三の②
小屋へ戻ると、先生は机に向かって何やら集中している。先生は進入してきた山本くんに気づいて、
「奴は帰ったか」と苦虫を噛み潰したような顔をして言う。
「ええ」
「良かった」
「何が良かったんです?」
「あの客は不愉快だ」
「不愉快だって、先生はカウンセラーな訳でしょう? そんな心構えで良いんですか」
「良くは無いだろう。でも、僕は本気で客と会話をするのだ、それが仕事だ。その結果客がどうなろうと知ったことではない。ずっと森の中で一人では退屈だから、話し相手にはなってやろうと言うわけだ。どうだ、分かったか」
「——先生は、そう言う人です」
「分かってるなら、いちいち文句をつけるな」
先生はまた机上に一心となる。
「さて、昨日のカードゲームの話だが、」
「ああ」
「君にもできるように改良しておいた。ほれ、絵を描きなおして、文章も見やすくしたぞ。これで満足だろ」
「あのお、そう言う問題じゃ無いんですけど、」
山本くんは逃げ出したくなる。
「いいから、ほれ」と同時に、昨日の反省も思い出す。ほどほどに付き合ってあげて、気の済むなら、良いのかもしれない。先生は、どうであるにしても、客を満足させている。先生自身も、時には満足させられなければなるまい、こう考えて、山本くんは先生を労うつもりで、薄っぺらなカードゲームに興じてみる。
案外、面白い。