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凛と咲き誇る百合の花  作者: イチノセ
第4章 激闘のポーカー編
31/50

第31話 最初のお願い事

「行くよ、ショウダウ……」

 凛ちゃんが、ショウダウン(手札公開)の声と共に自分のカードを開こうとした刹那(せつな)

「凛ちゃん、わたしの勝ちだ!」

 机の向かい側に座る彼女へと、高らかな勝利宣言を言い放ち、K(キング)3枚とA(エース)2枚のフルハウスを見せつける。


 いきなりの事に凛ちゃんは思考が追い付いていなかったみたいで、じっとわたしの手札を見つめる。

 5秒ほど見つめてから、急に机へ突っ伏してしまった。

「…………」

 なんか小刻みに震えてる……? まさか悔しすぎて泣いてしまった? さすがにそれは罪悪感が。

「ふっ……ぷふ」

 凛ちゃんと出会い、色々と会話はしてきたが。そんな彼女の口から、今まで聞いた事のない息漏れがしていた。

「ふふ、あはははっ!」

「えっ!?」

 目の前で、爆笑している。表情を作るのが苦手だった彼女が、思いっきり笑っている。

 顔を上げた凛ちゃんは、見た事もないくらいの笑顔で口を抑えながら話しかけてきた。

 笑う度に金色のポニーテールが揺れる。

「そういう事か、だからそんなに自信満々だったんだ! あははは!」

 負けすぎておかしくなってしまったのかな?

「わ、笑ってないで手札を見せてよ」

「ふふっ、いいよ」

「わたしはAを2枚持ってる、だから凛ちゃんがAのフォーカードって言った時、勝ちを確信したんだよ」

「そうだね、そう思うよねっ。ふへ」

 未だに笑顔から戻らない凛ちゃんの手札を奪い取って確認する。した。


「な……は? どういう事……?」

 目の前の光景が信じられなくて、尻もちをついて情けない声を吐く。

「咲百合、特に抜いたりしてなければ、トランプにはジョーカーが2枚入ってるんだよ」

 凛ちゃんの手札は、Aが2枚と……ジョーカーが2枚でAのフォーカードが完成していた。

「そ、そんな! この土壇場で、こんな強い手札を引いたっていうの!?」

「うん、だから私もさすがに驚いた」

 カードを確認していた時の顔は、演技じゃなかったらしい。

「咲百合、確率って怖いね。咲百合は絶対ギャンブルとかやっちゃダメだよ」

 完全敗北。地面が消え去ったかのような、空中遊泳をしている気分。

「41個、どんなお願いでも聞いてくれるんだよね」

 こんな悪そうな顔もできるのか、凛ちゃん。

「あっ……あっ」

 わたしは一体、どんな目に合わされてしまうのだろう。


 尻もちをついたままだったわたしは、そのまま地面へ仰向けになる。

「負けた……」

 そう呟くわたしの顔を挟むよう、両側に綺麗な腕が下ろされた。わたしの上に覆い被さる形を取った凛ちゃんが囁く。

「本当に、どんな事でもいいの?」

 わたしを真っ直ぐ見据えた顔は、あまりにもかっこよくて。本当に何でも許してしまいそうになる。

 だ、ダメだよ。こんな強引な形でなんて。

「あの……あんまり、えっちな事とかは……」

 鏡は無いけれど、顔の熱さは触らなくても感じられる。

 弱々しい声と紅潮した顔でこんな事を言っても、これでは逆に求めているみたいだった。


 緊張で目をぎゅっと閉じていたけど、少ししてから凛ちゃんが退()く気配がして目を開く。そこには残念そうに笑う顔があった。

「なんだ、えっちな事はダメなんだ」

「えっと、ダメ……」

「なんてね。ちょっとからかってみただけ」

 口に手を当てて楽しそうに笑う凛ちゃんの顔は、まるで小さい子がイタズラをするように無垢で、綺麗で……可愛かった。やってる事は無垢じゃないけど。

「こ、このぉ……! (もてあそ)びやがってぇ……」

「あははっ、ごめんって。だけど残念だなー」

 残念? 本当はえっちな事したかったの?


「咲百合にも勝ち筋を与えてたんだけど、気付いてもらえなかった」

 どうやら煩悩を抱いていたのはわたしだけで、凛ちゃんはポーカーの話をしているようだった。

「完膚なきまでに叩きのめされたんだけど」

「私、負けるのは嫌だけど相手にも良い勝負はしてもらいたいんだ。だから咲百合の勝てる可能性も残してたよ」

 振り返ってみたけど、卓越(たくえつ)した洞察力と観察眼。わたしの揺さぶりにも動じず限界まで張る度胸。全てにおいて最強だった。

「分かんない、勝てる要素あったかな?」

 凛ちゃんは少し寂しそうな顔をする。

「最初から言ってたよ、私は咲百合の前では正直になるって。だから手札を聞かれても本当の事しか言わなかった」

「あ……」

 そう、ポーカーだけでなく。凛ちゃんはわたしに対して、ずっと正直な気持ちを語ってくれていた。なのにゲームだからと疑うことしか考えていなかった。

「わたしは、まだまだ凛ちゃんの事を分かってなかった。やっぱり完全にわたしの負けだ」

 やっと分かった。わたしが思ってた以上に、凛ちゃんはわたしのことを信用してくれている。あと、笑顔がめちゃくちゃ可愛い。

 これは敵わないなぁ。

「えっちな事は、難しいけど。約束通り凛ちゃんのお願い何でも聞くからね」

「じゃあさ、とりあえずひとつ」

「うん……」

 何をお願いされるんだろう。何でもって言ってしまったから少し怖くなってくる。


「明日の追試、絶対に合格してね」

「……! うん!」


 まだ40個お願いを聞かないといけないけど、そこにマイナスなイメージは全くなかった。勉強がんばろう。

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