第34話 中学時代の話
咲百合の膝、というか太ももの上に頭を乗せる。
人間の顔は下から見るとあまり綺麗には見えないらしい。だから、自撮りなどする時は可愛く盛れる斜め上から撮るのが基本。咲百合に教わった言葉を思い出す。
なんだ、下から見ても可愛い人は可愛いじゃないか。
私の方が身長が高く、普段は見下ろす形だったので下から見る咲百合の顔は新鮮だった。
もう少し見ていたかったけれど、仰向けだとポニテが邪魔だったので体を横に倒す。視界には咲百合の胴体しか映っていない。
「同性だし、膝枕くらい普通にするよね」
私を乗せた咲百合がぶつぶつ喋っている。
会話が無くなると、本当に静かな部屋だった。時々聞こえてくるカラスの声や、物音。
だけど聴覚よりも、嗅覚の方が気になり、思い切って咲百合の胴体へと頭を近付ける。
「凛ちゃん……?」
「咲百合、いい匂いする」
「か、嗅がないでよ……」
香水は使ってないのかな、人工的な物を感じない自然な甘さ。柔軟剤だけでこんなにいい匂いが出るのかな。
「ちょっと、嗅ぎすぎだって。深呼吸しないで」
癖になる匂いで離れられない。
太ももとお腹に頭が密着しているので、咲百合の体温が上がっているのを直に感じる。
「温かいし、いい匂いで落ち着く」
「凛ちゃん……これってやっぱりえっちじゃないかな……」
お腹に顔をくっつけたまま返事をする。
「健全だと思う。温かさも、匂いも、全てが咲百合の生きてる証だから」
「そんなスケールの大きい話かな……」
私にとってはとても重要なことだった。
落ち着くけれど、肝心の太ももは何とも言えなかった。
明らかな運動不足、贅肉が付いていないとかそういうのではなく、単純に筋肉も少ないみたいだ。
確かに咲百合の細い手足は華奢な体と合っていて、その魅力を更に引き立てているようにも見える。しかし、こうやって頭を乗せてみると不健康な足だと思った。
「咲百合、答えたくなかったら何も言わなくてもいいんだけど」
「うん?」
「体力が無いのも、手足の筋肉が少ないのも、やっぱり中学時代の影響?」
「……やっぱり凛ちゃんって、洞察力すごいね」
「太ももが、あんまり柔らかくない」
「クレームは受け付けてませーん」
咲百合は、言い難いであろう昔話をしてくれた。
「体力は元々あまり無かったんだけどね、まぁ女子なら普通くらいだったと思う。だけど、1年半も引きこもってたから……あの頃は外にも出たくなかったし、気付いたら筋肉も全然無くなってた」
多分、不健康なほどに薄い色の肌は、引きこもっていて本当に不健康だからだろう。咲百合に合っていて綺麗だと思うけど。
「外にも出ず、運動もせず、勉強して寝るだけ。普通なら太っててもおかしくなかったけど……ずっと食欲が無くて、無理して食べてもすぐ吐いちゃってた。お医者さんからは、極度のストレスが原因って言われた」
「だから、全体的に細いんだ」
「あ、今は全然食欲あるし、これでも当時より10kgぐらい増えてるんだからね。ちょっと痩せ気味だけど普通くらいだよ。筋肉や体力だって少しずつ戻ってるし」
咲百合が、長距離でヘトヘトだったのも納得だ。
「そんな……そんな状態になるほど辛い事があったの?」
勇気を振り絞って踏み込んでみる。
少しの間を置いて。
「うん……ごめん。やっぱりまだ言えない」
咲百合は、天井に向かってそう呟いた。
「凛ちゃんを信用してない訳じゃないよ。ただ、それを語るのを脳が拒否してる」
「そっか、全然気にしないでいいよ。咲百合の事を傷付けたくない。知られたくない事なら、ずっと知らないままでもいい」
そう言うと、未だ太ももに乗ったままである私の頭を撫で始めた。
「優しいね、ありがとう。多分、実際に聞いたら大した事じゃないと思う。でもわたしにとっては……アレだから。いつか乗り越えられたら、笑い話にして教えてあげる」
いつもより少し硬い笑顔を見せられて、それ以上は何も話さなかった。
そんな空気を取っ払うように、咲百合が口を開いた。
「あーあ、わたしも凛ちゃんにお願い事したかったな、聞きたいこともあったし」
どうせえっちな事でしょって言おうとしたけど、やめておく。
「イカサマに気付かれちゃったし、3回くらいなら聞いてあげてもいい」
「ほんと!? やった!」
「早速使うの?」
「ううん、まだ使わないよ」
「ちなみに聞きたいことっていうのは?」
「ずっと気になってたんだけど、もう当たり前すぎて聞けてなかったんだよね」
次のセリフを聞く前に想像が着いた。きっと咲百合が聞きたいのは。
「凛ちゃんの金髪について、ちゃんと教えてほしいな」
予想通りだった。
「やっぱり気になるよね……」




