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凛と咲き誇る百合の花  作者: イチノセ
第5章 凛より。
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第41話 向き合う勇気

「泣きすぎて、恥ずかしい……」

 泣き顔なんて、家族にすら見せたこと無いのに。

 そんな私の頭を撫でながら咲百合が慰めてくる。

「大丈夫、大丈夫」

 あんな話を聞いたあとなのに、咲百合はいつもと変わらぬ様子で接してくれる。変に気を使われる方が嫌なのでとても有難かった。


「ねぇ、凛ちゃん」

「うん」

「お父さんの件は、もうやり直すことはできないけど……」

 亡くなった人間は蘇らない、吐き出した言葉は戻せない。

「怪我させちゃった友達にはちゃんと謝ろう? 結局謝れてないんでしょ?」

「そうだけど……もう6年も経ってるのに……」

 今更会えないし、何て謝ればいいのか。

「時間なんて関係ないよ。少しでも前に進むために、過去と向き合わないと」

 まるでそれは、咲百合自身にも言っているように感じられた。過去を精算できていない者同士だからこそ、相手に寄り添えるのかもしれない。

 咲百合がどんな思いを抱いているのかは分からない、何があったのかも教えてもらっていない。それでも、咲百合の言葉は正しかった。


 あの事件からしばらくして、友達の家へ向かった事がある。謝りに行った訳ではなく、本当に何となく。やはりそれは後ろめたさがあったからなのかもしれない。だけど、結局その友達は既に引っ越してしまっており、今でも連絡先は知らない。名前は覚えているけど苗字はうろ覚え。そんな状況に、どこかでホッとしている自分もいた。謝ることが怖くて逃げていたんだ。

「その通りかも……今更だって言われても自己満足だって言われても、ちゃんと謝りたい」

 そうじゃないと、お父さんに合わせる顔がない。友達にも謝れないようでは、またお父さんを悲しませてしまう。


「良かった。もしどうしても謝るのが怖かったら、しょうがないからわたしが背中を蹴飛ばしてあげるよ」

 笑顔で私を勇気づけてくれる咲百合の姿が眩しくて、こんな子と知り合えた事が嬉しくて……気を抜いたら泣いてしまいそうで。今日の私はどこまでもセンチメンタルだ。

「うん……ありがとう」


「聞くだけ聞いてアレだけど、そろそろ帰る時間かも」

 時計の針は気付くと18時を回っていた。

 追試が終わるのを待ってから私の家へ行って、昔話をした後はずっと泣いていたので当然時間も経っていた。

 立ち上がった咲百合に声をかける。

「あ、じゃあ送っていくよ」

「え、あぁ……今日は大丈夫だよ?」

 泣き疲れた私を気遣ってくれているのかもしれない。

「大丈夫、私もついでに寄りたいところあるから」

「んーじゃあ、お願いしようかな」

 私も立ち上がり、机から荷物を持って部屋を出た。


「あら、こんばんは」

 階段を降りたところでお母さんと鉢合わせになった。

「おかえり、帰ってたんだ」

「あっ! すみませんお邪魔してました」

 咲百合が不思議そうな顔でお母さんを見つめる。

 身長はお母さんの方が少し高いくらいか。

「えっと……凛ちゃんの……お姉さん?」

「凛、良い友達連れてきたね。40歳の姉です」

「えぇ……」

 咲百合の勘違いに乗っかるお母さんに困惑の声を漏らす。

 確かに見た目はそこまで年老いていない。だからって姉には見えないでしょ……と思うのは、私が身内だからだろうか。

「わぁ、歳の差姉妹なんですねっ」

 40歳と言われてもピンと来ない様子の咲百合に、母が少し笑っていた。25歳差の姉妹なんているか。

「咲百合、姉じゃなくて母だよ」

「えっ!? お母さん? 美人過ぎませんか……」

「ちょっと、人の母親口説かないでよ」

「長い黒髪に小さい顔、大人っぽい見た目なのにあどけなさが残る美人……シワも全然見当たらないし……どうやってその美貌を保っているんだろう」

「ねぇ、心の声漏れてない?」

 お母さんの顔を見ながらボソボソ感想を言う姿に少し引く。咲百合は、一緒にいる時顔についての感想を遠慮なく言ってくることが多々ある。相手が友達の母親でもそれは変わらないらしい。

「ふふっ、面白い友達ね」

「あ、すみませんつい! 遅れましたがわたし龍園咲百合と言います!」

「咲百合ちゃんの話は凛からよく聞いているわ。これからも仲良くしてあげてね」

「もちろんです!」

 元気に返事をした咲百合が私の腕を掴んでくる。

 ニヤーっと顔を見つめてくる。わたしのどんな話してくれてるの〜? と言っているように見えた。

「今日はもう帰りますけどまた遊びに来ます!」

「いつでもいらっしゃい」


「姉ちゃんの友達!?」

 廊下の騒がしさを聞きつけた鈴が、リビングから飛び出して来た。お母さんもだけど、いつの間に帰って来てたんだろう。もう18時過ぎてるから帰ってなかったら心配になるけど。

「おー! 君が妹ちゃんか」

「結月鈴です! 姉ちゃんがお世話になってます!」

 確かにお世話になってるけど、妹に言われると変な感じだ。

「鈴ちゃん! 可愛いねぇ」

 腰を下ろして目線を合わせた咲百合が、鈴の頭を撫でまくっていた。

「わたしは咲百合って名前だよ。また来るから今度は一緒に遊ぼうね」

 咲百合の笑顔には不思議な力がある、元気を貰えるというか癒されるというか。私もその笑顔が大好きだ。

「絶対来てね!」

 鈴もお母さんも、私が友達を連れて来た事に喜んでくれているみたいで、なんだか心が温まる。


「では、お邪魔しました!」

「お母さん、少しだけ寄り道するから先に鈴とご飯食べててもいいよ」

「ふーん、分かった。気を付けてね」

 お母さんは特に言及してこなかった。高校生だし門限も無いので当然ではあるけど。


「凛ちゃん、今日はありがとう。寄り道してから帰るの?」

「うん、ちょっとね」

「そっか、気を付けてね」

 意外と察しの良い咲百合には、もしかしたらお見通しだったのかもしれない。

 咲百合を送り届けてから、私は自転車を走らせた。

 今日中に絶対行っておきたい場所があったから。

 過去と向き合うための第一歩。

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