

「……何を?」

「あの日、お父さんに酷いことを言っちゃって思わず部屋に閉じこもったでしょ?」

「……」

 やっぱりお母さんにも聞こえてたんだ、罪悪感や後悔で返事ができない。

「あの夜ね、お父さんと少し話したの」


『凛は、俺のためって言ってくれたのに、そんな事はいいなんて……悪い事を言っちゃったな』


『でも、怪我をさせちゃったのはいけないことだし、凛のためにも、もっと話し合わないとな。よし、まずは凛と仲直りだ』


「そう言って、私とお父さんであなたの部屋に行ったのよ」

 その時私は、泣きながら手紙を書いて……。

「もうぐっすり寝ちゃってたけどね、お父さんも凛が寝てる姿を見てどこか安心してた」

「そうだったんだ……」

「でね、部屋を出ようとしたら声が聞こえてきたの」

 声……私は全く覚えていない。

「『お父さん……ごめんなさい……大好きだから……お父さん行かないで』って、泣きながら言ってた」

「私が……」

 もちろん覚えてないし、そんな夢を見ていた記憶もない。

「寝言なのは分かってたけどお父さんも思わず涙ぐんじゃってね、お父さんしばらく凛の傍に居たんだよ」

 今日何回目の涙か、もう分からなかった。

 小さい子のようにお母さんに抱き着いて泣きじゃくる。鈴が近くにいても関係なかった。

「私……お父さんに酷いこと言っちゃってずっとずっと後悔してた! 私があんなこと言ったから、ストレスで病気が再発したんじゃないかってずっと思ってた! でもお父さん……最期に私と居てくれたんだ……」

「大丈夫、凛が責任を感じることじゃないわ。凛がずっと悲しんでたらお父さんも悲しんじゃう。それに、お父さんとの思い出は悲しいことだけじゃないでしょ?」

 一緒にジムに行ったこと、笑い合ったこと、ゴツゴツの手の感触、優しい声、落ち着く匂い。全て私の宝物。

「その手紙もね、夜中に読んで泣いていたわ」

 私の手に持っている物を指指し、母が言う。

 さっき机の底から取り出して持ってきた、ごめんなさいの手紙。

「これ、お父さん読んでくれたの……?」

「机の上に置いてあったから見えちゃってね、お父さん、我慢できずに読んでいたわ」

「お父さんに……届いてた……」

「明日渡してくるだろうから待ちなさいって言ったんだけど、あの時読んで正解だったね」


 全部、私が知らない時間の出来事。私が直接謝った訳でも、手紙を渡した訳でもない。だけど絶対に届かないと思っていた言葉が届いた気がして、その事実に少しだけ心が軽くなる。

「そうだったんだ……」

「もっと早く教えるべきだった、長い間苦しませちゃってたみたいでごめんね……」

 きっとそれは、お母さんなりに私を気遣ってくれていたからだ。私がもっと早くに向き合う決心をしていたら、お母さんにもそんな思いはさせなかった。

「ううん、教えてくれてありがとう……少しだけ、楽になった」

 鈴は私たちの様子を見てどう思っているんだろう。言葉を挟んで来ないのは、きっと幼いながらも何か察する事があったからだと思う。だから、鈴にも声を掛けた。

「鈴も、おいで」

 無言で私とお母さんの間に入り、3人で抱き合う形になった。あの時は3人だったけど、今日はお父さんも近くに居る気がした。

 改めて誓い合う、支え合って生きていこうと。


『お父さんへ。

 昨日はひどいことを言ってごめんなさい。

 本当は大好きなのにあんなこと言ってごめんなさい。

 かみの毛もいっしょの色で本当は大好きです。

 ぜったいにやくそく守るから明日からも私といっしょにいてください。お父さん大好きだよ。 りんより。』

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