四の②
「あっ、先生。今日もお客さん来てるんですね。そう言えば、考えたんですけど、先生のカードゲーム、お客さんにやってもらえばいいじゃないですか。僕は疲れましたよ」
「いや、それは駄目だ」
「何で」
「何でもだ」
「先生、カードゲームを作ってるのか」
客が呟く。
「やらせてくれよ。俺にも」
「ほら」
山本くんが促す。
「……望むなら、仕方あるまい」
小屋に入って、三人で盤を囲む。ゲームの中盤には、客がしみじみと口を聞く。
「先生は一体何者なんだ」
「何者と言うのでも無い」
「先生って呼ばれる程の人なのか? 俺が死にたいって言ったら、死ぬなと言うのが先生だろう」
先生は一旦手を止めて、客を見る。
「君の言うことはよく分からんが——一つ確かなのは、君が自ら命を絶とうが絶つまいが、あまり頓着しないと言うことだ」
客はまた先生に驚かされる。驚くべき人間が、気まぐれに創出したカードゲームに、興じている自分に気づいて、再度、間髪入れずに驚く。そして、驚くべき人間の話を平然と聞いている山本くんにも驚く。
常軌を逸しているとは、このことだと思う。けれども、そもそも常軌とは、何か。常軌に沿わなくとも、彼らは正しいことを言えるし、息を吸って生きている。常軌にそぐわなくては、生きていけぬとの思想は勘違いなのだと、証拠を突きつけられた。客は、あははと発声して笑う。
「僕は面白いことを言ったか?」と、これを山本くんに尋ねる。客はやっぱりおかしくて、もう一つあははと言う。
「先生が、あんまり変な話をするからですよ。僕は、お客さんに自殺なんかしてほしくないですよ」
「そうだよな」と客が乗ってくる。山本くんがちょっと引く。
「普通、そうだよな。あれえ、普通って何だろう? あはは」
三度目をやる。先生や山本くんなどは、彼のことがいよいよ気味悪くなって、佳境であったゲームを放って、「茶でも飲むか」と取り繕った。
「いいえ、結構。それよりもこのゲームを終わらせよう」
「まだやるかね」
「気が済まないよ、こんな所で切られちゃあ」
ゲームが終わる時、勝敗も決まる。無論、創造主である先生が勝つ。
「あはは。やっぱり、先生は、何て言うか、間抜けだ」
「は? 勝ったのは僕だ」
「そうだけど——もう、帰りますよ」
客は例の如く、満足して森を離れる。先生と山本くんは去る背を見送りながら、「今度のは変だった」と確認し合う。