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このイケメン、手がかかりすぎるんですけど!

 あまりの衝撃で頭が真っ白になる。

 ショック過ぎてフリーズしてしまう。


 ……はっ! いけない。

 これじゃ、ただガン視してるように思われてしまう。

 

 私は心を落ち着かせるために、一旦、振り向いて息を整える。

 心臓が耳元で爆音鳴らしてる。マジでヤバい。

 

 まさか、いきなりラッキースケベに遭遇するなんて……。

 

 上半身だけでこの破壊力。

 もし下までいってたら……あの世行きだった。

 

 大丈夫。落ち着いて、私。

 ここは致命傷で済んだんだからラッキーと考えるべきだ。

 

「何やってんだ、お前?」

 

 突如、真後ろから声がする。

 同時に、肩を掴まれ無理やり振り向かされた。

 

「んー?」

 

 盛良くんは目を細めて、顔を近づけてくる。

 

 うわー! 近い近い近い!

 

「なんだ、赤井か」

 

 パッと顔を離してくれる盛良くん。

 どうやら結構な近眼らしい。

 いつもはコンタクトをしてるのかな?

 

「……てか、なんで、お前が俺ん家いんの?」

 

 まだ寝ぼけてるせいか、半分目が閉じている。

 

「麗香さんに頼まれて……って、上、着てください!」

「んん? ああ、そっか。いや、この時期暑いからさ、寝るとき、上半身裸なんだよね」

「いいから早く着てください!」

「ったく、ガキかよ」

 

 盛良くんはクローゼットではなく、私の横をすり抜けて部屋を出ていく。


「ちょっと、どこ行くんですか!?」

「洗面所。顔洗うんだよ」

「いや、先に上、着てくださいよ」

「あん? 濡れたらまた着替えないとならないだろ」

 

 私の言うことを無視して、スタスタと歩いていく盛良くん。


 いや、濡れるって……顔洗うの下手かよ。

 

 

 

「……コンビニじゃダメなんですか?」

「俺、食べ物には気を使ってんの」

 

 上にシャツを着た盛良くんがソファーに座って虚ろな目をしながら言う。

 顔を洗ってもまだ完全に目が覚めてないようだ。

 麗香さんが言っていた、寝起きが悪いっていうのも頷ける。

 

 で、私は何をしてるかというと、料理をしている。

 盛良くんの朝食だ。

 

 一応、お母さんが再婚した頃から料理をするようになった。

 ほとんど、お母さんは家にいないし、お兄……圭吾にいつも作ってもらうというのも気が引けるからだ。

 だから、まだまだレパートリーは少ないが、そこそこの料理は作れる。


「できましたけど」


 私がそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、ふらふらしながらテーブルにやってくる。


「……パンとベーコンエッグって。ベタ過ぎだろ」

「いや、だって、材料なかったし。時間もないし」

 

 ホントは野菜とか肉も冷蔵庫の中にあった。

 最初は凄いの作って驚かせてやろうと思ったけど、失敗したら目も当てられない。

 ……まだ自信ないし、冒険するのはやめておいた。

 だから、無難なトーストとベーコンエッグにしたのだ。

 これなら失敗しないし。


「パン、少し焦げてるぞ」

 

 失敗してた。


「あ、ごめんなさい。すぐ焼き直しますね」

「いや、いいよ。別に」

 

 盛良くんはテーブルの上に出していたジャムを無視して、冷蔵庫からアンコを取り出してきた。

 何に使うんだろと見てたら、パンにめちゃめちゃ塗り出す。

 

 アンコ……とベーコン……?

 ダメだ。脳が理解を拒んでる。


 あ、でも小倉トーストとかあるから、合う……のかな?

 そういえば、盛良くん、お汁粉が好きって言ってたし。


 アンコたっぷりのパンを豪快に食べ始める。

 ほんの数秒でパンが消えてなくなった。

 

 次にベーコンエッグに手を伸ばす盛良くん。


「お前、何派?」

「え?」


 一瞬、何の話かと思ったが、ベーコンエッグを見ているから、きっと何をかけるのかを聞いているんだろう。

 

「えっと、普通に醤油ですけど」

「つまんね」

 

 鼻で笑われてしまう。

 盛良くんはソースなのかな?

 塩やマヨネーズをかける人もいるらしいから、盛良くんもそのタイプなのだろうか。


「盛良くんは?」

「アンコ派」

 

 そう言って、目玉焼きにもアンコを乗せ始めた。

 

 ……そんな派が存在すること自体聞いたことがない。

 え? なに?

 目玉焼きに合うの? アンコ。

 

 冷蔵庫の中に大量のアンコがあるのは、こういうことか。

 

 っていうか、盛良くん、食事に気を使ってるって言ってなかったっけ?

 全然、気を使ってないよね?

 めっちゃ、糖分多いよ、それ。


「……お前、ホントダメだな」

「え? ベーコン、焦げてました?」

「ちげーよ。つまんねーってこと」

「つまらない?」

「お前、マネージャーだろ? こういうときはタレントを楽しませるもんだろ」

「……」

 

 ええー?

 マネージャーってそんな仕事だっけ?

 芸人じゃないんだから。即興で笑い取れってムチャ振りすぎるでしょ。


「なんかねえの?」

「えーっと、物マネとかすればいいんですかね?」

「ははは。いいね、やってみろよ」


 かなり恥ずかしいが、そうも言ってられない。

 ここは自信作で行こう。

 

 私はコホンと咳払いをして、声色を変える。


「君のハートを一噛みだ!」

 

 ふふ。決まった。

 ちなみに、圭吾の決め台詞だ。

 もちろん、ポーズも付けている。

 我ながら会心のできだ。


「……キモ」

 

 心底嫌そうな表情をする盛良くん。

 

 ええー!

 自分で振っておいて、それはなくない?

 それに、圭吾の決めポーズをキモイって酷い!


「てかさ、お前、いい加減、それ取れば?」

 

 そう言って、持っていたフォークを私の顔に向ける。

 

 そうだった。

 実はまだサングラスとマスクをしたままだったのだ。

 

 ――大丈夫。ここには『赤井』として来てるんだから。

 それに盛良くんしかいないし。

 

 私はサングラスとマスクを外して、テーブルに置く。


「……」

 

 ジッと私の顔を見てくる盛良くん。

 ちょっと、ドキドキする。

 圭吾は優男って感じだけど、盛良くんはドSな感じのイケメンだ。

 

「なんか、どっかで見たような気が……」

 

 え? まさか、バレた?

 もしかして、圭吾、私の写真を盛良くんに見せてたとか?

 ヤバい!

 その可能性を考えてなかった!

 

 どうしよう?

 どうにかして誤魔化さないと……。


「まあ、よくあるガキくさい顔だな」

 

 そう言ってベーコンにアンコを巻いて頬張る盛良くん。

 

 まあ、そりゃ……その……。

 女子高生ですから。


「そういや、今日のスタジオだけど」

「はい、なんですか?」

「……まあ、いいや。行けばわかるし」

「なんですか? そんなこと言われたら気になりますよ」


 私がそういうと、盛良くんはニヤーっと意地悪な笑みを浮かべた。


「ひ、み、つ」


 イジワルな笑みが、なんだかちょっとドキッとする。


 マネージャー業2日目にして、私のメンタルはすでに限界寸前だった。

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