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兄に甘やかされすぎて、血管が耐えられません

 私が発した言葉に、盛良くんはポカンと口を開けていた。

 

 自分で言っておいてなんだけど、無茶苦茶な話だ。

 本来、マネージャーの立場なら、絶対に止めなくてはならない。

 それなのに、後押ししてどうするんだって感じだよね。

 

 今ならまだ、ごめんなさい、間違いですって言えば済むだろう。

 だけど、それだけは言いたくない。

 

 たとえ、マネージャー失格の発言だったとしても。


「お前、何言ってるんだ?」

 

 半分呆れたような声で首を振る盛良くん。


「だって、由依香さんに振り向いてもらうためにアイドルになったんですよね?」

「……」

「だったら、振り向いてもらえばいいじゃないですか!」

「んなこと……できるわけねーじゃん」

「やってもみないのに、諦めるですか? そんなの盛良くんらしくないです」

「……アイドルの恋愛なんて、タブー中のタブーだぞ。もし、バレたら……」

「バレなきゃいいんですよ!」

「お前、凄いこと言うな」

 

 盛良くんが肩を震わせて笑う。


「私、思うですけど……。これくらいのこと隠せないで、トップアイドルになれないと思います」

「っ!?」

 

 今度は目を見開いて私を見た後、フッと微笑んだ。

 そして、ポンと私の頭に手を置いた。


「焚きつけたからには責任持てよ」

「もちろんです」

「……で? いい案でもあるのか?」

「……」

「ないのかよ」

 

 噴き出してから、腹を抱えて笑い始める。

 

 うう……。

 だって、話を聞いたのも今だし、私自身、恋愛なんてしたことないし、急に話を振られてもわからないものはわからないよ。


「あははははは。けど、まあ、お前らしいな」

「……馬鹿にしてます?」

「褒めてんだよ」

 

 ホントにぃ?

 どう見ても馬鹿にしたような笑いだったんだけど。


「けど、まあ、女の視点の意見も欲しいところだな。お前の意見を聞きたい」

「はい、なんでも聞いてください」

 

 こうして、私と盛良くんは話に話し合った。

 私も色々と案を出してみる。

 

 その結果、盛良くんからいただいた感想は……。


「お前、使えねーな」

 

 だった。


 そんなこんなしていると、いつの間にか外は明るくなっていた。

 

 改めて考えてみると、私は盛良くんの部屋で一晩過ごしたことになる。

 2人きりで。


 

 

「罰として、これから1ヶ月は外出禁止ね」

 

 朝、家に帰ると、にっこりとほほ笑んだお兄ちゃんがそう言って出迎えてくれた。

 かなり怒っている証拠だ。

 

 それはそうだろう。

 なにしろ、朝帰りだもん。

 

 うう……。

 話に夢中になっててメールするの忘れてた。

 

 お兄ちゃんは夜通し心配して起きていたのだろう。

 目の下にクッキリとクマが出来てる。

 

 まあ、私も人のこと言えないだろうけど。

 

「……ごめんなさい。あのね、昨日は……」

 

 私は帰りながら必死に考えた言い訳を言おうとする。

 だが。


 お兄ちゃんが私を抱きしめてくる。


「許さないよ。でも、葵のこと信じてるから。理由は言わなくていい」

 

 お兄ちゃんの腕は優しく力強く、私の全てを包み込んでくれる。

 自然とポロポロと涙が溢れてきた。

 

 これが私のお兄ちゃんだ。

 世界で一番大好きな、私のお兄ちゃん。

 

 ――そして、私の推し。


「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

 謝り続ける私の頭を、お兄ちゃんはずっと撫でていてくれたのだった。

 

 

 

 結局、その日は2人して学校を休むことにした。

 まあ、こんなフラフラな状態で学校に行ったところで、授業中に爆睡して先生に怒られるだけだろう。

 その代わり、夜にお兄ちゃんがしっかり勉強を見てくれるとのことだ。

 

 うーん。

 なんだろ。この独り勝ち感。

 学校もサボれて、夜はお兄ちゃんに勉強を教えてもらえる。

 一粒で二度おいしい。

 いっそ、毎日、こうしたいくらいだ。

 

 お兄ちゃんがしっかりめの朝ごはんを作ってくれて、一緒に食べた。

 私が後片付けをした後、不意に欠伸が出た。

 さすがに眠い。

 

 徹夜なんていつ以来だろう?

 

「お兄ちゃん、私、部屋に戻るね」

「葵、ちょっとこっちに来て」

 

 ソファーに座ったお兄ちゃんが、手招きしてくる。

 

 ううー。

 なんか、その仕草が小動物みたいでなんか可愛い。

 お兄ちゃんは大人っぽい一面もあれば、妙に子供っぽい一面も持っている。

 さすがお兄ちゃんだ。

 惚れ惚れする。


「なに?」

「隣に座って」

 

 言う通りに座ると、肩にそっと手を伸ばされて倒される形になる。

 私の頭がお兄ちゃんの膝の上に乗っかった。

 

 これはつまり、膝枕だ。

 

 そう!

 私は今、お兄ちゃんに膝枕をしてもらっている!


「おおおおおお兄ちゃん?」

「起きちゃダメだよ」

「で、でも……」

「これは葵への罰なんだから」

「罰?」

「そう。昨日、俺を寂しがらせた分、しっかり補填してもらうからね」

 

 そう言って、お兄ちゃんが私の頭を優しく撫で始めた。

 優しくて暖かい手。

 

 私は寝不足ということもあったが、お兄ちゃんに撫でられたことでの安心感か、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 

 ふと、目を覚ますと天井が見える。

 

 見覚えがない天井……というわけではないけど、なんかいつもと違う。

 そして、私は今、ベッドの中だということがわかる。

 

 布団の中の私は私服のまま。

 

 ボーっとしていた意識が徐々にはっきりしてくる。

 私は確か、お兄ちゃんに膝枕をしてもらって、いつの間にか寝てしまったのだろう。

 

 だから、お兄ちゃんが私をベットに連れて行ってくれたのだと推測した。

 

 だけど……。

 だけどね。

 

 なんで私の部屋じゃなくて、お兄ちゃんの部屋なの!?

 

 そして、今まであえて気づかないようにしてたんだけど……。

 真横から寝息が聞こえてきてるんだよね。

 

 お兄ちゃんの部屋。

 今日は家の中に私とお兄ちゃんしかいない。

 で、この状況。

 

 ゆっくりと顔を横に向ける。

 そこには予想通り、お兄ちゃんの綺麗な寝顔がアップで目に飛び込んできた。

 

 な、なに! この朝チュン的なシチュエーション!

 

 一気に胸の鼓動が爆上がりする。


 そして――。


「ぶっ!」

 

 鼻血が噴き出した。

 

 布団とシーツ、お兄ちゃんに血がぶっかかる。

 

 朝チュンのような甘々な現場が、血みどろの殺人現場のように変貌を遂げたのだった。

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