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明日が特別な一日になるように

 盛良くんに連れられ、スタジオを出た私はてっきりまたご飯を作って欲しいと言われるのかと思っていた。

 だけど、盛良くんが私を連れてきたのは服のお店だった。

 しかも、メンズのお店で、私はいっそうどういうことかがわからなくなる。

 

「コーディネートを相談したい」

 

 顔を真っ赤にして、私から視線を逸らせながらぶっきらぼうに言う。

 そんなところが本当に盛良くんらしい。

 

「もしかして、明日に着ていく服のですか?」

「それ以外、なにがあるんだよ?」

 

 明日は待ちに待った、ケモメンメンバーのオフの日。

 

 私は麗香さんに休みが決まったその日に、由依香さんにメールを送った。

 

『久しぶりにお休み取れたので、遊びに行きませんか?』

 

 すると10分も経たずにオッケーの返事が来た。

 由依香さんは本当にメールを返してくるのが早い。

 現役の女子高生の私よりも、ずっと。

 

 まあ、私はどちらかというとよく沙也加から「葵、マジ返信遅くない?」と言われるくらいだけど。

 それに、盛良くんの場合は返信が来るのは早くても2、3時間後らしい。

 それは由依香さんの友達である萌さんも同じくらい待たされると言っていた。

 

 どうやら、私のメールに関してだけ、返事早いみたいだ。

 それに対しても、盛良くんからメチャクチャ嫉妬されている。

 

「俺はお前になりてー」

 

 本気で盛良くんがそう言ったときは笑ってしまった。

 私になったら付き合えないよ? それでいいの?

 

 明日は朝から遊ぶ約束になっている。

 最初は私、由依香さん、萌さんの3人で遊ぶ予定だったところを、私が「盛良くんも一緒にいいですか?」と言うと、オッケーを貰ったという流れだ。

 そして、その裏で萌さんには盛良くんのことを伝えている。

 

『なる~! そんなことだろ~と思った! いい感じになったら離脱すんねw』

 

 と返ってきた。

 盛良くん、結構、周りからバレてるよ?

 

 で、私も頃合いを見て帰るという作戦だ。

 それを盛良くんに伝えたら「よくやった!」と抱き着かれてしまった。

 

 私としては嬉しかったけど、好きな子がいるのに、そういうことしちゃダメだよ。

 ということで今にいたるわけだ。

 

「でも、盛良くんのコーディネートはセンス凄くいいと思ってるから、今更私が言えることはないと思いますけど……」

「いや、ほら、いつもは俺の好みだけどさ。明日は女性好みの服装にしたいわけ」

「……女性好みって言われても」

「ほら、あるだろ? 男好みの場合はきわどい方がいいとか、清楚な感じがいいとかさ」

「ああ、由依香さん好みの方向ってことですか?」

「そうそう。そういうこと」

「んー。そうですね。由依香さんは結構、真面目そうな感じが好きだと思いますけど」

「真面目系か。……スーツ、着てくか?」

 

 そんなことを真顔で言う盛良くんに、思わず私は噴き出してしまう。

 

「いや、いきなり遊びに行くのにスーツ着てきたら引いちゃいますよ」

「うっ!」

 

 私の指摘に急に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤して、ぷいとそっぽを向いてしまう。

 

「うるせー。とにかく、明日用の服を選べ」

 

 こうして私は盛良くんを着せ替え人形ごとく、色々な服を着させて楽しんだ。

 

 いや、本当に楽しかった。

 盛良くんも途中からノリノリで変なコーディネートでも着てくれたし。

 

 お兄ちゃんと一緒の時とはまた違った楽しさだなって思った。

 なんていうか……デートみたいな?

 

 でも、そんなことを言ったら盛良くんが怒りそうだから言うのを止めた。

 

「ははは。なんかデートしてるみてーだな」

 

 ……私が言うのを止めたのに盛良くんの方が言っちゃった。

 だから、そういうところがダメなんだってば。



 ***

 

 

 服を選び終わった後、私たちはファミレスに寄った。

 

「ここは俺の驕りだ。好きなの食え」

「ええ! 盛良くんが驕り!?」

「おい……。それじゃまるで俺がケチみてーじゃねーか」

「いや、実際、今まで奢って貰った試しがなかったんで」

「俺は価値ない奴に、俺の金を使うのが嫌なだけなんだよ」

 

 ということは、今日の私は価値があったということだろうか。

 

「服のこともそうだけど、明日のこともあるからな」

 

 そっか。

 盛良くんからしたら、好きな子と二人きりになれるシチュエーションを用意したのだから、ファミレスくらい奢る価値はあるってことか。

 ……でも。

 

「それにしてはファミレスですか?」

「うるせー。もっと豪華になるかは、明日次第だ。上手くいったら焼き肉奢ってやる」

「……それって、盛良くんが食べたいだけなのでは?」

「……うるせー。とにかく、明日の作戦を練るぞ」

 

 そして、私たちはご飯を食べながら、明日の作戦会議をする。

 だけど、結局、明日は何が起こるかわからない。

 作戦を練っても、その通りにいかないかも、ということで、次第に話題は私生活のことへと逸れていく。

 

 思えば、こんなに盛良くんと話したのは初めてかもしれない。

 話したというよりは、盛良くんの私的なことをここまで聞いたのは始めてだ。

 

 だけど、私は話せない。

 だって、今の私はマネージャー赤井だから。

 なので、極力私の話題にはならないように、話を逸らしていた。

 

 いつの日か、マネージャー赤井ではなく、女子高生の葵として話す日は来るんだろうか、なんてことを考えながら。

 


 ***



 次の日。

 私は約束の場所に行くために家を出る。

 

 その際に、メチャクチャお兄ちゃんが寂しそうな顔をしていた。

 

「今日は一日葵と遊ぼうと思ってたのに……」

 

 うわー! そっちも捨てがたい!

 でも、ごめん、お兄ちゃん。

 今回は盛良くんに協力するって約束だから。

 

「お土産買ってくるよ」

「お土産なんかより、葵との時間がほしかった……」

 

 肩を落とすお兄ちゃんをしり目に、心の中でごめんなさいと謝りながら家のドアを開ける。

 

 外に出た瞬間、携帯に着信が来る。


「もしもし?」

「……お姉ちゃん。やっぱり、今日は会えないの?」

 

 望亜くんだった。

 昨日、「一緒にいたい」と電話が着て、そこでもごめんと断ったのだけど。

 子犬がキューンと鳴くような声で言われて、私の心はチクりと痛む。

 

「お土産買ってくるから」

「お土産はお姉ちゃんがいい」

「ははは……」

 

 私はごめんねと謝って電話を切り、約束の場所へと向かう。

 

 このときはまさか、あんなことになるなって思ってもみなかったのだ。

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