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凛と咲き誇る百合の花  作者: イチノセ
第5章 凛より。
41/50

第40話 どんなに辛くても

 泣き止んでからも私は咲百合から離れられなかった。

 思いっきり泣いたら、冷静な自分が戻ってきた。とりあえずぐしゃぐしゃの顔を見せるのが恥ずかしい。

 そんな私の気持ちを察したのか分からないけれど、抱き合ったまま咲百合が語りかけてきた。

「凛ちゃん、言いづらい話をしてくれてありがとう。髪への大切な想い、伝わったよ」

「こっちこそ……聞いてくれてありがと……」

 ほぼ耳元で会話しているので小声でボソッと喋った。

「うん。やっぱりさ、このままじゃダメだ」

「んぇ……?」

 何の話か分からず間抜けな声が出てしまう。

「わたしも凛ちゃんの髪大好き、かっこいいし綺麗だし。今の話を聞いてもっともっと好きになったよ」

「あ、ありがとう?」

 話が繋がっていなくて困惑する。

「初めて見た時から綺麗だって思ってた。でもそのせいで周りと馴染めないなら、どうにか説得して黒く染めてもらおうと思ってたんだ」

「私も……そろそろ諦めようと思ってた。黒く染めれば少しは打ち解けるかなって」

 染髪剤を買ったこともあった。だけどその度にお父さんの顔を思い出して、結局使えなかった。

「今の話を聞いたら染めてほしいなんて全く思えなくなった。絶対にそのまま変えないでほしい」

「うん……私、この髪が好きだから変えないよ」

「うんうん、わたしも髪以外の部分で凛ちゃんの魅力を伝えないとね」

 そう言った咲百合は思い出したかのようにもう一文付け加えた。

「あ、でも。わたしの口から直接は言わないよ。約束だもんね」

 それは、最初に交わした私たちの約束。お互いの秘密を守ること。私自身、まだクラスメイトを信用できていないのでそうしてもらいたかった。

「うん、助かる……」


 抱き合ったまま何分くらい経ったか、お互いの体温は最初よりもかなり高くなっていた。だけどそれは、生きてるという何よりの証拠。

「そ、そろそろ熱くなってきた……」

 咲百合の首筋には少し汗が浮かんでいるように見える。

「あ、ごめん」

 私は謝りつつも離れない。

「汗かいてきちゃったから、1回離れよ? ね?」

「分かった……」

 ゆっくりと咲百合から離れる。

 私の顔を見ても、特に言及はされなかった。鏡を見なくたって、相当浮かない顔をしているのは分かった。

 だから、ここまで聞いてくれた咲百合へ胸の内を明かす。


「私……いつかちゃんと乗り越えられるかな……」

 あの日から胸が痛くて仕方がない。最期の言葉がずっと脳内を巡っている。お父さんの悲しい表情が何回も夢に出てきた。

 私は、咲百合に何て答えてほしかったんだろう。「凛ちゃんなら乗り越えられるよ」なんて、根拠の無い言葉が欲しかったのかな。

 だけど咲百合は、そんな無責任な事は言わなかった。

 無言でゆっくり首を横に振る。

「多分、乗り越えられないと思う」

「……」

 それは、その通りで。辛い現実だ。

「私に全部話してくれたし沢山泣いたけど、ずっと辛い顔してる」

 それも分かっていた。気を抜いたら泣いてしまいそうで、憂鬱な気持ち。全て話したことで、結局詳細を思い出して苦しい思いをしている。

「じゃあ、私はずっと……」過去を引きずって生きていくしかないのかな……? 途中まで出かかった言葉が遮られた。

「無理して乗り越えなくていいんだよ。そんなの余計辛くなっちゃう」

「乗り越えなくてもいい……?」

「忘れたいほど辛い思いも、お父さんに言っちゃった言葉も。それは乗り越えられるような話じゃないと思う」

「じゃあ……」

「現実を受け入れて、辛くても生きていくしかないと思う」

「そんな……」

「それに、そんな簡単に乗り越えちゃったら悲しいよ。過去を乗り越えられないのは、それだけお父さんを想う気持ちが大きいからだよ」

「あ……」

「だからさ、辛い時はまた思いっきり泣こう? 心細かったらわたしがいるから、相談して」

 ……。

「それに、一緒にいれば楽しい思い出が増えるって昨日友達が言ってたよ」

「そんな事……言ってない……」

「違ったかな? つまり悲しい思い出も、楽しい思い出も両方抱えて生きていこうってね。一緒に楽しい思い出作ろうよ」

 咲百合……。

「わたしもまだ過去を引きずってるし、説得力無いけどね」

 そう言ってガハハと笑う彼女を見て。

 もう涙は出ないと思ったのに、友達の言葉に泣かされる。

 元々弱っていた心に、そんな言葉を投げかけるのは卑怯だ。咲百合が自分のハンカチを使って顔を拭いてくれる。


 明日からどんな顔で咲百合と会えばいいんだろう。

 ……さっきまであんなに辛かったのに気付いたら明日の事を考えていた。

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