第29話 凛vs咲百合 ②
2人で山札を切って、2回戦が始まった。
さっきは負けることばかり考えていて、弱気になってしまった。凛ちゃんが言う通り、手札の強さだけがポーカーじゃない。相手を降ろすことも重要だった。
2回戦、わたしの手札は……ブタ。
勝負は始まっている、今度はわたしも表情に出さないよう気を付ける。
ここで交換する枚数も大事だ、さっき言われた言葉を逆手に取って相手の思考を誘導するんだ。
わたしは、1枚だけカードを交換する。これを見た凛ちゃんは、さっきのようにツーペアかそれ以上の役が頭をよぎるハズだ。
そんなわたしの姿を観察していた凛ちゃんが、全てを見透かしたかのように口を開いた。
「さっきと同じで1枚交換か。確率的にはツーペアと思うのが無難だけど。前回1枚交換を指摘して、またすぐに同じことをするのは、まるで私にそう思わせたい。そんな風に感じられる」
こいつ……本当にエスパーとかじゃないの?
「エスパーじゃないよ」
「え!?!? 声に出てた!?」
心の声に返事をされて思わずかなり大きい声が出てしまった。
「あ、ごめん。今のは言ってみただけ」
急な大声で驚いた様子を見るに、適当に言っていたのは本当らしい。わたしが分かりやす過ぎるんだ……。
「実は、ただ1枚交換しただけじゃ私でもそこまで言い当てられない。だから、さっきの発言そのものが揺さぶりだったんだけど。咲百合の反応のお陰で手札が分かったよ」
あまりにもこちらの思考を読み取ってくるので、わたしもムキになって言い返す。
「よく喋る口だね。本当は余裕が無いんじゃないの?」
「じゃあ咲百合の手札を言い当てるよ」
さっき1枚だけ交換したカード……その結果は。
「ワンペア、でしょ」
本当になんで分かるの。ヤバい、怖い。自分が崖っぷちに追い詰められているのを感じる。なんならもう落ちてる。
顔に出さないように、耐えるんだ。
「初手がブタかワンペアの弱い手札で、強く見せるためあえて1枚だけ交換したなら、ワンペアが揃っている確率は高いと思って」
あまりにも鋭すぎる観察眼に脱帽してしまう。
「どうだろうね、ここまでわたしの思惑通りだったりして」
苦し紛れのセリフが本当に情けない。
「ふふっ、楽しみだねっ」
口に手を当てて、乾いた大地に柔らかい笑顔が咲き誇る。
あれ、今……凛ちゃん、めちゃくちゃ自然な笑顔だったような。育てていた花が、満を持して開くような気持ち良さ。
「どうしたの?」
本人はそれに気が付いていないようで、わたしが顔を見つめていることを不思議がっていた。
「ああ、そういう事か。私は交換無しでいいよ」
そういう事ではないんだけど、その笑顔を指摘するのは野暮だと思ったから言わない。人が笑うことなんて普通なんだから。笑う度に、今笑ってたよとかいちいち言ってくる友達なんて嫌だろう。
何より、指摘した結果あの可愛い笑顔がずっと見られなくなってしまったら、一生後悔すると思う。
「ふーん、交換しないんだ。自信満々だね」
「咲百合の手札がワンペアでも何でも、多分勝てるし……ってなんかご機嫌だね」
「あれ、顔に出てたかな。何でもないよ、楽しいだけ」
「んー……とりあえずベットしてよ」
なんか凛ちゃんの笑顔見たら、ポーカーの勝敗とかどうでも良くなってきちゃった。凛ちゃんもわたしと遊ぶのが楽しくてあんな表情になったって事だもんね、すごい嬉しい。ニヤニヤが止まらない。
「ちょっと咲百合? ずっとニヤニヤしてて気味が悪い」
「え? ポーカーってこういうゲームでしょ?」
とにかく、どんな顔でも心中さえ隠せればいいのだ。
「勝負に集中してないように見える。これは真剣勝負だよ、負けたら貞操奪われるんでしょ」
「えっ!? 奪われちゃうの?」
「奪わないけど……咲百合が言ったんじゃん……」
凛ちゃんになら奪われても……ってそういう問題じゃなくて、真面目にやってほしいって事だよね。
「ごめん、ちゃんとやるから少し考える」
わたしはワンペア、凛ちゃんは交換無しって事は強いカードなのかな。また聞いてみるか。
「じゃあ、わたしがワンペアだとして。凛ちゃんの手札も教えてくれなきゃフェアじゃないよね」
さっき言い当てられたのを口実に聞き出す。
「確かにね、私は8のフォーカードだよ」
また思い切った嘘が出たな。1枚も変えずにフォーカードなんて都合が良すぎるよ。凛ちゃんはわたしより弱い手札でも関係なく、思いっきり張れる人間だと分かった。そんな凛ちゃんよりも更に張ることで、凛ちゃんを怖がらせて降ろす。
例え少し強い手札でも、わたしが限界までレイズしたら怖くなってくるだろう。さっきのニヤつきで不信感も出ているはずだし。
わたしのチョコは残り15個。
「決めた、10個ベットする」
10個のチョコを机へ置く。これでわたしの残りは5個。
凛ちゃんはニヤッと口を緩めた。
「ふーん、結構強気に出たね」
わたしも同じように、凛ちゃんへナメた顔を見せる。
「怖気付いたかな?」
「私が子番だよね、レイズ12個」
「あれ?」
「親番だよ、どうするの」
レイズは想定外だった、ここで降りたらベットした10個を失う事になる。
いやいや、これは予定通り。わたしが限界までレイズすれば凛ちゃんも怖くなってくるはずだ。ワンペアと言い当てられたわたしがここまで張れるって事は、実はすごく強いカードなんだって。
「レ、レイズ13個……」
「レイズ14個」
わたしがチョコを置いた瞬間、更に追加で白チョコを置いてきた。追い詰められ、怖くなっていったのはわたしの方だったらしい。




