第24話 結月家
『今日の放課後は教室で勉強するから、公園集会は無しで!』
昼頃に届いたメッセージを眺めながら歩いていたら、気付くと家に到着していた。
テスト期間中でも関係無く公園で話していたから、真っ直ぐ家へ帰るのは久しぶりだった。
白い壁に黒い屋根、どこにでもあるような普通の一軒家。
玄関横の駐車場には何も止まっていない、お母さんはまだ仕事中のようだった。仕事が早く終われば、私と同じくらいの時間には帰って来ているが、遅い時は22時まで働いてる事もある。
そんなお母さんの負担を少しでも減らしたいから、出来るだけ家事は自分でやるようにしている。料理は嫌いじゃないけど、毎日の献立を考えるのが大変。妹は野菜残すし。
「ただいまー、ぐふっ!」
玄関を開けて中へ入ると、小動物みたいな影がすごい勢いでタックル……じゃなくて抱き着いてきた。
「姉ちゃんおかえり!!」
「危ないから思いっきりタックルしないでね」
「鍵の音がしたから待ってた!!」
待ち伏せされていたようだ。車の音が聞こえなかったので私だと断定したのだろう、お母さんには普通に抱き着いてるから、タックルする相手はちゃんと選んでいるらしい。
可愛い妹の、可愛い頭を撫でる。
「ただいま、鈴」
「おかえり!! 姉ちゃん!!」
そのまま抱っこするような形でリビングへ一緒に行く。
「また背伸びたんじゃない?」
毎日見ていると気が付かないけど、去年よりも大きくなっているような気がした。
「そのうち姉ちゃんよりおっきくなっちゃうからね」
「まだまだ遠いよ、私168cmあるから」
去年より4cmも伸びてた。
「大きいのかわかんなーい」
「だよね」
私が9歳の頃は……背の順が最後尾だったのは覚えているけど、何cmだったかなんて覚えてない。
「姉ちゃんゲームやろ、おっさんカートの新しいやつ」
「いいけど、晩ご飯作ってからね」
先にご飯を作っておけば夕飯までゆっくり遊べる、私は大変な事とかを先に済ませたいタイプだ。
「私も手伝うー」
ゲームを置いて、とことことキッチンまでやって来た。
「じゃあ玉ねぎの皮剥いといて」
「えー、玉ねぎかぁ。なに作るの?」
「ハンバーグだよ」
「え! 自分で作るの? 電子レンジじゃないんだ!」
大きい目をキラキラ輝かせて、下から覗き込んでくる。
いつもは冷食や湯煎のハンバーグだけど、たまには作ってみるのもいいかなと思い材料を買ってきた。手間はかかるけど、鈴のこんなに喜ぶ顔が見られただけでその選択に間違いは無かった。
「一緒に作ってお母さんを驚かせよっか」
「うん!!」
包丁は危ないから私が使うとして、鈴には材料をこねててもらおう。
私とは正反対の短い黒髪、顔も可愛さだけで怖さなんて全く見えない。姉の自分から見ても私たち姉妹は全く似ていなかった。いっそ咲百合の方が鈴と似ているくらいだ。
似ていなくても、正真正銘血の繋がった私の大事な妹には変わりない。
そういえば咲百合は姉妹とかいるんだろうか。時々私の事を妹みたいに扱ってくるし、私と同じで妹とかいるのかな。
私が咲百合と手を繋ぐのは、甘えたいとかではなく落ち着くからなんだけど、そんな事わざわざ言い訳するのもおかしいし。多分どっちも本質は似たようなものだから、そう思われてても仕方ないけど。
「姉ちゃん、最近楽しそうだね」
「えっ? 私なにか変だった?」
昔から仏頂面とか無愛想とか色々言われてきたし、私自身そう思ってるから、顔を見ただけでそんな事を言われてビックリした。やはり毎日一緒にいるからなのか、顔や態度に出ていなくても分かるらしい。
「ううん、別に。なんとなく」
「私、もしかして笑ってた?」
「姉ちゃんはいつも笑顔だよ?」
「そっか」
大好きな家族相手には自然と笑っていたみたい。言われるまで気が付かなかった。
「もしかして! 友達作れた?」
友達。少し前までは、それがどういう存在なのか分からなかった。どうやったら作れるのか、どうしたら他人を友達と呼べるのか、なんて難しい事を考えていた。
だけど……最近は友達って単語を聞くと、意識しなくても一瞬であの子の顔が思い浮かぶ。
なんだ、友達ってそんなに複雑なものじゃなかったんだ。
「うん、友達ができたんだ」
「えええ!! あの姉ちゃんが!? すご!!」
昔から学校が終わるとすぐに帰ってきて、家事の手伝いなどをしていたからなのか、妹も私がぼっちな事に気が付いていた。
「私が姉ちゃんに友達の作り方を教えてやろう!」とか言われた日もあった。まずは会話が大事だよって言われたけど、今思えば本当にその通りだ。会話をしたから咲百合の事を理解出来た、私の事も分かってもらえた。
「今度連れてきてよー! みんなで遊ぼう!」
いつも咲百合の家に遊びに行ってたから、そろそろ私の家に来てもらうのもいいかもしれない。
「うん、近いうちに連れてくるね」
「やったー!」
私は、普段から結構咲百合の事を考えているのかもしれない。少し照れくさいけれど、毎日楽しい理由は多分それ。




