第三日目 3節「川くだり」(ギルファス)
川の水は毎年のことながら増水していた。
日はもうずいぶん高くまで上がっていた。逆巻くと言ってもいいほどに勢いよく流れる川の水は、日の光を浴びてきらきらと輝いている。背中に当たる太陽の熱と、岩を伝っていく運動量で、銀狼隊の隊員たちは全員汗だくになっていた。ルーディは川の流れに丸太がぶつからないように調節するのに四苦八苦しているし、ギルファスは自分の身長よりもはるかに長い棹を運んでいて、ラムズとマディルスは背中に、大量の白い旗と大きな太鼓を背負っている。大荷物を抱えていては、巨石をよじ登るのも一苦労だ。
東軍の防衛線のところを通り抜けるために用意された丸太は二本。ロープでしっかりと結わえられているが、この泡立つ川を下るには心もとなく、乗っているときっと濡れるだろうと思われた。でも、この暑さではむしろそれが待ち遠しい。
廃墟を本拠地としている東軍とは違い、西軍は、自らの本拠地を建設するところから『宴』の準備が始まる。
一週間の準備期間に作られた西軍の本拠地は、二階建ての丸太小屋である。媛を閉じ込めておくために一応の壁と屋根はあるが、大きな地震でも来たらすぐに崩れるだろうと思われるような代物だ。そういう点では、余計な準備が必要なだけ、西軍は東軍よりも不利な立場にあると言えるが、急遽決まった川くだりに慌てて丸太を用意するという必要がなかったので――建築に使われなかった手ごろな丸太が他にもごろごろしている――そういう意味では、運がよかった。
岩の上に立ったルーディが、ロープを上手く引っ張って、川に浮かべた丸太が岩にぶつからないように調節している。
大きな岩という足場の悪いところでも、ルーディの動きはとても的確で、まるで平らな大地に足を踏ん張っているかのようにちっとも揺らがなかった。
「もうすぐ防衛線に差し掛かるよ」
先に進んでいたマディルスが、戻ってきて言う。ギルファスは足をとめて、左側に視線を移した。ごろごろと大きな岩の転がる川べりの、すぐ左側がうっそうと深い森になっている。ここからは防衛線の存在は見えないが、川の水音の向こうのほうで、『宴』の繰り広げられている物音が聞こえている。川の中の丸太が大きな岩に引っかからないように調節していたルーディが、顔をあげて声をひそめた。
「あの岩まで行ったら、丸太に乗ろう」
川くだりをする距離は、三十メートルというところだろうか。
防衛線の見張りたちが川のほうを見ている可能性は低いが、防衛線のある辺りには身を隠せる巨石も少なく、ふとしたきっかけでばれる可能性はかなり高い。やはりここは当初の予定通り、丸太に乗って一気に通り過ぎるのが一番だろう。
目的の岩にたどり着いた。
この岩よりも向こうは、森の中から丸見えである。
岩の陰に隠れて丸太の用意をしているルーディに、ギルファスは黙って、棹を差し出した。
ごうごうと音を立てて、岩にぶつかっては砕ける波のしぶきが、ほてった体に心地よい。
「……行こう」
ギルファスが呟き、三人が、黙って肯く。
そして銀狼隊の四人は、二つに組まれた丸太の上に乗って、川の流れに乗り出した。
岸を離れるとすぐに、四人を乗せた丸太は勢いよく滑り出した。一度だけ底の浅いところに引っかかりそうになったが、棹で突き放すまでもなくすぐに離れて疾走を始める。涼しい風がごうっと体に吹き付けてくる。ほてった顔にしぶきがあたる。まるで空を飛んでいるような爽快感に、ギルファスは歓声を上げそうになるのをかろうじてこらえた。丸太にしがみついていたマディルスが顔をあげてニヤリとし、左手で口を押さえて見せた。想いは同じだというところだろうか。
波のうねりは存外強く、気を抜くと暴れ回る丸太から放り出されそうになる。逆巻き、盛り上がる水の塊が後から後から押し寄せてきて、四人の乗った丸太を突き上げ、突き落とし、放り上げながら押し流していく。ルーディが流れの中に棹をつきたて、丸太が安定するように苦心していたが、それでも水の力はすさまじかった。持ち運ぶのも一苦労なくらい重い丸太が二本と、四人の少年の体重。これだけの重さが合わさっているというのに、この暴れ回る水の力の前では、まるで木の葉のように弄ばれてしまう。
他の三人は丸太にしがみつくようにして身を屈めていた。森の中から見つからないようにという配慮もあったが、そうしていないと放り出されそうになるというのが本当のところだった――ルーディは跳ね回る丸太の動きにあわせて上手くバランスを取っていたが、そんな芸当はできそうもない。
「すっげえな」
マディルスが感心しきったというように呟いたのは……素晴らしい速度で下っていくことに対してなのか、それとも、舵を取るルーディに対してなのだろうか。
「……人がいる」
顔をあげていたラムズが呟いて、左手を振り仰いで見せた。森の中に、確かに青い服を着た人影が見えた――しかしすごい勢いで、それは後方へと流れていく。見つかったかどうか確かめる暇もなかった。水音がうるさくて、音もよく聞き取れない。充分に離れたところでギルファスは顔をあげ、今通り過ぎたばかりの、森の中の青い部分に目を凝らした。青い服の人々が派手に動いたようには見えない。それで見つからなかったのだと思うことにする。
後は、この暴れ馬みたいな川の中から、どうやって陸に上がるか。
ここしばらくは直線が続くが、もう少ししたら川が大きく左側にカーブしている。あそこであがるのが一番だろう。曲がってすぐにあがれば『宴』の範囲から出ずに済むし、あがったすぐ上が館の前だし、防衛線からも見られなくて済む――
と考えたギルファスのすぐわきで、ルーディが、しゃがんだ。
「ギルファス!」
押さえた声で名を呼ばれ、振り仰ぐと、ルーディが前方を目を眇めて見つめている。
「……誰かいる」
「……え」
ギルファスは丸太の上で身をひねって、ルーディの視線の先に目をやった。
前方に、青い影がひらめく。
見る間に、その青いしみのような人々が近づいてくる。
「なんか運んでる」
ルーディの短い言葉に、身を伏せていた三人が一斉に跳ね起きた。
青い服の人間は、どうやら二人いるようだった。先ほどギルファスたちがしていたように、川の中に何か浮かべて、ロープをつけて引っ張っている。銀狼隊と違うのは、川の流れに逆らっているので二人ともこちらに背を向けて必死で引っ張っているということと、『目付』がついてきているということだ。それだけ把握したギルファスがすぐさま思い浮かべたのは、やはりグスタフのことだった。『宴』の三日目に、人目を避けるようにして、丸太を運んでいる。それが示すことなんて一つだけだ。
何らかの計画のために、丸太を西軍の陣地まで運ぼうとしている――
まだ彼らはこちらに気づいていないが、それも時間の問題だ。数の上ではこちらが有利、だが、叫ばれてはおしまいである。
考える間にも、二人はどんどん近づいてくる。
どうするべきか、ギルファスは一瞬迷った。このまま彼らの隣を通過して――これだけの勢いで有無を言わせず通り過ぎてしまえば、捕まえることなんて不可能だろう――上陸しても、東軍の防衛線の向こう側に出現するという目的は果たせる。しかし彼らをそのままにしておくのは不安だった。グスタフの計画が何なのかわからないが、彼らをこのまま行かせては、西軍にとってひどく不利なことになりかねない。けれど四人で彼らを黙らせてから上陸するという案も上手いとは言えなかった、それでは迅速な行動が取れない。もたもたしていては、やはり防衛線の見張りに見つかってしまうだろう――
「このまま行け、ルーディ」
迷った一瞬の隙に、ラムズが低い声を出した。ラムズもギルファスと同じことを考えていたらしい。そして彼は背中から旗と太鼓をはずして、それをまとめていた紐をギルファスの手の中に押し付けた。
「昨日の晩のことを追及しないでくれて嬉しかったよ。女の子たちの前で言いたいことじゃなかったんだ」
「……え、」
「俺はスパイじゃない。……今から証明して見せるからな?」
証明? ――何を? 考える間にも東軍兵士たちとの距離はどんどん狭まり、青い服の二人の背中がよく見えるところまで来ていて、重労働に耐えかねたのか背を伸ばした男がようやくこちらに気づいた。あ、と、彼の口が丸く開く。
「来るなよ、ギルファス」
命令のような一声が耳に届いたときには、ラムズの体が跳んでいた。
東軍兵士の丸く開いた口が叫び声をあげる前に、ラムズが川べりに着地する。ばしゃん、と水音が立った。ラムズの足元を川の水が押し流そうとしたが、その勢いをそのまま利用して、口を開けていた男に襲い掛かる。
本当に一瞬の出来事だった。
不意をつかれてあっという間に鉢巻を奪われた男は、叫ぼうとしたが『目付』に睨まれて沈黙した。もう一人は一瞬迷ったようだった――叫ぶか、それともラムズを倒してから叫ぶか。ラムズは今体勢を崩しているし、棍棒すら持っていない。
危ない、
ギルファスは身を浮かせかけたが、マディルスに左腕をしっかり握られた。負傷していた左腕はすっかり痛まなくなっていたが、急にすごい力で握られるとやはり痛い。顔をしかめたギルファスの視界の中で、
もう一人残っていた男が、体勢を崩した。
『戦死』した男がロープを放していたので、彼らの運んでいた丸太が流れに押されて彼を引きずったのだ。丸太を流してしまわないようにとロープを腰に縛り付けていたのが災いした。ラムズに襲い掛かろうとしていた男は丸太の存在をすっかり忘れていたらしく、川の流れの力をもろに食らって体勢を崩す。
そこへ、ラムズが飛び掛っていく。
見えたのはそこまでだった。
* * *
先ほど思い浮かべた曲がり角の先で、三人は丸太を降りた。
三人とも黙りこくっていて、何も言わなかった。ルーディも、マディルスも、どことなく探り合うように沈黙している。ラムズもスパイではなかった、とギルファスは思った。スパイだったなら、あそこでああいう行動は取らなかっただろう。結局東軍の二人は一言も声を発しなかった。もしスパイだったなら、もし何らかの意図があってあの役を買って出たとしても、敵の言葉を完全に封じることはなかっただろうから。あそこでどちらか一人にでも叫ばれていたら、銀狼隊の任務は失敗していたはずなのだ。
では――誰なのだろう?
ルーディかもしれないし、マディルスかもしれない。
媛隊の中に、いるのかもしれない。
「ら……ラムズ、大丈夫かなあ?」
マディルスがこわばった口調で言った。
「最後の二人を倒せてたら、『戦死』してないよな? 迎えに行こうか――」
「いや、時間が経てば経つほど見つかる可能性が高くなる。急いで用意したほうが」
意見を出すルーディの声にも元気がない。ギルファスは一度目を閉じた。
そう、マディルスの言うとおり、ラムズはまだ『戦死』してはいないだろう。
でも迎えに行くという選択肢がいいとは思えなかった。ゴードたちは銀狼隊の作戦が成功するのを待ち望んでいる。そしてルーディの言うとおり、ここはもはや東軍の陣地の真っ只中なのだ。せっかく川を乗り切ったのに、ここまで来て見つかったら目も当てられない。
ギルファスは目を開いた。そして二人を振り返る。緊張した面持ちの二人が、黙ってこちらを見返してくる。
この二人のうちどちらかがスパイかもしれないと、冷静にギルファスは考えた。スパイをつれて東軍の陣地を突っ切ることが、どんなに危険なことかはよくわかっていた。でもそんなことは覚悟の上だった。そしてゴードも、それを知っていて、銀狼隊にこの任務を任せたのだ。
ゴードの信頼に応えたかった。
そして、グスタフに勝ちたかった。
「このまま行こう」
と、ギルファスは言った。自然に笑みがこぼれた。その笑みの意味は自分でもわからない。でも心の中から湧き出すような、そして自分をも勇気付けるような、そういう笑みだった。
声を励ますでもなく、気負うでもなく。無理することもなく、声が喉から滑り出る。
「西軍銀狼隊の華々しい活躍の場まであと少し。西軍とゴードが俺たちを待ってる!」
ああ、と二人の声が重なる。二人の顔に笑みが浮かぶのまで同時だった。三人の間に流れていたぎこちない空気が一瞬で霧散した。マディルスがいたずらっぽく、わざと冷やかすような声まで上げる。
「媛も待ってるよ、銀狼!」
川をあがった左手には巨石が続いており、前方は急な斜面になっている。斜面の上は木立になっていて、そこを抜ければ、『宴』の行われる平地に出るはずだ。
目的地のすぐそばまで来ているのに、と気ばかりあせるのだが、斜面を登るのがまた一苦労だった。大きな荷物を抱えているので、どうしても時間がかかってしまう。マディルスが先に上り、ロープを使って荷物を引っ張り上げ、すべて上に上げてから、残りの二人が上がる。その作業が終了するまでの間にも、『宴』の喧騒がギルファスを急かすように存外すぐそばで聞こえる――しかしそれだけの時間が流れても、ラムズは、戻ってこなかった。
「戻ってきてもよさそうなものなのに」
荷物を縛ったロープに、マディルスのたらすロープを縛り付けながら、ルーディが言った。
「何か……あったのかな。怪我してなきゃいいけど」
「考えがあるのかもしれない。先に行って待ってるよ、きっと」
言いながら、ギルファスは、この付近の地図を頭に思い浮かべた。
そう、ラムズが銀狼隊との合流を目指すのなら、川べりをこちらに向かうのではなく、直接目的地を目指すだろう。その方がすれ違いにならずにすむし、時間も短縮できる。
本来なら、もう少し手前で川を降りるはずだったのだ。斜面を登りきればすぐに目的地点、という場所で降りるのが望ましかったのだが、先ほどの事件のせいでそうは行かなくなってしまった。今この地点から斜面を登ったら、館の裏に出てしまうのではないだろうか。しかしこの川べりを引き返すのは無理だった。川の曲がり角に当たる部分には、ルーディでも乗り越えるのは一苦労だと思わせるような、巨石が二つほど転がっているのである。
「このまま上がったらさ、危険だろうな」
ルーディが言った。同じことを考えていたらしい。そうだな、と呟いて、ギルファスは目を眇めた。
「でもさ、上がったところは林みたいになってるだろ? 今は広場の方で戦闘中だし、林をこっそり抜けていけば、見つからないと思う……けど」
言いながらギルファスは自分でうなずいた。言葉に出すと考えがまとまり、決心もつく。そうするしかない。
すると、ルーディが、呟くように――マディルスに聞こえないような小さな声で――言った。
「今年は歌うのか?」
「あ?」
ちょうどマディルスに呼びかけようと口を開いていたところへ、思いがけない言葉が聞こえたので、ギルファスは間抜けな声を上げた。息を吸いなおしてルーディを見ると、ルーディは意味ありげにニヤリと笑う。
「話は飛ぶけど。シャティにさ。歌わないのか?」
「ああ……」
ギルファスは息を吐いて、ようやく口を閉じた。
ああ、びっくりした。
いきなり何を言うのかと思うじゃないか。
「歌わないのか?」
ルーディが重ねて問う。『歌う』というのは、この場合『求歌』のことだ。『宴』が終われば、次に若者たちが考えるのは『求歌』を歌うことだった。その夜はもう、すぐそばにまで迫っている。
『宴』が終わった後、初めに銀の月が望を迎えた夜。
今年の『求歌』の晩は、三日後である。
「許婚だからって、歌っちゃいけないってことないだろ?」
黙ったギルファスの顔を覗き込むようにして、ルーディが言葉をさらに重ねる。そうかな、とギルファスは呟いた。
「だって変だろ、そんなの」
「変じゃないよ。ウィルフレッドなんて毎年ヴェル姉のところで歌ってるよ。姉ちゃん嬉しそうなんだ。すごく」
「……」
歌う――
そのことを考えるだけで、頬がかっと熱くなるのを自覚した。『求歌』。毎年聞いているから、歌は全部覚えている。でもそれを、自分が歌う……?
今まで、想像したこともなかった。
「シャティも喜ぶよ、きっと」
ルーディの声が低く聞こえる。
それはマディルスに聞かれぬよう、ごく低められた言葉だったが……ルーディが本気でそういっていることがよくわかる声音で。
本当にそうだろうか、とギルファスは思う。もしギルファスが『求歌』を歌ったら。シャティアーナは……喜ぶ、だろうか?
本当に?
喜んでくれるとは思えなかった。そこまで自分に自信があるわけじゃない。第一恥ずかしい。そして恐ろしい。もし、歌って、シャティアーナが白い花を降らせてくれなかったら。そして……もし降ったとしても、それが『許婚』だから、という、義理のようなものだったら? それが本心からのものだということを、どうやって確かめればいいのだろう?
許婚という立場はとても微妙だ。
でも、とギルファスは思う。
もし、もしも。シャティアーナが、喜んでくれるとしたら。
――どんなに嬉しいだろう。
「俺もさ……」
ルーディがいっそう声を低めた。絶対に、絶対に、マディルスにだけは聞こえないような、小さな小さな声でささやく。
「俺も歌おうと思ってるんだ」
「へぇ」
ギルファスはようやく赤面と狼狽から立ち直って、お返しにとニヤリと笑って見せた。
「長かったなあ、決心するまで」
「うん。まあ、花が降らないってのはさ、わかってるんだけど。ぼやぼやしてたら取られちゃうかもしれないからね」
「え」
ギルファスは目を見開いた。
ルーディはずいぶん長い間片思いをしてきたのだが、その相手である彼女がグスタフのことを好きだということは少年たちの間では周知の事実になっていて――だから彼女の窓辺で歌える猛者は出ていなかったわけだが――ということは、つまり――
「違うよ、ラムズだよ。グスタフだったら両思いだろ、勝ち目があるわけないじゃんか」
ルーディはギルファスの思考を先回りしたように苦笑した。
「さっき丸太の上で言ってただろ? 昨日の晩には気づかなかったんだけど。東軍の方に歩いていった理由が『女の子たちには知られたくない』ってことなんだから。……俺もラムズを見つけたときに、何で外に出ていたかって言えば、……同じ理由だし」
「……あ」
「おーい」
上のほうから苛立ったマディルスの声が降ってきて、二人は顔を上げた。木々の間から、マディルスのしかめた顔が見えている。
「終わったよ! 先に行っちゃうかんな!」
「悪い! 今行く!」
ルーディが声を潜めて答え、身軽に斜面を登り始める。ルーディが上りきるまで待ちながら、ギルファスはぼんやりと考えた。
――ラムズが東軍の方にできるだけ近づきたかったのは、あの手紙のせいなのか?
敵陣に一人取り残されている子の筆跡を真似た手紙。それに添えられていた、本人の文字。ほんの一言、それも乱れた文字で。
そんな手紙が夜、届いたとしたら。
そう、あれがアイミネアではなく、シャティアーナからの手紙だったとしたら。
夜中に一人で抜け出して、その子の様子が少しでもわからないかと、敵陣の方に歩いていく――。その行動は、とても自然なことに思えた。もちろんそれは、スパイがいるかもしれないといわれている銀狼隊の一員としては、褒められた行動ではない。
でも、ラムズのそんな行動を、責める気にはならなかった。




