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第九話 VS.妖巨人

 一方その頃、クリフは苦戦していた。

 妖巨人の皮膚が硬すぎて攻撃が通らない。

 彼は何度も妖巨人(トロール)の脚を打っていた。

 攻撃と回避を繰り返すヒットアンドアウェー作戦を取っていたが、そろそろ限界だ。

 クリフの息が乱れ始める。

 しかし、妖巨人(トロール)には弱った様子がない。

 体制が崩れる様子が全く無いのだ。


「ダメだ、もう……限界だ……」


 クリフが言葉をこぼした瞬間。

 妖巨人(トロール)は大きく腕を持ち上げた。

 大ぶりの攻撃がくる!

 クリフは今一度踏ん張り、詠唱した。


「我が体は火炎を(まと)う!」


 彼が唱えると、彼の体は途端にシューッと蒸気を発した。

 クリフの皮膚が燃えるように赤くなる。

 そして全身の筋肉が一気に盛り上がった。


 一方、妖巨人(トロール)も腕に一瞬で魔力をためていた。

 巨大な腕が一瞬、黄色く輝いた。

 恐らく土魔法だ。

 土魔法で腕を硬化したのだ。

 直後、妖巨人(トロール)は力を込めた腕を目の前の蒸気の中に勢い良く叩き込んだ。


 ドンッ。

 周囲に衝撃波が走る。

 こんな重い一撃をまともに食らったら、たとえ岩でも粉々だ。

 しかし……。

 どうやら妖巨人(トロール)の腕は地面まで到達しなかった様子だ。

 その巨大な腕がプルプルと震えながら、空中に止まっている。


 (りき)んで震える妖巨人(トロール)

 しばらくの沈黙。

 やがて蒸気が晴れた。


 すると蒸気の中から驚くべき光景が現れた。

 そこには必死で踏ん張るクリフの姿があったのだ。

 彼は顔を真っ赤にしながら、打ち下ろされた妖巨人の腕をつかみ支えていた。


「ぐぬぬぬぬぬぬ。うおおおおおおお‼︎」


 クリフは叫びながら力で妖巨人(トロール)を押し返す。

 しかし、妖巨人(トロール)も負けじと抵抗する。


 二人の力は拮抗し、硬直状態となった。

 その時、ロゼッタが叫んだ。


「クリフ‼︎ そのまましっかりと(おさ)えておれ‼︎」


 クリフが、チラリとロゼッタの方に視線を送る。

 すると、ロゼッタは天に向かって右腕を(かか)げていた。

 近くにテディの姿はない。

 まさか……。


 クリフは上空を見上げた。

 ここより遥か上空に、小さなクマのシルエットが見える。

 テディだ。


 テディは妖巨人(トロール)の真上に来たことを目で確認する。

 テディのつぶらな瞳には妖巨人(トロール)の姿がくっきりと映し出されていた。

 その映像は魔法の糸を通じて直接ロゼッタの脳裏に投影される。

 ロゼッタの視点は上空にあり、戦場を俯瞰(ふかん)していた。

 そして、同時に目の前に文字が浮かび上がる。


「”岩砕き(ロックスマッシュ)”習得」


 ロゼッタはニヤリと笑う。

 すると彼女はテディに命じた。


「テディ! 岩砕き(ロックスマッシュ)!」


 ロゼッタは言いながら、掲げていた右手を一気に振り下ろした。

 その直後、テディの全身が黄色く輝く。

 そして、テディは一直線に降下を始めた。

 テディの体は星のようにキラキラと輝いている。

 輝くテディはグングンと加速しながら落下していく。

 その姿は、まるで一筋の流星だ。

 ロゼッタは叫んだ。


「お前の技をそのままお返しだ‼︎ いっけええええええええ‼︎」


 鈍い妖巨人(トロール)は強力な一撃が近づいているとは(つゆ)も知らず、クリフの腕をジリジリと押し返すことに夢中になっていた。

 そして、クリフの顔にブッと臭い鼻息をかける。

 クリフは咳をしながら顔を背けた。


 妖巨人(トロール)は笑う。

 そのように目の前の敵をくじくことに熱中していた妖巨人(トロール)だったが。

 突然。上空から接近する気配に気づいたようで首を傾げた。


 だが、もう遅い!

 妖巨人(トロール)が間抜けな顔を上げた。

 その瞬間。

 岩のようにカチコチに硬化したテディが妖巨人(トロール)の脳天に直撃した。

 テディのお尻が、とぼけた顔の化け物の頭にめり込んでいく。


 ドオオオオオオオン‼︎


 妖巨人(トロール)の周辺に、まるで柱のような土ぼこりが立った。

 クリフの体が衝撃波で浮き上がる。

 彼は上手くバランスを取りながら後方に着地。

 ゴホゴホと咳をしながら周囲のほこりを払った。

 すると……。


 やがて、目の前の土ぼこりが次第に晴れて巨大な緑の丘が現れる。

 それは無惨な姿で倒れた妖巨人(トロール)の姿だった。


 妖巨人(トロール)が倒された直後。

 ジョンと、その手下の信者達はヨタヨタと起き上がった。

 すると突然、ジョンは頭を抱えて叫んだ。


「嘘だろ、おい⁉︎」

「ヒイィィ!」


 ジョンの手下達は、情けない声を上げて後退りをする。


「あいつ、悪魔だ! 赤髪の悪魔だ‼︎ ヒエェェ‼︎」


 ジョンの手下達は言いながら森へ駆け出した。

 ジョンはそれを見て焦る。

 そして震える声で捨て台詞を吐いた。


「こ、この借りは必ず返すからな! 覚えていやがれ!」


 彼は言い残すと全力疾走で森へ駆け込んだ。

 その様子を見て、物陰に隠れていた村人たちが再び姿を現し始める。

 そして全員ほっと胸を撫で下ろした。

 彼らの視線の先には、森を見つめるロゼッタとクリフの姿がある。


 すると突然、ロゼッタはクリフの腰をペシッと殴った。


「私がいなかったら危なかったな」

「ああ、マジで助かったよ」

「プププッ……」

「?」

「あの馬鹿どもの情けない姿を見たか?」

「ああ」

「私の能力も結構使えるな。これなら魔王本人を倒すのも不可能ではあるまい」


 クリフは聞きながら、ふと疑問に思ったことを尋ねた。


「そういえば、技をそのままお返しするとか言ってたが、アレは一体……?」

「ああ、アレか。アレは敵の技をテディが模倣(コピー)したのだ」

「模倣?」

「そうだ。防御系の魔法は直接攻撃を受けなければ習得できないが、攻撃系は見よう見まねで覚えられるようだな」

「えーと……」

「だが、火球(ファイアーボール)毒霧噴射(ポイズンブレス)は模倣できなかったので、恐らく魔法の属性によっては模倣できるものとできないものがあるのだろうな」

「はあ……」


 クリフは、ロゼッタの言っている意味がわからず首を傾げていた。

 すると、ロゼッタはクリフに向き直る。


「まあ簡単に言うと、私の魔法は戦えば戦うほど強くなると言うことだ!」

「なるほど? なんだか分からないが、とりあえず凄いと言うことはわかった」


 クリフは難しいことを考えるのはやめて、とりあえず笑顔を見せた。

 ロゼッタは、そんなクリフに対して両手を腰に据えて胸を張って堂々と告げる。


「私の能力は役に立ちそうだろ? 私もお前の冒険に同行するぞ」

「……」


 クリフは顎に手を当てて少し考えた。

 そして、しばらくして軽く頷く。


「本当にいいのか? 俺としては戦力が増えるのは願ったり叶ったりだが」

「うむ。私は自分の能力を世の中のために使ってみたいのだ。ならば魔王を倒すのが一番良かろう」

「なるほどな」

「この力を使えば魔王などイチコロだ!」

「確かに」


 クリフは、それを聞くと笑みを浮かべて手を差し伸べた。

 ロゼッタも微笑む。

 そして、クリフの手を握った。


「これからも私が守ってやる! よろしくなクリフ」

「ああ、頼んだ。よろしくなロゼッタ」


 二人は固い握手をした。


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