第26話 頭脳明晰、容姿端麗
「早速だけど、ポーカーやらない?」
初めてわたしの部屋へと足を踏み入れた凛ちゃんに、トランプの箱をチラつかせながら提案してみる。
凛ちゃんの反応はイマイチで、全然乗り気じゃないように見えた。おかしいな、トランプなんてみんな大好きだと思ったのに。
ベッドと勉強机の間に置かれた丸いテーブルに、お菓子が入った袋を置いた凛ちゃんが呆れた様子で言葉を返してくれた。
「今日、数学を教えるために来たんだけど……」
言われなくてももちろん覚えている、明日の放課後には数学の追試が控えていた。
昨日の夜、凛ちゃんから追試を心配するメッセージが届いていた。でもわたしは、昨日の放課後に桜ちゃんと勉強をしたのでテスト範囲はほぼ完璧だった。なので、勉強というのは建前、わたしが凛ちゃんと遊びたかっただけ。
「え〜? 少しくらい大丈夫だよ。それに、昨日の放課後桜ちゃんとも少し勉強したんだよ?」
なんと、彼女は数学95点の才女だった。
「桜ちゃん……ああ、恋乃さんか」
「よく覚えてるね、わたしは苗字すら初めて知ったのに」
「自己紹介聞いてたから、多分咲百合が無関心過ぎる」
「クラスの中だと凛ちゃんの名前しか覚えてなかったわ」
「ふーん……」
照れているのか、表情だけではやはり読み取れない。
「数学、私の方が教えられるし……」
予想外な事に、桜ちゃんへの対抗心を燃やしているようだった。意外と負けず嫌いなのかな、少し可愛い。
「えー? でも桜ちゃん95点だよ? さすがに」
わたしの言葉を聞きながら、凛ちゃんは自分のカバンに手を入れクリアファイルを取り出してきた。
「ん?」
手渡された紙には見覚えがある。これは、中間テストの答案用紙? 教科は数学か。
『結月凛 98点』
「え!?」
「私、クラス1位だよ」
この答案用紙は間違いなく凛ちゃんの物で、点数も見間違いは無かった。クラス1位の数字。
「マジか……ごめん。これは本当に予想外」
「まぁ、少し自慢したかったのが本音。はい」
はい、と言ってクリアファイルごと渡してきた。中をよく見ると他の教科のテストも全て入っているようだ。
「ちゃんとファイルにまとめてるのすごいな、わたし折り畳んでカバンに放り込んでるよ」
まさかと思い、全教科の点数を確認してみる。
「こ、これは……すごい」
全部が95点以上。それだけじゃない、各教科の担任が言っていた最高点数、多分全て凛ちゃんが取っていた。
「こ、こんなに頭良かったの……?」
「まぁ、中学の頃……今もだけど、勉強くらいしかやる事無かったから、気が付いたらずっとトップだった」
わたしが中学校から逃げている間も、凛ちゃんはずっと向き合っていたんだ。これは天才の一言で片付けられる事ではなく、凛ちゃんの努力。正真正銘の実力。
「カッコよすぎるよ」
「まあね」
無愛想でも、誇らしげな顔なのが分かる。
「特に見せ合う相手もいなかったから、こうやって自慢できたのは咲百合が初めて」
「本当にすごいと思う、わたし勉強嫌いだから……」
「……咲百合には、ちゃんと追試を合格してほしい。じゃないと一緒に遊べる時間が減っちゃう」
凛ちゃんは、いつだってわたしと居ることを考えてくれている。この前早朝にやって来たのも、その気持ちが先走り過ぎた結果で、今では本当に愛おしくも思う。
「ありがとう……今日は真面目に勉強するね」
「あ、でもポーカーはする」
「えっと、今から?」
「うん」
今の流れは、わたしが改心してこのまま真面目に勉強へと移行するのが自然じゃなかった? いやいいんだけど。
「でもなんで急にポーカー?」
「だって凛ちゃん、なんとなーく楽しそうな顔している時もあるけど、基本的に無表情でしょ?」
「まぁ」
妹や猫の話をする時は柔らかい顔をしているけど、それは決して笑顔ではなかった。
「だから、ポーカーで勝負したらめちゃくちゃ強そうだと思って」
一言で表すなら、ポーカーフェイス。
「なるほどね。いいよ、受けて立つよ」
「凛ちゃんって……もしかして、結構負けず嫌い?」
「よく分かったね」
「なんか勝負事になると真剣だし、今もポーカーやると決まった瞬間に目の色が変わったよ」
「そ、そうかな……やるからには負けたくないだけというか」
それを負けず嫌いって言うんだよ。
「ちなみに、勝ったら何かあるの?」
わたしは気楽に少しポーカーをやるつもりだったけど、どうやら凛ちゃんはガチらしい。勝った時の報酬を要求してきた。なんか思ったより面白くなってきたぞ。
「そうだなぁ……ありきたりだけど、勝った方のお願いを何でもひとつ聞くとか」
わたしも凛ちゃんに聞きたい事があったし。
「何でも?」
鋭い目つきで再確認をしてくる。
「え、まぁ。何でも……」
一体何をするつもりなんだろう。
「よし、やろう」




