第30話 凛vs咲百合 決着
凛ちゃんが14個目のチョコを置いた事で、わたしは窮地に立たされていた。
ここでフォールドした場合、わたしが賭けた13個は失われて残りは2個しかなくなる。まだ、手札が負けていると決まった訳じゃない。逃げるのはダメだ。
レイズした場合、全てのチョコが終わってしまう。手札が負けていたら、わたしの完敗で貞操が奪われる。
こんなはずじゃなかった、さっきの子番で凛ちゃんは降りているはずだった。
レイズとフォールドはダメだ、少しでも虚勢を張らないと。まだ負けると決まったわけじゃない。
「コールで」
レイズもフォールドも怖くて出来ないわたしは、賭けチョコを合わせるコールを選んだ。
お互い14個のチョコを出す、勝てば一発逆転。負けたら借金。
「コールするくらいなら降りた方が良かったと思うけど」
そ、そんな事分かってる! それじゃここまで賭けた意味が無くなるでしょ!
「まぁいいや、ショウダウン」
わたしは凛ちゃんの予想通りワンペア、数字は5。
向こうの手札を見る……なんで? どういうこと?
凛ちゃんの手札は、8が3枚とジョーカー1枚で本当に8のフォーカードが揃っていた。
「あ、あ……そんな」
ぐにゃあっと視界が歪む。
これでチョコは残り1つになった。若干15歳にして借金地獄の確定だ。
わたし、将来ギャンブルとか絶対やっちゃダメだな。
「咲百合、まだ諦めないで。借金してでも私のチョコを0に出来れば勝ちなんだから!」
わたしを追い詰めた張本人がそんな事を言ってくる。
でもその通りだ、わたしにはまだ1個だけチョコがある。
敵の声援で目が覚めた。たったの1回、ここで勝てればいいんだ。
「凛ちゃん、ラストゲーム行こうか」
「その言葉、待ってたよ」
運命の3回戦目、この手札で全てが決まる。
頼む! 強いの来てくれ! どうだ!
……こ、これは。勝った。
わたしの祈りは、どうやらギャンブルの神様に届いていたらしい。
わたしの手元にはKが3枚と、Aが2枚で理論上最強のフルハウスが完成していた。
凛ちゃん、わたしにこの1戦を与えたことを後悔させてあげるよ。
いけないいけない、また顔に出るところだった。
初手で降りられちゃったらこの手札が無駄になってしまう。ギリギリまで引っ張って、最大限レイズさせよう、そして全てのチョコをかっさらう。これは真剣勝負だから悪く思わないでね。
自分では見られないけど、今のわたしはとんでもなく悪い顔をしていると思った。
凛ちゃんは珍しく、わたしの表情ではなく自分の手札を見ていた。
「どうしたのかな凛ちゅわーん? そんなにカードをじっと見つめてさ、もしかしてつよぉいやつ来たのかな?」
自分で言ってても、うざすぎて腹が立つな。
けれど、凛ちゃんはそれどころじゃないようだ。
「ちょっと、自分の運に驚いただけ」
「なにそれ、今度はそういう作戦か」
「どうせ聞いてくるだろうし、私の手札教えてあげるよ。今すぐフォールドすれば、借金はグミ4個で済むよ」
「な、舐めやがって……絶対降りないけど言ってよ」
「Aのフォーカード」
凛ちゃん、その作戦は大失敗だよ。
今回ばかりは本当に嘘だね、動かぬ証拠があるんだから。
まぁ、わたしの手札がこれじゃなかったら疑ってたかもしれないけど。
凛ちゃん……わたし、A2枚持ってるんだよ!!
わたしが2枚持ってる時点で、例えジョーカーを引いていてもフォーカードなんて揃うはずないんだから!!
わたしに2連勝したからって調子に乗っちゃったね。いや今回は運が悪かっただけだよ、よりによってAを選んじゃうなんて。
ダメだ、まだ笑うな。今は怪しまれるような言動を抑えるんだ。ショウダウンの瞬間にしよう。凛ちゃんが手札を開ける瞬間、先にわたしのフルハウスを見せつけて勝利を宣言するんだ。
わたしは顔を崩さないよう、平然を装う。
「Aのフォーカード相手じゃ勝てない、ね」
「うん、だから降りた方がいいよ」
「親番、凛ちゃんだよ」
「……へぇ、やるつもりなら容赦はしないから」
そのかっこいい顔がどんな絶望に染まるのか、考えただけで吹き出しそうだ。
「じゃあベット、チョコ10個」
10個、また絶妙な数を出してきたな。コールしたら借金はグミ9個、わたしを降ろすには丁度いい個数だろう。でも、その手には乗らない。
「レイズ、残りのチョコ1個と、グミ19個」
合計20個、わたしの倍賭けに凛ちゃんが驚いた表情を見せる。
「咲百合? 分かってるの? グミの数だけ、私の言うことを何でも聞かないといけないんだよ?」
わたしの気が狂ったと思ったのか本気で心配されている。
いや、もしかしたらこれは焦り? わたしの強気なレイズに凛ちゃんも焦りが隠せていない?
「あーわたしは全然本気だから、凛ちゃんの番だよ」
「私、忠告したからね。レイズ、チョコ20とグミ10個」
もうめちゃくちゃだ、合計30個?
でも勝ちが確定している試合で張らない訳が無い。
ラスト、私の番だ。
「レイズ、残りのグミ全部」
「咲百合!? ちゃんと数えて! このグミ50個入りだからあと21個は入ってるよ!?」
「凛ちゃん、怖いなら今からでも降りていいんだよ?」
どうした凛ちゃん、いつものポーカーフェイスが崩れているよ。凛ちゃんも負けず嫌いだもんね、ここで情けない敗北をしたら悔しすぎるよね。
「咲百合……確かに今日1番怖かったけど、それは私が負けることじゃなくて咲百合の頭が心配で怖かったんだよ」
周りから見れば正気じゃないかもしれない。だけど、こんなに気持ちのいい瞬間は正気じゃ味わえない。
「いいんだね? これで負けたら、咲百合は最初の提案通り敗北1回分とグミ40個分で合計41個のお願いを何でも聞くことになるんだよ?」
まぁ別に凛ちゃんからのお願いだったら……いや、また朝の5時半に起こされたりするかもしれない。
凛ちゃんが意外と非常識って事を忘れていた。この女、時々予想の斜め上を行くことがある。
少し焦るけど、この勝負は絶対にわたしの勝ちなんだから大丈夫。Aのフォーカードって嘘をつくということは、確実にそれより弱い手札だ。わたしは最強フルハウス、まず負けはない。
「逆に凛ちゃんが負けたら、11個のお願いを聞いてもらうんだからね」
凛ちゃんはグミ10個を借金している、勝負の敗北1回分と合わせて11個だ。
「はぁ。最後に私の親番が残ってたけど、もうグミは無いしショウダウンしようか」
来た、この瞬間。




