第31話 最初のお願い事
「行くよ、ショウダウ……」
凛ちゃんが、ショウダウンの声と共に自分のカードを開こうとした刹那。
「凛ちゃん、わたしの勝ちだ!」
机の向かい側に座る彼女へと、高らかな勝利宣言を言い放ち、K3枚とA2枚のフルハウスを見せつける。
いきなりの事に凛ちゃんは思考が追い付いていなかったみたいで、じっとわたしの手札を見つめる。
5秒ほど見つめてから、急に机へ突っ伏してしまった。
「…………」
なんか小刻みに震えてる……? まさか悔しすぎて泣いてしまった? さすがにそれは罪悪感が。
「ふっ……ぷふ」
凛ちゃんと出会い、色々と会話はしてきたが。そんな彼女の口から、今まで聞いた事のない息漏れがしていた。
「ふふ、あはははっ!」
「えっ!?」
目の前で、爆笑している。表情を作るのが苦手だった彼女が、思いっきり笑っている。
顔を上げた凛ちゃんは、見た事もないくらいの笑顔で口を抑えながら話しかけてきた。
笑う度に金色のポニーテールが揺れる。
「そういう事か、だからそんなに自信満々だったんだ! あははは!」
負けすぎておかしくなってしまったのかな?
「わ、笑ってないで手札を見せてよ」
「ふふっ、いいよ」
「わたしはAを2枚持ってる、だから凛ちゃんがAのフォーカードって言った時、勝ちを確信したんだよ」
「そうだね、そう思うよねっ。ふへ」
未だに笑顔から戻らない凛ちゃんの手札を奪い取って確認する。した。
「な……は? どういう事……?」
目の前の光景が信じられなくて、尻もちをついて情けない声を吐く。
「咲百合、特に抜いたりしてなければ、トランプにはジョーカーが2枚入ってるんだよ」
凛ちゃんの手札は、Aが2枚と……ジョーカーが2枚でAのフォーカードが完成していた。
「そ、そんな! この土壇場で、こんな強い手札を引いたっていうの!?」
「うん、だから私もさすがに驚いた」
カードを確認していた時の顔は、演技じゃなかったらしい。
「咲百合、確率って怖いね。咲百合は絶対ギャンブルとかやっちゃダメだよ」
完全敗北。地面が消え去ったかのような、空中遊泳をしている気分。
「41個、どんなお願いでも聞いてくれるんだよね」
こんな悪そうな顔もできるのか、凛ちゃん。
「あっ……あっ」
わたしは一体、どんな目に合わされてしまうのだろう。
尻もちをついたままだったわたしは、そのまま地面へ仰向けになる。
「負けた……」
そう呟くわたしの顔を挟むよう、両側に綺麗な腕が下ろされた。わたしの上に覆い被さる形を取った凛ちゃんが囁く。
「本当に、どんな事でもいいの?」
わたしを真っ直ぐ見据えた顔は、あまりにもかっこよくて。本当に何でも許してしまいそうになる。
だ、ダメだよ。こんな強引な形でなんて。
「あの……あんまり、えっちな事とかは……」
鏡は無いけれど、顔の熱さは触らなくても感じられる。
弱々しい声と紅潮した顔でこんな事を言っても、これでは逆に求めているみたいだった。
緊張で目をぎゅっと閉じていたけど、少ししてから凛ちゃんが退く気配がして目を開く。そこには残念そうに笑う顔があった。
「なんだ、えっちな事はダメなんだ」
「えっと、ダメ……」
「なんてね。ちょっとからかってみただけ」
口に手を当てて楽しそうに笑う凛ちゃんの顔は、まるで小さい子がイタズラをするように無垢で、綺麗で……可愛かった。やってる事は無垢じゃないけど。
「こ、このぉ……! 弄びやがってぇ……」
「あははっ、ごめんって。だけど残念だなー」
残念? 本当はえっちな事したかったの?
「咲百合にも勝ち筋を与えてたんだけど、気付いてもらえなかった」
どうやら煩悩を抱いていたのはわたしだけで、凛ちゃんはポーカーの話をしているようだった。
「完膚なきまでに叩きのめされたんだけど」
「私、負けるのは嫌だけど相手にも良い勝負はしてもらいたいんだ。だから咲百合の勝てる可能性も残してたよ」
振り返ってみたけど、卓越した洞察力と観察眼。わたしの揺さぶりにも動じず限界まで張る度胸。全てにおいて最強だった。
「分かんない、勝てる要素あったかな?」
凛ちゃんは少し寂しそうな顔をする。
「最初から言ってたよ、私は咲百合の前では正直になるって。だから手札を聞かれても本当の事しか言わなかった」
「あ……」
そう、ポーカーだけでなく。凛ちゃんはわたしに対して、ずっと正直な気持ちを語ってくれていた。なのにゲームだからと疑うことしか考えていなかった。
「わたしは、まだまだ凛ちゃんの事を分かってなかった。やっぱり完全にわたしの負けだ」
やっと分かった。わたしが思ってた以上に、凛ちゃんはわたしのことを信用してくれている。あと、笑顔がめちゃくちゃ可愛い。
これは敵わないなぁ。
「えっちな事は、難しいけど。約束通り凛ちゃんのお願い何でも聞くからね」
「じゃあさ、とりあえずひとつ」
「うん……」
何をお願いされるんだろう。何でもって言ってしまったから少し怖くなってくる。
「明日の追試、絶対に合格してね」
「……! うん!」
まだ40個お願いを聞かないといけないけど、そこにマイナスなイメージは全くなかった。勉強がんばろう。




