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マネージャーの仕事、放課後ミッション発生中

 金曜日の放課後。

 

 普段であれば、花金だーなんて言って浮かれている頃だが、今はそんな余裕はない。

 早退とズル休みのツケを、たった今、払わされているのである。

 

 まあ、簡単に言うと居残りで補習を受けさせられているというわけだ。

 教室に担任とマンツーマン。

 

 休んだ日に限って小テストするとか鬼だよ。

 ……ズル休みした私が悪いんですけど。

 

 でも、あれは仕方ない。

 ケモメンの存続がかかっていたんだからさ。

 

 ジリリリと、先生がセットしていた時計が鳴る。


「はい、それまで」

「はあ……。やっと終わったー」

「これに懲りたら、もうズル休みするなよ」

「……なんで、ズル休みって決めつけるんですか? ホントに風邪だったかもしれないですよね?」

「一昨日、お前が元気よく走って早退したのを見た」

「……」

 

 何も言えない。

 はい。すいません。

 ズル休みしました。


「テスト受けさせてもらえるだけ、感謝しろよ。本来なら0点なんだからな」

「ありがとうございます。ついでに採点にも手心をお願いします」

「……赤点だったら、来週も補習な」

 

 にこりと笑い、私の答案用紙を持って教室を出ていく担任。

 

 うう……。

 鬼かよ。

 来週も補習とか最悪だー。

 なんとか赤点は回避したいところである。

 たぶん、ギリギリセーフの……はず。

 

「……さて、帰ろうかな」

 

 伸びをしてから、筆記用具をカバンに仕舞う。

 と、そのとき、スマホに着信が入る。

 

 画面を見ると盛良くんと表示されていた。

 あの日、協力する約束をして、番号を交換したのだ。

 ケモメンのメンバーと番号交換なんて、1ヶ月前の私には考えられなかっただろう。


 今はまさに天にも昇れるほど絶頂の気分だ。

 

 ……けど、冷静に考えたら、マネージャーなんだからメンバー全員の番号は知っておくべきははず。

 望亜くんの番号を知らない時点で、マネージャー失格の気がする。


 今度、聞いておこう。

 

 私は通話ボタンを押して、電話に出たのだった。

 

 

 

 それから1時間後。

 なぜか、私はダーツバーにいる。


 あの後、盛良くんにある駅まで来いと言われた。

 言ってみると、そこには盛良くんと他に3人が待っていた。

 どうやら盛良くんの大学の友達らしい。

 

 男の人が1人に女の人が2人。

 男の人は盛良くんとタイプが似たような、いかにも陽キャといった感じだ。

 

 女の人の方は、1人がいかにもギャルって感じの人。

 で、もう1人が良く言うと清楚、悪く言うと地味っぽい人だった。

 ただ、その清楚な感じの人の方はどこかで見たことがあるような気がした。

 

「よーし! じゃあ、行くか!」

「おー!」

 

 盛良くんの掛け声で、移動が始まり、気づいたらバーに来ていたというわけだ。

 

「ヨッシー、何飲む?」

 

 友達に注文を聞かれる盛良くん。

 

 ……盛良のヨッシーってことかな?


「あー、俺、ウーロン茶でいいや」

「なに? 酒、飲まないの?」

「未成年だっつーの!」

「相変わらず、固いねぇ。赤井ちゃんは?」

「え? あ、その……オレンジジュースで」

「あれ? 赤井ちゃんも飲まないんだ?」

 

 はい。私も17歳の未成年なんで、とは言えない。


「お酒、弱いんで」

「ホントに? じゃあ、酔わせちゃおうかなー」

「カズ! そいつに手出したら、ぶっ殺すから」

 

 冗談ぽく言っているが、若干本気っぽい声。

 私のことを心配してくれているようで、ちょっと嬉しい。


「なに? 赤井ちゃんて、お前の彼女なの?」

「ちげーよ! 知り合いの妹」

「へー」

 

 それ、ビンゴです。

 ちょっとビックリしたよ……。

 

「ったく」

 

 盛良くんは口を尖らせながら、私のいるテーブルにやってきた。

 

 バーのテーブルは変わっていて、2、3人でギリギリ囲めるような小さなもので、椅子がない。

 どちらかというと、単に飲み物を置くだけのテーブルって感じだ。

 

 そして、盛良くんが耳打ちするかのように、私に話しかけてくる。


「なんで、呼ばれたかわかってるよな?」

「……わかりません」

「……」

 

 私の言葉に頭を抱える盛良くん。

 

「お前、もう手伝うって言ったこと忘れたのか?」

「……あっ!」

 

 盛良くんの言葉で、思い出した。

 あの、清楚な女の人って、前にSNSで盛良くんと一緒に写ってた人だ。


「……じゃあ、あの人が?」

「ああ。由依香さんだ」

 

 由依香さんは今、もう1人のギャルっぽい人と楽しそうにお話をしている。

 

「まずはお前、由依香さんと親友になれ」

「ええー! いや、どうやって……?」

「それはお前が考えろよ。とにかく、お前が由依香さんの親友になれば、色々情報を探れるし、2人で囲んだ方が落とせる可能性が高いだろ?」

「そ、それはそうですけど……」

 

 その言い方だとなんか、悪いことしているようで気が引けるんですが。


「とにかく、文句を言わず、やれ」

「いきなりなんて無理ですよ」

「大丈夫だって。同い年だろ? 仲良くなれるって」

 

 ああ……。

 そういえば、そんな設定でしたね。

 でも、私、実年齢17歳ですけど、大丈夫なのかな……。

 

 ううー。

 話が合う気がしない。

 アイドルとか好きそうな感じじゃないんだよな、由依香さん。

 

 悩んでいると、盛良くんの友達がオレンジジュースとウーロン茶を持ってやってくる。


「お待たせ―」

「よし、ほら、これ持って突撃して来い」

 

 そう言って、盛良くんがオレンジジュースを私に押し付ける。

 

 うわー。

 なんだろ。同性に話しかけるのに、こんなにドキドキするの初めてかも。

 こういうのは、入りが大事なんだよね。

 ファーストコンタクトは失敗できない。

 

「ど、どうもー!」

 

 ……なんか、芸人みたいな入り方をしてしまった。


「ぷっ! あはははは! 芸人かっ!?」

 

 そう突っ込んでくれたのはギャルっぽい方の人だ。


「笑ったら悪いよ、萌ちゃん」

「え? 今のは突っ込まないと逆に失礼だよ」

「そうなの?」

 

 驚いた顔をする由依香さん。

 なんか、可愛らしい人だ。

 盛良くんが好きになるのもなんとなくわかる気がする。


「初めまして、赤井です」

「名前はー?」

「葵です」

「え? ってことは赤井葵ってこと?」

 

 げっ! しまった!

 つい、名前をそのまま言ってしまった!


「あはははー。なんか変わった名前だねー」

「もう。萌ちゃんだってそうでしょ?」

「え? そう? 私、天使萌。てんしって書いて、あまつかね」

 

 ……確かに芸名みたいな名前だ。


「桐ケ谷由依香です」

 

 由依香さんが丁寧にお辞儀をしてくれたから、私も釣られてお辞儀をする。


「あの……2人はこのお店、よく来るんですか? 私、こういう店、初めてで……」

「あー、うん。由依香が好きでよく来るよね」

「そう……なんですか……?」

 

 意外だ。

 由依香さんの方が好きだったなんて。


「あ、今、意外だ―って思ったでしょ?」

「え? い、いえ! そんな……」

「あはははは。でもわかるー。由依香ってトロそうに見えるもんね」

「えー、酷いなぁ」

「でも、由依香のダーツの腕はプロ級だよ。ホント凄いんだから」

「……大げさだよ」

 

 少し恥ずかしそうに頬を赤く染める由依香さん。

 可愛い。

 抱きしめたい。


「ほら、じゃあ、腕前みせてあげなよ」

 

 そう言って、萌さんがダーツの機械にお金を入れた。

 

「はい!」

 

 そう言って、ダーツの羽を由依香さんに渡した。

 由依香さんがダーツの機械の前に立ち、構える。

 

 そして――。


「えい!」

 

 物凄い変な投げ方をする由依香さん。

 

 いや、絶対、これ下手でしょ。

 

 そう思っていたのだが、由依香さんが投げたダーツはど真ん中に突き刺さっていたのだった。

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