一の②
「先生、」と肩を叩かれ、起こされる。
「おお、山本君」
「先生、こんなところで寝て。ちゃんとご飯食べましたか?」
「今日は朝飯しか食ってないな」
「だめですよ。ちゃんと三食とらなきゃ」
「何だ、誰が三食と決めた」
「世の中の常識です。さっ、」
「おい山本君、僕は常識という言葉が嫌いだ。知っているだろう? それを分かっていて君は……」
「はいはい。今日は僕が、インスタントラーメンをつくってあげますから」
「そのくらい自分でできる」
「良いんです。先生はカウンセリングの勉強をしていてください。資格を取って、ちゃんと相談者の人を救ってください」
「はあ? 救う? 救う気なんて、さらさら無いのだが」
「はい。つべこべ言わずに」
先生は小屋の内へ押される。中に入っても、まだ口論は続く。
「大体、カウンセリングどうのこうの書いてあるが、全部面倒だし胡散臭い」
「先生!」
山本君は一喝する。
「先生はそんなだから、駄目なんです。仮にもお金をもらっているんですよ? ちゃんとしたカウンセリングをしなきゃ駄目です」
「ちゃんとしたってのは何だ」
「本に書いてあったりすることを勉強して、理論だった方法を知り、国家資格をとって、本物の先生になって患者の治療をするんです」
「はあ? それがちゃんとしたって事か? 飛んだお笑い種だな。理論だった方法? そりゃあ、どう言う真理なんだ」
「真理?」
「ああ、勉強しなくちゃならんのだから、真理なのだろう?」
「はあ」
山本君は、もう先生の相手をするのが疲れたと見える。黙々湯を沸かして、もう麺に注いでいる。
先生は先生で、口うるさく言われなくったのをこれ幸いと、遊びほうけている。遊ぶと言うと、先生の道具は紙とペンばかりである。だから、迷路やすごろくなどを数多作成して、暇を潰している。
「なあ、山本君。新作のすごろくをやらんか」
「先生、また『スタートに戻る』ばかりのはやめてくださいよ?」
「何、あれはふりだしに戻る、を幾多にも換言してどれだけ興味深いのができるか、実験したのだ。今度のは、また全く新しい試みだ」
先生と山本君とのやり取りから分かることとは——先生は、人に褒賞されるようなことを成している人間では決して無いということである。