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守りたいのは、アイドルの未来

「あーっ、今日はホントに最高だったぁ……! お兄ちゃん優しかったし、夢みたいな一日だったよ」


 ベッドに寝転がりながら、私は頬をゆるめる。

 お兄ちゃんとの……デート、じゃなくて、お買い物。

 一緒に服を選んで、小物も見て、ファミレスでご飯も食べた。


 思い出すだけで、ご飯三杯いけそう。


 どんなライブよりも幸せな時間だった。まさに人生の神イベ。

 いや、最高潮はあの日――圭吾がお兄ちゃんになった日、かな。

 でへへ。あれから毎日が夢みたい。


「っと、いけない。掲示板、チェックしとかなきゃ」


 私は起き上がり、パソコンを立ち上げて、お気に入りの掲示板を開く。


「……え?」


『今日、町でケモメンの圭吾見た』

『マジ?』

『しかも、女の子と一緒に歩いてた』

『証拠の画像』


 貼られたのは、スマホで撮られた写真。

 少しぼやけてるけど――間違いない。

 私と圭吾。しかも腕を組んでる。


 圭吾はマスクも帽子もしてないけど、私はぎりぎりサングラスをしている。

 ……よかった。

 私はまだサングラスしてるから最悪バレないかも?


 いや、まずい。全然よくない!


『彼女!?』

『マジ無理』

『事務所に凸するわ』

『SNSに流せば一発』

『隠れて付き合うなんて裏切りだよ!』


 うそ、ちょっと待って。

 ヤバい、ヤバすぎる……!

 途中で完全に油断してた。

 写真を撮られた場所も、冷静に考えたらアウトなとこ多すぎた。


「……待って、まだ彼女って決まったわけじゃないし!」


 慌てて掲示板に書き込む。


『確かに』

『妹かも?』

『でも妹いるなんて聞いたことないし』

『ガチ恋勢、今どんな気持ち?w』

『事務所、対応次第だな』

『SNSに流すのは事務所確認してからでもいいかも』


 議論の末、なんとか即流出は免れた。

 この掲示板、ケモメンのコアなファンばかりで助かった……。


 でも、時間を稼いだだけ。

 いずれにせよ、このままじゃ……。

 

 私は今日買ってもらった服を見つめながら、絶望に沈んだ。


 夜は一睡もできなかった。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 頭の中で不安がぐるぐる回る。


 もしバレたら? 学校に知られたら? 退学?

 いや、それより――。


 圭吾がアイドルを続けられなくなる。

 ケモメンも、すべて終わってしまうかもしれない。


 私のせいで。


 そんなの、いやだ……!


 違う。私がどうなってもいい。

 圭吾だけは、守らなきゃ。


 そう決めたときには、もう朝だった。


「……とにかく、大騒ぎになる前に、事務所に説明しなきゃ」


 すぐに着替えて、ケモメンが所属する事務所へ向かった。


 ***


 オフィスの応接室。

 フカフカのソファに座って、私は震える膝を押さえる。


「お待たせ」


 ガチャリとドアが開き、現れたのは――事務所の社長、楠木麗香さん。


 赤みを帯びた艶やかな黒髪。

 スラリとした体型。

 香水の香りすら場の空気を支配している。

 たった一歩で、空気が変わったほどだ。


 モデル顔負けの美貌に、34歳で社長という経営手腕。

 まさに「大人の女」の象徴だった。


 こんな人に認められたら、少しは自信が持てるかも。

 私の中の誰かが、そんなことを思っていた。


「……急に押しかけてすみません」

「圭吾の妹さんだって?」

「はい。義理の、ですが」


 私はスマホを取り出し、掲示板の画面を差し出す。


「これ、ファンが秘密で使ってる掲示板なんです。ケモノメンズ専用の」

「なるほど……。じゃあ、まだ表には出てないってことね?」

「はい。だからこの隣にいるのは私だって、妹だって説明してもらえませんか?」


 麗香さんは少し考える素振りを見せた。


「……それは得策じゃないわ。たとえ火種が小さくても、一度表に出たら燃える可能性はある」

「でも……!」

「それに、『妹』が義理で、一つ屋根の下に住んでるなんて知られたら、それだけで炎上よ」


 確かに、それはわかってる。


「私にできることなら、なんでもします。だから、どうか――助けてください」


 麗香さんはじっと私の顔を見つめた。

 しばらくの沈黙のあと、静かに口を開く。


「表に出さずに、あなたを『公式な存在』にする方法が、一つだけあるわ」


「……なんですか、それ!? 教えてください!」


 麗香さんはふっと微笑んで、身を乗り出した。


「それなら――あなたが、圭吾のマネージャーになればいいのよ」

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