第23話 高嶺の花
恋乃さんは数学がかなり得意らしく、クラスでも2位くらいの点数だった。担当教科の先生たちは誰が1位だったかなんて教えてはくれないけど、クラスでの最高点数が何点だったかは発表してくれた。
1位の子が98点で恋乃さんが95点だったので多分2位だろう。
ちなみにわたしは29点。平均点の半分である32点が赤点ラインなのでアウトだった。
逆に国語なら現代文も古文も得意だし、わたしも頭が良いってところを見せつけちゃうぞ。
「そういえば、わたしの事は下の名前で呼んでよ、龍園って堅苦しいし呼びにくそう」
少し休憩のタイミングで切り出してみる。
「じゃあ、咲百合さん」
「うんうん」
「私も名前呼びでいいですよ」
うーん、下の名前覚えてないな。失礼だけど誤魔化さないで聞くしかないか。
「ごめん、名前なんだったっけ?」
「えっ……そうですよね。印象薄いですよね」
「結月さんが前の席でそっちに気を取られてて! 他のクラスメイトも全然覚えてないから大丈夫!」
ただ顔と名前覚えるのが得意じゃないだけだったけど、咄嗟に凛ちゃんへ責任転嫁する。半分本当だし。
「え、結月さん?」
急に出てきた凛ちゃんの名前に驚いているようだった。
「あ、私の名前は桜。恋乃桜です」
「可愛い名前だ、よろしくね桜ちゃん」
「はい……あの」
「うん?」
「咲百合さんは結月さんの事どう思いますか?」
急にそんな事を聞かれて驚いたけど、さっきわたしが凛ちゃんの話を出したからか。
実際学校だと凛ちゃんの話題すら出ないし、そもそも本人の居る前でそんな話はできないもんね。
まずは桜ちゃんがどう思っているか知りたい。質問に質問で返すのは良くないけど。
「うーん、どうって言われても……逆に桜ちゃんはどう思う?」
ちょっと強引な返しだったかもしれない。でも、凛ちゃんの話題は取り扱いが難しいらしく、こんな返事でも問題は無いみたいだった。
「実は私、結月さんの事気になってて……」
いろはちゃんとはまた違った反応だった。
「怖くはない……ってこと?」
「いや、怖いは怖いです!」
「あ、そうなんだ」
やっぱ怖いのは同じかぁ。
「気になるって言うのは……その、顔がかっこいいというか」
そう来たか。確かにめちゃくちゃ美形だし。わたしもあの顔にいつも見惚れてる。
「それは、分かる。かっこいい」
でも笑った顔はすごーく可愛いよ。まだ、見た事はないけど。
「私、かっこいい女の子が好きで……」
それも分かるなぁ。女性の魅力って可愛いだけじゃないんだよね。
もちろん男性だってかっこいいだけが全てじゃないし、可愛い男の子だって需要はある。わたしは男子の魅力とかよく分からないけど。
「もし結月さんみたいな人が恋人だったらいいなって」
うっとりと虚空を見つめる姿はどう見ても恋する乙女だった。もしかして、この子……。
「女の子が好きって、そういう事?」
わたしの顔は見ず、黙って頭を縦に降ろした。
桜ちゃんは強い。同性のわたしにカミングアウトして、引かれたらどうしようとかは思わないんだ。
実は勇気を振り絞ってるのかもしれない。
「大丈夫、わたしはそういうの偏見無いから。応援する」
別に、凛ちゃんはわたしだけの人って事は無いんだし。万人から好かれて、怖がられないならそれに越したことはないと思う。
「あ、ありがとうございます……でも、見た目はすごく好みなんですけど、やっぱり話したことないし怖さが勝っちゃって」
どうしても怖さは消えないのかぁ。
「思い切って話しかけてみてもいいんじゃない? そう思い込んでるだけで実際は怖くないかもよ?」
わたしだけでは、凛ちゃんに貼られたレッテルは剥がせないのでもう1人仲間がほしい。
「……怖くなかったらそれはそれで解釈違いみたいな」
「え?」
「孤高な感じがまた魅力的というか、怖いままだからこそかっこいいみたいな。高嶺の花に手が届いちゃったら価値が薄れるし」
「え?」
まさかの厄介オタクムーブで来るとは思わなかった。そういう見方もあるのか、分からなくは無いけど。
というか、ただの面食いな気もする。
「だから恋愛感情とかじゃなくて、ただ見た目が好きなだけですね」
なんか勝手にスッキリした顔になってるし。前髪のせいで目元は見えないけど。
「そうみたいですね……わたしも結月さんの顔好きだし」
「ですよね! 咲百合さんとは気が合いそうです!」
今日、桜ちゃんに話しかけてなかったら、名前を知ることもなかった。きっと暗い子という印象のままだった。
やっぱり会話もせずに相手の事を分かった気になるのはダメだと思う。だから、本当は凛ちゃんに話しかけてほしかった。怖いとは真逆に位置する人間だって知ってほしかった。




