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好きだった人、好きになった人

 私の隠し事をしてないかっていう言葉で、盛良くんがピタリと足を止めた。


「なんだよ、隠し事って」

「あー、いや、その、マネージャーとしてメンバーのことを知っておこうって思いまして」

「……隠し事がないやつなんて、いないだろ。お前だって、俺に隠してることあるだろ?」

 

 はい。あります。

 本当は17歳です。

 赤井っていう苗字じゃありません。

 

「あの……今回こういうことがあったので……その、恋愛関係について……その……」

「なんで知ってんだ?」

「SNSで写真が……」

 

 私はそう言って、スマホでSNSの画面を盛良くんに見せた。

 

「……マジかよ。怖ぇな、SNS」

 

 盛良くんはそれだけつぶやくと、また歩き出した。


「えっと、盛良くん、この人は……?」

 

 だが、私の質問には答えてくれない。

 というより、私の方さえ向いてくれなくなった。

 

 気まずい。


 そう思いながら、私は盛良くんの家に早く着かないかなと思いながらやや速足で歩いた。

 

 

 

 盛良くんの家のドアの前で私はペコリと頭を下げる。


「それじゃ、お疲れ様でした」


 あれから結局、盛良くんは一言も言葉を交わしてくれなかった。

 私の技量じゃ、これ以上は聞けそうにない。

 明日、麗香さんに相談しよう。


 私が出口へ向かって歩き出そうとした時だった。

 ガッと肩を掴まれる。


 うーん。

 最近、この流ればっかりだよね。

 

「家、寄ってけよ」

「いえ。いくらマネージャーでも、この状況を見られたらマズいので」

 

 私がそう言うとパッと盛良くんが肩から手を離してくれる。

 

 ほっ。

 今回はわかってくれたようだ。

 

 すると、後ろからガチャリとドアが開く音がする。


「ほら、入れよ」

「……えっと、私の話、聞いてました?」

「早くしろよ。見られたらマズいんだろ?」

 

 ……全然わかってくれてなかったようだ。

 

 私はため息をついて、盛良くんの家へ入った。

 これで、3回目だ。

 なんとなく、抵抗がなくなってきている気がする。

 

 それって、かなりヤバいことだよね。



 今回はさすがにご飯を作れとは言われなかった。

 パーティーで食べたばかりだし、同然と言えば当然だろう。


「ほら、飲み物」

 

 そう言って、盛良くんがお茶のペットボトルを放ってくれる。

 

「あっ! わっ!」

 

 咄嗟のことで、上手くキャッチできず、お手玉してしまう。


「お前はドンくさいな」

 

 お汁粉の缶を開けながら、ソファーに座る盛良くん。

 それにしても、盛良くんの方が飲み物を持ってきてくれるなんて、珍しい。

 いつもなら、持ってこいっていう方なのに。

 

 それにしても、お汁粉じゃなくてお茶でよかった。

 というか、お茶もストックしてあったんだ?

 

「由依香さんだ」

「……え?」

 

 お汁粉を飲みながら、盛良くんが呟くように言う。


 ――その名前を聞いたとき、胸の奥がざわついた。


「写真の人」

「……ああ、一緒に写ってた人ですね」

「大学の先輩なんだよ」

「そうだったんですか……」

 

 ピタリと会話が止んで沈黙が部屋の中を包む。

 

 えーと、なんだろ?

 たぶん、盛良くんはこの話をするために、私を家に入れたんだと思ったんだけど……。

 違ったのかな?

 

 それとも、大学の先輩だから、これ以上詮索するなってことなんだろうか?

 あー、そっちっぽいな。

 

 でも、そんな説明でファンは納得しないと思う。

 だって、写真の盛良くんは本当に嬉しそうに笑っているから。

 

 ただの大学の先輩です、じゃ通じないよ、きっと。


「由依香さんは俺の憧れなんだ」

「……」

「……って、ここまで来てダセーよな。ホントのこと言うよ」

 

 盛良くんはお汁粉を一気に飲み干し、一度、深呼吸をしてから口を開いた。


「由依香さんは俺の好きな人だ」

 

 盛良くんは真っすぐ私の目を見ていた。

 その眼差しは真剣そのもので、そこから盛良くんの本気が伝わってくる。


「高校の頃さ、特に行きたい大学とかなくて、まあ、入れればどこでもいいやって感じだったんだ。けど、どうせ入るなら楽しそうなところがいいなってことで、今の大学のオープンキャンパスに参加した……」

 

 懐かしそうに目を細める盛良くん。

 ここからは私に話すというよりは、どこか一人語りのように話を続ける。


「大学って、スゲー広くて、俺はあっさりと大学内で迷子になった。高校生が建物の中で迷子って、今考えると笑えるよな。……で、そのときに出会ったのが由依香さんだ」

「……」

「由依香さんは迷った俺を笑うこともなく、大学内を色々と案内してくれた。……多分、一目惚れだと思う。そこからは猛勉強したよ。ランク的に結構ギリギリだったからさ。それでも俺は由依香さんがいる大学に行くために必死に勉強したんだ」

「それで、ちゃんと受かったってことですよね?」

「ああ。入学式の時、由依香さんに会ったら、ちゃんと俺のこと覚えててくれてたんだよ。……嬉しかったなぁ」

 

 そう言って笑う盛良くんはすごく、幼く見えた。

 なんか可愛いって思ってしまった。


「大学で由依香さんと話しているうちに、思うようになったんだ。俺には何もないって。由依香さんに振り向いてもらうようなものを持ってなかったんだ」

「そんなこと……」

「言い訳だろうな。結局、告白するのが怖かったんだ。だから、確かな手ごたえって言うか、断られないような自信っていうか……肩書が欲しかった」

「もしかして、それでアイドルに?」

「ああ。そうだよ。……あの記事でさ、望亜のアイドルになる切っ掛けがモテるためってあっただろ?」

「……そういえば、そうでしたね」

「あれ、俺だったら当たってたんだよな」

 

 腹を抱えて笑う盛良くん。

 

「なんで、私に話してくれたんですか?」

 

 私がそう言うと盛良くんは笑うのを止めた。


「お前さ、俺たちのためにあの記者に水をかけてくれただろ?」

「……そのせいで、あんなことになっちゃいましたけど」

「正直、嬉しかったんだ。ホントは俺がやりたかった。けど、そのせいでアイドルができなくなるって思ったら、怖くてできなかった」

「……」

「だから、代わりにやってくれたお前に、よくやったって思った。けど、あんなことになって……」

 

 バツが悪そうに目を伏せてしまう盛良くん。


「なんてことしてくれたんだよ、って思っちまった」

「え?」

「事務所ではさ、ああ言ってたけど、心の中ではキレてた。もし、お前のせいでケモメンが解散になったとしたら、ぜってーゆるさねえって」

「……」

「ホント最低だよな、俺」

「そんなことないですよ」

「……お詫びっていうわけじゃないけど、お前には話したいって思ったから、話した」

「そうだったんですか。ありがとうございます」

「……けど、ま。せっかく、上手く収まったんだ。俺、由依香さんのこと、諦めるよ」

「で、でも!」

「いいんだ。最初は由依香さんに振り向いてもらうために始めたけどさ、今はケモメンは俺にとってかけがえのないものになってる。だから、由依香さんを諦められる」

「ダメですよ!」

 

 思わず、私は叫んでしまった。

 そして、やめればいいのに、また余計なことを言ってしまう。


「アイドルも由依香さんも諦めないでください! 私も協力しますから!」

 

 このせいで、また騒動になってしまうことを、私はまだ知る由もなかったのだった。

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