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3. ロリコンへのビデオレター

 ヒナが参加するようになってから日を追うごとに視聴者数が増えていった。 


『オラぁ!さっさとヒナちゃんをだすんだよ!!』

『幼女の声が聞ける放送と聞いて』

 

 あっというまにロリコンの巣窟になっていた。

 元々、この放送には色んなヤツが集まってきていてオレも特に拒否しなかった。下ネタなんて序の口でロリコン、ホモ、四肢分断から除夜の鐘なんて性癖のやつも現れた。ここはネットのドブ底だ。

 ヒナも慣れてきたらしくリスナーの反応を楽しむようになっていた。子供ってのはどんなやつでも仲良くなって友達になるからな。

 こいつらにとってヒナという存在は地獄の底にたれてきたクモの糸のようなものだ。すっげえ群がるじゃん。一万円を越える投げ銭をするやつも出てきた。

 

『おまえじゃなくて、ヒナちゃんのためだからな』

 

 その金どこから出てきたんだ。おまえらニートじゃなかったんだなとショックをうけた。

 

『ヒナちゃんこそ我がロリコニア帝国の女王だね』

 

 やばい、きしょいのしかいない。意識的に集めたわけじゃないのに、どうしてこいつらは集まってくるんだ。

 なあ、おまえら。分かってるのか。ここも一応ネットの世界なんだからな。一番怖いのは警察だぞ。つかまったらパソコンの中身全部みられて、こいつの性癖やべーなって言われるんだぞ。

 

『やだよ。うわっつらだけの表面をなぞるような会話なんていらねえ』

 

 平和的な生活を願うオレにゴミどもは駄々をこねる。おまえらがわがままいってもかわいくねーんだよ。

 そのままゴミどもは、いつもどおり性癖の暴露大会を勝手に開く。

 こいつらもリアルじゃ、まじめな顔して学校いったり会社で働いているのだろうと想像するとすげー笑える。ネットとリアルは別物と割り切っているやつは多い。

 

『さすがに太すぎるだろ』

『太くねえって』

 

 二次元ロリの太ももについてギャーギャーと言い争っているゴミどもを放ってサッと立ち上がる。ヒナに悪影響が出る前にパソコンの前から連れ出した。

 

「いいか、あいつらのいうことあんまり真に受けるなよ」

 

「なんで? みんないい人だよ」

 

 生放送に参加させるようになってから、単純に友達ができたとよろこんでいた。

 

「ヒナ」

 

 オレは慈しむように名前を呼んで、膝をおって視線を合わせた。

 素直で世の中をいいものだと信じるのはいいことだ。そこがヒナのかわいさなのだろう。だけど、この調子だとほいほい他人についていくちょろい女の子になってしまう。初対面で優しくしてくるやんなんてロクなやつじゃない。

 説得をがんばった。だけど、ヒナは折れなかった。

 

「お兄さんはどうしてヒナのこと優しくしてくれるの?」

 

「え、ああ、それはだな」

 

 オレはぐうっと言葉につまった。次の言葉を待つヒナにニッと笑いかける。ヒナもニコッと笑い返してくる。オレたちは分かり合えた。

 

『主はどこだーっ!』

『ロリコニアの王を火刑台につれていけ!』

 

 せっかくイイ場面だったのにゴミどもの喧騒が邪魔をした。なにやら盛り上がっているが話の流れがわからない。いつもこいつらはこうだ。話題はいつも迷子な上に違う話が同時進行していることだってある。

 

 オレは盛大にためいきを吐いた。聞きたくないが聞いてやる。そうするとゴミどもはうれしそうに返事をする。こいつらはオレに対してある種の期待を持っているらしい。

 

『なあなあ頼むよ。そろそろオレたちのいうこときいてくれてもいいだろ』

 

 オレは期待に応える男だ。それが悪癖だと自覚はしていて後からやらなきゃよかったと後悔もするが、改善もされない。でも、やるんだ。これ以上こいつらを放置できない。

 

 

 夜、真っ暗な部屋でモニターの明かりだけがついている。後ろではヒナの寝息が聞こえている。

 久しぶりの動画の編集作業だったがやり方は忘れていなかった。画面に映っているのは昼間撮影したヒナの姿だった。放送でやたらと『ヒナちゃんを見せろ』という声が多かった。普段はマイクのみでカメラはつかっていない。

 

『ヒナ、なんかしゃべってみてくれ』

 

 画面の中のヒナはカメラのレンズを向けられると照れた顔で視線をあちこちに彷徨わせる。その顔には似合わないサングラスとマスクをつけている。

 

『えっと、こんにちは』

 

 そういってペコリと頭を下げたところで動画が止まる。オレの声を消して動画が完成。一分足らずの動画で簡単なものだ。

 タイトルも適当に『ロリコンどもへ』とメッセージをつけて投稿した。



 次の日、生放送を開始すると動画を見たというコメントが多かった。

 

『さすがロリコン、えらいぞほめてやる』

『顔に余計なものつけるな、ちゃんとうつせ』

 

「ロリコンはおまえらだろ。オレはちがうからな」

 

『ここの主って何言われても笑って流すけどロリコンだけは否定するよなwww』

 

 そこにチャイムが鳴り響く。無視しようとしたがしつこく押された。

 

『もしかして警察か? お迎えがきたみたいだな』

『黙秘権行使していけよ』

 

 そんなわけないだろ、といいながらも内心びびっていた。ヒナに奥に隠れているように言ってから玄関を開けた。

 

「よう、悪いな。ちっと聞きたいことがあってよ」

 

 そこにいたのは二人組みの男。あの子の両親をつれていった連中とはちがっていたが、まとう雰囲気は同じものだった。

 

「隣に住んでたやつらしらねえか? そこにいるはずなんだけどよ」

 

 隣の部屋のドアポストには押し込まれたチラシがあふれ出していた。あいつらがいなくなってから既に二週間は経っている。

 

「えっと、詳しくは知らないですけど」

 

 チワワのように縮こまりながらも他のやつらに連れて行かれたことを伝えた。男達は舌打ちを残してすぐにいなくなったことにほっとする。部屋に戻ると、ヒナがジッとこちらを見ていた。

 

「どうした? 変な客だったけどもう帰ったから大丈夫だ」

 

 ためらっているヒナにもう一度聞くと、ようやく重い口を開いた。

 

「……さっき、パパとママが連れて行かれたって」

 

 そういえば、いままでずっとヒナは両親のことを聞いてきたことがなかった。

 

「あれは、そういう意味じゃなくて」

 

 不安そうなヒナに向けてまた誤魔化しの言葉を与えようとする。

 

「……そうだよね。パパとママは帰ってくるもんね」

 

 ふっと、ヒナが瞳を落とした。笑ったようにも、泣きそうなようにも見える表情だった。けれども持ち上げた顔にはもうさっきまでの表情はなかった。

 

「お兄さん、みんなが待ってるよ」

 

 放送画面を見ると早く戻って来いという催促で一杯になっていた。いいのか、と思うがヒナの横顔はそれ以上の話は望んでいないようだった。

 

『どうだった? 借金取りだろ』

『あのしつこさはNHKの勧誘だろ』

 

 マイクを握ればいつもどおりの優しい世界の完成。なにもかも嘘でも甘い夢の方を見ていたいだろ?

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