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六の②

 山本くんが外で呑気にしている間に、中ではこんな泥仕合が行われていた。山本くんもまさかそんなことは知りようもないから、口笛をぴゅーぴゅーと吹き始めた。そよ風が音色に寄せられると、一層乗り気で吹く。随分夢中で、朗らかに吹いていたから、小屋の戸の開くのに気がつかなかった。

 少年は、この呑気な青年の背中を見つけて、ニヤリと笑った。そして、接近する。先生は、黙って見ている。

 心地良く演奏していたところで不意に肩を叩かれたから、「わっ」と言って戦慄わなないた。少年はそれを見てケラケラと笑った。山本くんは、顔を顰める。

「ねえ。何で口笛なんか、吹いてたんですか?」

 少年は懲りずに、質問形式で呼びかける。山本くんは赤面して、「何でって……」

 言葉に詰まる。

 理由も何もあるまい。無理やりに説明をつけようとすれば、つけられないこともないだろうが——それは無意義である。吹きたいから吹いていたのに相違ない。ところがやはりそれでは納得しないからタチが悪い。

 山本くんにはなかなか、良い返しが思いつかない。呑気で空っぽでいたら、不意に泥をかけられたようなものである。無理も無い。

「もういいや」

 少年は山本くんに失望したように、吐き捨てた。山本くんの表情は一層曇り出す。この少年のものと、同じようなものになっていく。何だかそよ風が鬱陶しくなってきた。木々の葉の擦れる音が、自分を嘲笑っているかのように、山本くんには感じられた。

 少年は去っていった。彼が離れるにつれ、山本くんはようやく元気を回復する。先生に寄って、「何なんですか、あいつ」と恨み節を吐く。

「何だって、客だ」

「あんな酷い客、初めて見ましたよ」

「そうか、初めてか」

「ええ」

 山本くんはいきり立つが、先生の方は何だかぼんやりとしている。すると山本くんの方も段々気勢を削がれて、結局大人しくなる。

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