魔界村の魔帝
俺の名前は、ネロ。この名前は仮の名前で、本名は非公開。
物心ついた時から、俺は宗教2世として、
生きてきた・・・。
はじめに ちゅういがき
多くのゲームは、神や勇者が魔物と戦って
人間を救う内容になっています。
ところが、このゲームは、その逆です。
そのつもりで、この物語をお読みください。
今まさに、国から解散命令が下された、あの教団の、俺は宗教2世だ。
その教団の名前は、『エホバ教団』という。
唯一絶対の神を信仰する、キリスト教系の宗教団体だ。
俺の両親は、教団が主催した合同結婚式で結婚し、そして俺が生まれた。
俺は、その合同結婚式の時の映像を、後に見た。若き日の父と母が映っていた。
しかし、その後の人生は、教団への高額献金のせいで、まさに極貧だった。
さらに、同年代の子たちが普通に話題にしていることにも、教団の教えというやつのせいで、触れることもままならず、友達もいなかった。
教団の教えが絶対的。教団の教え以外の、教団の教えに反するものは、皆、サタンだという。
その教団と関係を持っていたという元総理大臣が、俺と同じ宗教2世の男によって、
銃で殺された。
そう、やつこそが真のサタン。
サタンに魂を売った、というより、自らがサタンになった。その男は、今は留置場の中だ。
俺たちのような宗教2世が、社会に出て驚いたのは、世間の同年代とのギャップだった。そう、世間の同年代が普通に知っている流行りものなどの情報を、俺たちのような宗教2世は知らないのだ。
教団の教え以外は皆サタン。教団の人間以外の、俗世間の人間とはほとんど関わることも無く、俗世間の、例えば人気アイドルの情報とか、今活躍しているスポーツ選手の情報とかも、一切入ってこない。
とにかく、教団の教え以外は皆サタンという、それが、俺たち宗教2世が歩んできた道だ。
教団の歪んだ教義によって洗脳されているうちに、いつしか、俺たち自身が歪んでいっていた。
あの、元総理大臣を殺した男もそうだった。
俗世間に出ても、人間関係をうまく構築できなかった。
そうした人間の行き着く先は、結局は、
あの男のように事件でも起こすか、あるいは、自ら命を絶つか、待っているのはそんな未来だ。
そんな中、『魔界村』というゲームに出会った。
※実際の『魔界村』に似たゲームだが、実際のものとは多少異なる部分もあります。
魔帝サマエルに支配された村を、魔物から解放するというゲームだが、俺の考えは違っていた。あの男と同じように、俺の考えも歪んでいた。
あんな教団が支配するようになるくらいなら、いっそのこと、このまま魔物だけの世界のままにしておいた方がマシだと。
プレイを始めると、なんとプレイヤーである俺自身が、魔界村の世界の中で実際に動き回ったり、実際に武器を使って敵を攻撃したりできるのだ。
俺は、ゲームの中でステージを次々とクリアしていった。俗世間では激ムズで知られていたゲームだが、そんな情報さえ入ってきていなかった。そんな激ムズなゲームだとは知らなかった。というか、このゲームの存在自体を、30歳過ぎになった今になって、初めて知ったのだった。
『アクトレイザー』も、神がサタンを倒し、魔物だけがはびこる荒廃した世界を、神への信仰を重んじる、人間たちの世界に変えていく、というゲームだったが、
俺はそんな、神の教えというものに絶望していた。あんな教団が支配するような世界にするなら、いっそのこと、魔物だけが
はびこる世界のままにしておいた方がマシだと。
そのくらい、教団に対する憎しみは強かった。
そうして、魔界村のステージを次々とクリアし、最後の魔帝のステージに。
ラスボスの部屋までの道のりは困難を極めたが、魔帝の姿を見た瞬間、疲れは吹き飛んでしまっていた。魔帝の姿はあまりにも威厳のある姿だったからだ。
魔帝は俺に、ある提案を持ちかけてきた。
「もしお前が私と手を組むならば、世界の半分をお前にやろう。」
別のRPGのラスボスも言っていたセリフだったが、そのゲームが流行っていた頃は、まさに宗教2世として、宗教虐待を受けていた頃で、そのゲームの情報も一切入ってきてはいなかった。
もし、上記の質問に『はい』と答えてしまうと、サタンに魂を売り渡して、ゲームオーバーになってしまうのだが、俺は迷わず、『はい』と答えた。
俺は魔帝の考えこそが利にかなっていると思った。教団の教えが正しく、サタンは悪であるというのは、教団が押し付けた考えでしかないと。
結局は金集めと、精神的に支配下に置くための道具としての、神の教えだったのだ。
俺は、魔帝サマエルと手を組むことを選んだ。
「これでお前は、サタンに魂を売り渡した、いや、お前自身がサタンとなり、世界を思い通りにできるのだ!
わっはっはっはっはっはっはっ!」
今までの人生、教団のせいで何一つ自分の思い通りにならなかった。しかし、これからは、何でも自分の思い通り、いや、この世界の運命すらも、自分の行動次第で思い通りにできるかもしれない。
そして俺は、あるゲームを開発することを思い付いた。そして、そのゲームを開発するための、プロジェクトチームを結成することにした。募集をかけたところ、あれよあれよという間にメンバーが集まった。
そして、魔界村の激ムズアクションと、
アクトレイザーの町建設の要素を組み合わせた、究極のゲームを誕生させた。
それが『教団壊滅クエスト』だった。
『アクトレイザー』では、神の教えにもとづいて町を建設するというものだったが、
『教団壊滅クエスト』では、教団の教えに支配される町を破壊して、世俗と享楽の町に変えていく、というものとなった。
世俗と享楽、教団がサタンと呼んで否定してきたものだ。ザマミロ、クソ教団が。
世俗と享楽、そして自由恋愛の無い人生など、まるで教団の奴隷だ。
そんな、教団の奴隷の宗教2世の人生とは
これっきりオサラバし、世俗と享楽の中で新たな人生を歩むんだ!
リピドーのままに生きるんだ!