第35話 行こう
「凛ちゃん、金髪のこと結構気にしてるでしょ?」
咲百合が私の心中を言い当ててくる。
「なんで、そう思ったの?」
質問に質問で返す。
「その前に、入学初日。どうしていろはちゃんにあんな事を言ったのか説明しなさい」
実は、入学して最初に話をした子は、小森いろはさんだった。
あまりにも気さくに話しかけて来るから、その雰囲気に慣れなくて冷たい返事をしていたと思う。
謝ろうと思ってたけど、私の悪い噂は酷くなる一方で諦めたのだった。
そんな小森さんから言われたこと。確か『金髪はおかしいから黒くした方がいい』と、至極真っ当な意見。
「金髪をおかしいって言われたのが……気に障ったのかも」
自分の話なのに、他人事のようだった。
「かも、じゃなくて。確実に、気に障ったんだよね」
細い太ももに頭を乗せた私は咲百合に見下ろされていて、体勢も会話の主導権も全て握られていた。
「はい……気に障りました……」
「素直でよろしい」
満足そうな顔で頷く。
「あのね、いろはちゃんすごく怖がってたよ。多分いろはちゃんは、凛ちゃんの為に言ってくれてた。金髪をバカにした発言じゃないっていうのは覚えておいて」
「私も、後悔はしてた。でも謝る機会が無くて」
「いつか絶対、謝ろうね。わたしも近くに居てあげるから」
「うん……」
言いたいことを言えてスッキリした様子の咲百合が、最初の話に戻してくる。
「その話を聞いて思ったんだ。金髪を気にしているのに、そのままなのは何でだろうって」
「それは……」
話すと長くなるので口を噤む。
「見てれば分かるけど、それ地毛でしょ」
今まで、これを地毛だと見抜い人は居なかった。
「そう、金髪が地毛なんだ。初めて地毛だって信じてもらえた」
「染めてるかどうかなんてすぐに分かるけどね、学校の奴らは面白がってるんだよ。だから地毛だって知ってるのに変な噂を流したりしてると思う」
薄々気付いてはいた、やっぱり咲百合も結構鋭いところあると思う。
「それならどうして、そこまで地毛に拘るのかな?」
咲百合の匂いを嗅いでから、口を開く。
「それは、さっきの咲百合と同じで誰にも相談できない事なんだけど……でも、咲百合になら教えてもいいと思ってる」
咲百合は黙って次の言葉を待っていた。
「だけど、今日は時間が無い。明日追試に合格出来たら、いつもの公園に来て」
「よし、分かった。だけど無理強いはしないから、話したくなかったらいいからね」
秘密を抱える者同士、似たようなセリフが出てくる。
「うん、じゃあ今日は帰るよ。数学大丈夫そうだし」
起き上がって咲百合と向かい合う。
「今日は、本当に楽しかった。勉強の嫌悪感も薄れたし、これなら数学も出来そうだよ」
「大丈夫、咲百合は頭が良いよ。学年1位の私が言うんだから間違いない」
「このっ、調子に乗るなよ。次回で学年2位に落としてやるからな」
私のおでこを人差し指で弾いてきた、痛くない暴力だ。
「じゃあ、また明日」
「うん!」
笑顔で見送ってくれた彼女は、過去を乗り越えようと頑張っている。中学時代の話には相当なトラウマがあるらしく、その件は検討もつかないけれど。
そして私にも、まだ引きずっている過去がある。
咲百合は、私の誤解を解くために色々考えてくれている。当人の私が、それに非協力的なのはおかしいし。私だってできることならクラスに馴染みたい。
その為には、まず過去の話をしないといけなかった。
他人に相談するには少し重い話、それを聞いた咲百合の反応は想像できない。
翌日、いつものように先に校舎を出た私は、先に夕飯の準備を終わらせて待ち合わせの公園へ向かった。
気分はあまり晴れてないけど、そんな私とは真逆で雲ひとつ無い晴天だった。
大丈夫、言葉は整理してきた。できるだけ重い雰囲気にしないように、普通に話せばいい。
「はっへ……凛ちゃ……はっふぅ」
ゼェゼェと息を枯らしながら、彼女がやって来た。
「咲百合! お願いだから普通に歩いて来て……」
自分の体力を理解しているはずなのに、いつも限界まで走ったりと無茶をする。校庭で盛大に転んだ姿が脳裏に過ぎってしまうんだ。
「あんまり……はぁ、待たせるのも、悪くて。はぁ」
「本当に心配だからやめて。お願い」
「お願いって言われちゃ仕方ないなぁ、はぁー」
思いっきり深呼吸した咲百合は、息を整えて答案用紙を渡してきた。
本テストとは問題文や点数配分が違う、多分追試の用紙だろう。
「追試、楽勝だった!」
昨日までの咲百合からは考えられないような点数に驚きが隠せなかった。
84点。たった1日でここまで詰め込めるのは、やはり咲百合の地頭がいい証拠だろう。
「すごい、頑張ったね」
「凛ちゃんの驚く顔も見れたし、頑張った甲斐があったよ」
「そんなに顔に出てたかな……」
確かに驚いたけど。
「凛ちゃんが、ここだけは完璧にしておいた方がいいって教えてくれた所を信じて勉強したらね、本当に役に立ってびっくりした」
「それなら良かった」
「わたしだって留年はしたくないし、今度こそ3年間しっかり青春を送りたいもん」
咲百合の目は、期待に満ち溢れてキラキラとしていた。
「そうだよね、それは私も同じ気持ち」
咲百合は何か言いたげにしている。そろそろか。
「よし、行こう」
「え、どこに」
重要な部分が抜け落ちた私の発言に、戸惑いの声が上がる。
「私の家」




