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5. 放送嵐

 この日の生放送は荒れた。

 

『うんち!w』

『うんち!w』

『うんち!w』

 

 放送を始めるなりコメントが荒れていた。

 

「うんち3つもいただきましたー。ありがとうございまーす」

 

 なんてアホなやりとりをしながらゲラゲラと笑っている。つられるようにヒナも笑っている。

 

『ねえ、ヒナちゃんって学校に行ってるの?』

 

「行ってないよ」

 

 質問の内容にひやりとするがヒナはいたって普通に答える。

 

『じゃあオレたちの仲間じゃん』

『バーカ、ヒナちゃんは小学生だぞ。お先真っ暗なおっさんと一緒にするなよ』

 

 でも知っている。外から子供の声が聞こえてくると、

 そんなときは決まってヒナは両手を耳に押し付ける。

 普通に育ちたかった。

 普通がほしかった。

 そんなことをヒナは思ったりはしないのだろうか。


【ロリコンって気持ち悪いですよね】


 ポンと投げられたコメントの文字は真っ赤だった。一万を越える投げ銭をして目立ちたいやつが目立てるシステムだ。


『お?』

『嵐か?』


【私、女だけどロリコンって気持ち悪いと思うし、男全般が苦手です。

成人男性特有のひげや脛とか腕の毛とか筋肉を見ると吐きそうになるし、地響きみたいな低い声も不快です。加齢臭や汗臭さとかをかぐとめまいがします。仕事での付き合いは割り切っているけど恋愛の相手には絶対に無理。

だからといって男の子でも14歳ぐらいになると声変わりしたりヒゲも生えてくるし、なまじ体の線が細いから本当にきついです。

11歳が限界で理想は7歳ぐらいの男児が好みです。幼女が好きだなんていう男とは違います。

やっぱりロリコンは気持ち悪いなって思います】


 なっげぇ。

 

『ただショタコンじゃねーか』

『類友やんけ。仲良くしようぜ』


【ちがいます。ロリコンが気持ち悪いだけです】


 すげえ。この人すべてのコメントが真っ赤だ。

 

―――ピンポーン

 

 チャイムが鳴らされた。間延びした音をねっとりとした押し方でくり返す。それはもうしつこく。うちにくるのなんて新聞勧誘かNHKぐらいだ。それとも隣の部屋関連のやつか。


 うるせえ! 今稼ぎ時なんだよ!


 もう無視だ。絶対に出ないぞ。

 引きこもりをなめるなよ。安全圏にいる限り気が大きくなる。それがオレだ。

 

『警察ですが』

 

 扉越しに声が届いた。途端に放送画面は祭り状態になる。あーうるせえ、マイク切るからな。

 

 ヒナに奥に隠れているように言ってから玄関を開けた。青い制服姿の男が二人、こちらをじっと見てくる。若干いらついているように見えるのは中々出なかったせいか、それともかかってきた電話を無視したせいか。

 用件はこの前の痴漢騒ぎについてだろう。警察署のほうに来るように連絡が来ていたが無視し続けていた。どうしても来てほしいなら迎えにこいといったらほんとに来やがった

 

「被害者女性が訴えを続けています。逃げるようならあなたの立場が悪くなりますよ」

 

 脅しには屈しない。「あー」とか「うー」と声にならないうなり声で威嚇する。自分は悪くないと考えていたし、実際にその通りなのだから攻撃的になっていた。


「やめて! お兄さんを連れて行かないで!」

 

 軽い足音が背後から近づいたと思ったら、手をつかまれた。ふりむくとヒナがオレの手を両手でつかんでいた。体重をのせてぐいぐいと後ろに引っ張り出す。

 

 涙目になったヒナの顔を見て気づいた。今の状況がヒナの両親がいなくなったときと状況がそっくりであることに。

 

「その子は?」

 

 オレは言いよどんだ。警察相手に「親戚だ」とうそをつくわけにもいかなかい。

 しかたがなく正直に話すと、どうしてすぐに警察に届け出なかったのかと問い詰められる。誤魔化そうとするがうまい言い訳が思いつかない。

 

「さっきのことも含めて詳しい話は署で聞きましょう」

 

 完全に犯罪者を見る目だった。オレは肩をすくめると精一杯ニヒルに笑ってみせた。それぐらいしかできることはなかった。

 

「ヒナ、大丈夫だ。すぐに戻ってくるからな」

 

 人生二度目のパトカーのドライブに出かけた。行き先は警察署。これって動画のネタにならないかな?

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