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凛と咲き誇る百合の花  作者: イチノセ
第1章 ファーストコンタクト
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第1話 わたしのクラスの不良少女

「わたし、⬛︎ちゃんの事が好き……」

 わたしの言葉を受け取った彼女は困ったように口ごもる。

 その顔じゃ、わたしの欲しかった言葉はきっと返ってこない。

 それでも。


「女の子同士で付き合うのがおかしいのは分かってる! でも……好きなの……」


「えっと……ごめん、私は――」









 高校生になってから、もうすぐ2週間が経とうとしていた。中学の頃もそうだったけれど、大体このくらいの時期になるとクラスでのグループやスクールカーストなんかも決まってきて、いい意味でも悪い意味でもクラスというのが出来上がる。わたしもちゃんと普通に友達ができて普通に授業を受けていた。


 でも他のクラスは違うみたい、わたしは交友関係広くないけど誰かの噂とかは嫌でも耳にする。特に女子トイレは苦手だ。

 個室にいると鏡前で喋ってる女子たちの会話が聞こえてくることがよくある、○○ちゃんが最近うざい調子乗ってるとか○○先生気持ち悪くない? とか、そういう話してるところに割り込んで手を洗ったりとか怖くて出来ないからやめてほしいよ。

 やっぱりどこのクラスも完璧に平和ってわけじゃ無さそう……。

 ただ1つ、うちのクラスを覗いて。


 わたしたちのAクラスには絶対的な存在がいる、それは私の前の席に座る女の子「結月 凛(ゆづき りん)」さんだ。

 校則で染髪が禁止されていて、わたしも同級生も先輩たちも全員黒髪の中、彼女だけはキラッキラな金髪を輝かせていた。後頭部の高い位置で結んだ金色のポニーテールがすごく目立つ。

 更にはいつも無表情で開いたところを見たこともない小さい口、少しだけつり上がった目、整った顔立ちだけどハッキリ言ってすごく怖い顔をしてる。


 そして極めつけは入学初日から流れていた彼女の噂だ。

 わたしは噂話とか大嫌いだけど、やっぱり学校に通っていると必ず耳にしてしまう。

「毎日他校の不良と遊びまくってる」

「自分だけ金髪が許されているのは、教師たちに身体を売っているから」

「入学早々近所のお婆さんにカツアゲしてた」

 他にも色々言われてたけれど……どれもあんまり信じられないなぁ。

 特に酷いと思ったのが「小学生の頃、結月さん1人でクラスの女の子3人をボコボコにした」という話。

 大体高校なんて色んな地区、または県外から来る人だって居るのに小学生の頃の話がまだ流れていることに驚きだった。

 わたしは県外の中学だったから、結月さんの逸話どころか名前すら知らなかったし、こんな話誰かが悪意を持って流してるとしか思えない。

 そもそも金髪と顔だけで不良って決めつけるのは酷くない? 今どき金髪なんて普通にいるでしょ。

 本人も特に否定はしてないし、いつもぶっきらぼうだからなんとも言えないけど……。


 実際みんな怖がって結月さんの周りにはいつも人がいない、もちろんそれをいじるような輩もいない。

 ぼっちというよりは孤高の存在。彼女がクラスに居る以上はクラスカーストを作って目立つような存在になったり、はたまた誰かをいじめたりなんてできない、下手に目立って結月さんの標的にされたくないって事だろう。


 そもそもうちの高校は割と偏差値高めで真面目な生徒が多いから、いじめとかはあんまり少ないと思うけど……多分。

 まぁ大袈裟に言うと、共通の敵が居ることで団体がひとつにまとまるのと一緒で、クラスのみんなは結月さんに狙われないように皆同じくらいの地位を築こうとしていた。


 そんな中、わたしはずっと結月さんに話しかけるタイミングを伺っていた。

 結月さんが本当は優しい人だって思ってるし、それに……わたしは人のことを噂だけで決めつけたくないから。


 授業終わりのチャイムが鳴って先生が教室から出ていく。

静かだった教室からは少しずつ話し声や笑い声が戻る。

 友達と談笑する人、少ない時間で睡眠を取る人、次の授業の予習をする真面目な人、飲み物を買いに自販機へ行く人やスマホをいじる人、みんな色んな過ごし方がある。

 そんな授業間の10分休み、目立たぬよう少しだけ控えめな声で前の席の結月さんに声をかけてみた。


「あの、結月さん」

 …………


「えっと、なに」


 返事は少しの間を置いて帰ってきた、多分5秒くらいだったと思うけど、すごく息苦しくて体感10分に感じたなー、もう授業始まるかなって思ったけど今授業終わったばかりだった。

 気だるそうにそっとこっちを向いた結月さんの顔が、思ったよりもかっこよくて言葉に詰まる。

「あ、え〜っと……」

 とりあえず話しかけたけれど全然何も用事は無かった、確かめたいことはあったけどそんな急に切り出す話でもないし……。


「……用事があるから話しかけてきたんじゃなかったの」

 睨んだような目でわたしの顔を見る結月さん。少し低めで冷たい声質。

 結月さんの声をちゃんと聞いたの自己紹介以来だな……。

 うーん、もしかしたらやっぱり怖い人なのかな。返事の仕方というか冷たい口調というか、怒らせちゃったかな……という気にさせられる。

「あ、えっと……ごめん」

 思わず謝っちゃった!


「はぁ……」


 ため息とも返事とも分からないような声を漏らして、結月さんは再び前を向きスマホへ視線を落とす。


 ちょっとお手洗いに行こう。席を立って廊下に出たところで今度はわたしが声をかけられた。

 結月さんとは対照的に高めで明るいこの声は……同じクラスで友達の「小森(こもり)いろは」ちゃんだった。


「ゆりりん、もしかして今結月さんに話しかけてなかった? 大丈夫?」


 わたしの名前が咲百合(さゆり)だからこの子はゆりりんってあだ名で呼んでくるんだよねぇ、全然嫌じゃないけど、今までこんな風に呼ばれたこと無かったからまだ慣れない。


「あ、うん……少し聞きたいことがあったんだけど上手く言葉が出なくて」

 いろはちゃんは腕を組んで頭を縦に振りながら答える。

「ウンウン、わかるよ〜! あの威圧感の前じゃ喋れないよね、それで怒られる前にトイレに逃げ出したってわけか」


「別に怒りそうな気配は無かったけどね、むしろ話しかけといて用事も言わず急に謝ってきたわたしに、文句のひとつくらい言ってきてもいいのに?」

 逆の立場だったら普通にムカつくし。やっぱりそんなに怖い人じゃないかも。


「ゆりりんどこ向かってるの?」

「ちょっとお手洗いに」

「じゃ、あたしもー」

 なんて会話をしながらいろはちゃんの顔を見る。


 小さいお顔に大きな目と八重歯が特徴的で話しやすく、クラスのペットみたいな存在でかわいいんだよね。

 身長もわたしより5cmくらい低くて150cmってとこかな? 制服着てるから分からないけど、結構華奢な感じがする。茶色がかった黒髪はボブカットで短く揃えられていて、顔の小ささがより分かりやすい。

 少なくとも一緒にいる時は、他の人の悪口とか言わないタイプの子だから安心する。もし内面は黒くて、わたしがいない時にわたしの悪口とか言われてたらかなりショックだし考えたくない。


「ゆりりん? どうしたのそんなにあたしの顔じっと見つめて」

 無言で考えごとしてたらつい見すぎちゃってた、だって顔かわいいし。

「いや〜、かわいい顔してるなって思って」

 あ、普通に言っちゃった。


「……なんで急に口説いてくるの? そんな真っ直ぐ言われたらさすがに照れちゃうナー」

 組んでいた両手をほっぺに当てて照れてる仕草をしてる姿が絵になる。

「ほら、あの、猫とか犬とか見かけると無意識にかわいいって言っちゃうし!」

 そういえば猫って人からかわいいって言われすぎて自分の名前を「かわいい」だと思ってる節があるとか……かわいいね。

「いろはちゃんもそのうち自分の名前をかわいいって思うようになるかな?」

「ならないよ!?」


「それにしても、う〜ん……」

 ペット扱いに多少の不満みたいなのがあるのか微妙な反応を見せるいろはちゃん。

「まぁ内容はどうあれ可愛いって言われたら悪い気はしないけどさ、ゆりりんみたいな黒髪ロングの正統派美少女に言われると少し複雑かも」

 と言って流し目でわたしの顔を覗き込んできた。そういうところがかわいいんだよ。


 さすがに自分で自分の顔を可愛いなんて言わないけれど、結構色んな人に顔を褒められるからそれについては否定しない。

「えへへーありがとう、でも嫌味でかわいいって言ったわけじゃないからね。かわいいにも色んな種類があるしいろはちゃんもかわいいよ〜」

 またかわいいって言っちゃった、あんまり言い過ぎて引かれてないといいけど。


 返事が無いなって思ってたら、急に。

「ゆりりん、結月さんにもう1回話しかけてみなよ、何かされそうだったらあたしが助けてあげる!」

 さっきの話に戻った!

「そんな、助けるなんて大袈裟だよー、多分そんなに危ない人じゃないと思う! でもありがとうね。」

 わたしの見たものが正しければ、結月さんはきっと優しい人だと思うから。


 自信ありげな顔でサムズアップするいろはちゃんは少し頼もしかった。


 あれから3日経ったけど、結局結月さんとは何も話していない。


 暖かい春の陽射しが眩しくて……窓際で、しかも後ろの席に座るわたしは、眠さと戦っていた。

 名簿順が後ろのおかげでいい席になれたなぁとしみじみ思う。

 そんなわたしの前に座る結月さんは、お行儀良く背筋を伸ばし、特に太陽を気にかけもせず真面目に授業を受けていた。

 これのどこを見て不良だなんて思うのだろう。

 太陽と同じくらい輝いて見えるその髪は、眠気が覚めそうなくらい眩しい。

 でも午後は体育の持久走だし、今のうちに体力養っておかないと! と言い訳をしたわたしは、結月さんの影に溶け込み机に突っ伏した。



「はっ……はっ……はぁぁ!」

 持久走、苦しい……!

 さっきの授業中に養った体力は最初の2分で消費されてしまった。

 女子の持久走は1000mだからこのグラウンド4周分、まだ1周しか走ってないのにもうへろへろ……。


 クラス29人、男子18人と女子11人。

 男女で別れて2人1組を作り、1人が走ってる時にもう1人はペアのタイムを計測って感じだ。

 わたしは苦しいことは先に終わらせたい主義だから先行を選んだ。

 わたしのペアで、タイムを測ってくれているいろはちゃんがすごく心配そうな顔をしている……。

 笑顔で周回ラインを通り過ぎようと思ったけどそんな余裕すら無かった。


 それでも走るしかない!


 頑張れわたし、あと1周だぞ!

 そんな時だった、走るどころか動くのすら精一杯だったわたしは、自分の足につまずき体勢を崩してしまった。

 先に走り終わったクラスみんなの視線が集まる中でこれは恥ずかしい!

 そんなこと言ってる場合じゃなく、膝と手で地面に着地したわたしはその直後、膝の方に強烈な痛みを感じた。

「いたっ……!」


 いろはちゃんが駆け寄ってくる。

「ゆりりん! 膝、怪我してる!」


 わたしは自分の膝を恐る恐る見た、赤く擦りむいた両膝には砂が付着していてあまり分からなくなってるけど、この痛みが何よりの証明だった。


 体育担当兼、クラス担任の花山先生もすぐに来てくれた。

「すまない、無理させず途中で辞めさせるべきだった」

 いやいや、体力不足で運動音痴なせいで謝らせちゃってこちらこそ申し訳ない。

 わたしは無理して笑いながら答える。

「あはは……自分で転んじゃったんですし、大丈夫です。保健室に行ってきます」


「悪い……俺も後で様子を見に行くから、とりあえず結月、一緒に行ってやってくれないか」


 結月さん……女子11人だと1人余っちゃうから、先生とペアを組んでいたみたい。

 次は今までタイムを測ってた人と交代で、先生は走る意味無いし、それで既に走り終わった結月さんをご指名なのかな。

「はい、分かりました」

 別に面倒くさそうな顔もしてないし嫌そうでもない、なんで自分が? とか反抗的な返事でもないし普通に快諾してる。

 やっぱり絶対この子不良じゃないよね。


「先生〜、あたしでもいいですけどぉ……」

 いろはちゃんがおずおずと手を上げて発言する。


「ありがと、いろはちゃん。でも大丈夫だよ、わたしのせいで記録付けられなかったら申し訳ないし。」

「そっか……て事はあたし先生に直接タイム測られるの?」

 小声でまじかぁ……って呟いてる姿がおかしかった。

 確かに花山先生、体育の授業中は真剣だし怖いから分かるけどね。


 少し離れた位置にいた結月さんが近付いてくる。

 身長167cmくらいかな? 結構スレンダーな体型で、すっと伸びた手足はまるでファッションモデル……。

 わたしと同じ学校指定のシャツ+ハーフパンツの体操着なのに、違う服を着てるみたいだった。


 地面に座ったままのわたしを見下ろすように結月さんが腰を少し曲げて左手を差し出してくれた。

「ほら、立てる?」


 結月さんの手を、わたしも左手で握り返す。

「あ……ありがと」

 と言いながら立ち上がろうとしたわたしの、ぎこちない足の動きを見られてたのかは分からないけど、結月さんは繋がった左手をそのまま自分の首へ回して立ち上がり、右手でわたしの背中を支えてくれた。

 こんな風に、誰かに肩を貸してもらうのなんて初めてかもしれない。

 多分自力でも歩ける程度の傷だったけど、結月さんの温かさを手放すのが惜しくて、わたしは恥ずかしながらも彼女へ身を委ねることにした。

 

「行こう」

 わたしの頭上で一言だけ呟いた結月さんと一緒に、保健室へと歩き出した。

 好きな百合作品は沢山ありますが、自分好みのシチュエーションや展開は自分にしか作れないと思ったので書いてみました。

 硬派でよくあるストーリーかもしれませんが、これから彼女たちがどうなっていくのか、一緒に見守ってもらえたら嬉しいです。

 小説の書き方はまだまだ手探りで勉強中ですが、これからもよろしくお願いします。


 次回からもう少し百合要素もあるのでどうかお楽しみに!

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