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凛と咲き誇る百合の花  作者: イチノセ
第5章 凛より。
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第42話 進む勇気

 石材に文字だけ彫られた建造物が、長い時間生きた人間の眠る証拠だとしたら、それはなんだか寂しさがある。

 生きた時間は人によって様々だ。志半ば、僅かな時間しか生きられなかった者もいる。万年健康体で非常に長い時間を生きた者もいる。けれど、人生の長さに関係なく最終的に還る場所は皆平等に土の中というのは、考えてみれば落ち着くのかもしれない。

 ここに来るとそんなことを考えてしまう。

 私が傷付けた私の大好きな人は、何を思ってここに眠っているんだろう。

『結月家之墓』そう記された石の前で、私は手を合わせていた。


「お父さん、会いに来たよ」


 小高い山の上に造成された霊園は、調べたところ東京ドーム10個分もの広さらしい。私は実際に東京ドームには行ったことがないので、それがどれくらいの広さなのかは分からない。でも東京ドームと聞くと、とにかく広い面積を持っているという事は分かる。

 標高800m程の山、私たちの暮らす町と大きな空が一望できる。今は見られないけど、春は満開の桜に囲まれていて、こんな素敵な場所で眠れるのなら死というのも存外悪くないのかもしれない。


 命日、お盆、お彼岸。定期的にお墓参りには来てるけど、こうして1人で来るのは初めてだった。

 太陽はほとんど沈んでいて、夕方と夜の間。深海のように暗く青い空は今にも私を吸い込んで、どこかへ連れ去ってしまいそうだ。

 そんな暗い中で無数のお墓に囲まれているのだから、考え方によっては怖いかもしれない。だけど、やはりこういう所でしっかりと埋葬された人達は穏やかな気持ちでお墓に入っているのだろう、不気味な気配は一切しなかった。


「お父さん、今日は私1人で来たよ。どうしても話したいことがあって」

 周りには誰も居ない、きっと誰か居ても私は変わらず話しかけていただろう。

「お父さん……私ね、友達ができたの」

 友達、今なら胸を張って言える。咲百合は大事な大事な私の友達。

「その子は元気で明るくて、悪い噂ばかりで敬遠されていた私にも、他の子と変わらず接してくれるんだ」

 最初はそんな彼女が怖かった、踏み込まれる事を避けていたから。

「いつも笑顔が素敵で……お父さんにも会わせたかったな。多分結構気が合うと思う」

 絶対に叶わないけど、お父さんと咲百合が会話している様子を思い浮かべる。


「今日ここに来たのは、そんな友達の紹介ともうひとつ。ずっと言えなかったこと。思い出すのも辛くて……今までお父さんと向き合えてなかった」

 本当はあの日に言わないといけなかった。勇気の足りない私はそれができなかった。

「お父さん、嫌いなんて言ってごめんなさい」

 まず最初に伝える言葉は謝罪だった。

「私、お父さんのこと大好きだよ! いつも優しくて、私の味方もしてくれてたよね、ありがとう」

 友達を怪我させてしまった私に対しても、お父さんはずっと寄り添ってくれていた。お父さんも一緒にいるから何回でも謝りに行こうとずっと言っていた。

「髪の毛も最初は嫌だったけど、お父さんとお揃いで私だけが受け継いだ事が凄く嬉しくて……あの頃も好きだったけど今ではもっと大好き」

 墓石にそれを語っても、お父さんへ届いている訳じゃない。だけど、心で思っているだけじゃなく、せめて口に出して言えば少しでも届く気がしたんだ。

「本当は直接言いたかった、あれが最期の言葉になっちゃって、あの日からずっと後悔してる。この気持ちはきっと一生消えないけど……それは忘れちゃいけない気持ちだから……これからも思い出す度に大好きだって言うから!」

 要領を得ない、結論の無い言葉。

「ごめんなさいも大好きもありがとうもずっと思ってるから……お父さんとの思い出絶対に忘れないからね」

 過去の発言を取り消すこともできない、今謝罪してもお父さんに聞こえる訳が無い。伝えたい事は言ったけど何も解決はしていない、やっぱり私は過去を受け入れて進んでいくしかなかった。


 そろそろ帰ろうかと立ち上がったら、近くの駐車場に1台の車が止まるのが見えた。こんな時間に誰か来るなんて珍しい、と思ったけどそれは私もか。

 しかし、その車から降りてこちらに歩いて来た人影に私は少し驚いてしまった。

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