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第七話 VS.雷狼

 

「お前達! アイツを撃ち殺せ!」


 ジョンは鬼の形相で、前方にいる信者二人に命じた。

 信者達は慌ててロゼッタに杖を向けて唱える。

 

火球(ファイアーボール)!」


 直後、信者達の杖先から真っ赤な炎の(かたまり)が高速で発射された。

 燃え盛る火の玉は、真っ直ぐとロゼッタを狙う。


 しかし、どうしたことかロゼッタは動かない。 

 やがて、火の玉はロゼッタに直撃。

 炎が炸裂して爆風が発生した。

 周囲に土ぼこりが上がる。


 村人達は悲鳴を上げながら逃げ惑った。

 その様子を見てジョンはニヤリと笑う。


 しかし……。

 すぐにジョンは口を開けたまま固まってしまった。


 なんと、爆風の中から半透明の円盾(ラウンドシールド)が現れたのだ。

 これは強力な防御魔法だ。

 その円盾(ラウンドシールド)の後ろにはテディが浮遊しており、ロゼッタをしっかりと守っている。

 ロゼッタは無傷だった。

 火球を放った信者二人はたじろいだ。


 「馬鹿なっ‼︎ 高威力の攻撃を正面で防ぎやがった‼︎ なんなんだ、あの魔法は‼︎」


 先ほどまで逃げ惑っていた村人達も、急に足を止めてロゼッタを見る。

 皆、放心状態だ。

 そんな中、ロゼッタは円盾(ラウンドシールド)を消して宙を見つめた。

 彼女の目の前には、彼女だけに見える不思議な文字が浮かび上がっていた。


「”炎耐性”獲得」

 

 文字の向こう側ではテディが一瞬、キラリと黄色く輝いた。

 恐らく新しい能力を獲得したことを知らせているのだろう。

 ロゼッタは、テディと文字を交互に見てふむふむと頷いた。

 

「なるほど。テディが炎魔法を受けたから耐性がついたのか……」


 ロゼッタは一瞬で状況を理解して得意げにニヤリと笑う。

 そしてジョンに告げた。


「お前達の攻撃は私には通じないぞ! 即刻この村を立ち去れ!」

「……くっ……誰が……」


 ジョンは歯を食いしばりながらヨロヨロと立ち上がる。

 そして大きく息を吸い、人差し指と親指を(くわ)えて思いっきり指笛を吹き鳴らした。


「ピーーーーーー!」


 その音を聞きながら村人達は周囲の森を見渡す。

 そして全員が絶望した。


 森から無数の雷狼(スパークウルフ)が現れたのだ。

 10体、いや20体はいる。

 ジョンは(おび)える村人を眺めながら不適な笑みを浮かべた。

 そして高らかに宣言する。


「交渉は決裂! 村人全員皆殺しだ! アハハハハハハハハハッ!」


 その宣言を受けて尚、ロゼッタは動じていない様子。

 しかし、村人達は慌てふためいた。

 そして、全員泣き言を言いながら一目散に逃げ出した。


「ロゼッタのせいだああああああ!」

「俺は関係ねぇええええ!」 

「いやだあああああああ!」


 逃げ惑う村人の中に一人、腰を抜かして動けなくなってしまった若者がいる。

 デレクだ。

 彼は声も出せず、尻で後退りをする。


「う……誰か、た、助け……助けて……」


 そんなデレクを尻目に、一人の男が彼の隣を通過する。

 男は魔王教団の軍勢に向かって堂々と歩みを進める。

 その男はクリフだ。

 彼は、先ほどまで自分の身を縛っていた縄をその場に捨てた。

 やがて彼は、ロゼッタの隣に立つと声をかける。


「ロゼッタ! 俺も手伝うぞ!」

「クリフ⁉︎ お前どうやって縄を解いたのだ?」

「ああ、普通に引きちぎったんだ」

「はぁ⁉︎」


 ロゼッタは、クリフの信じられない答えに呆れた。

 

「お前は脳筋(のうきん)か!」

「一番簡単でいい方法じゃないか」

「むむむ……なんだかな……」

「そんなことより、君の戦いを後ろから見ていたぞ」

「!」

「どうやら君は普通の魔法使いじゃないみたいだな」

「……」


 ロゼッタは一瞬身構えた。

 自分の正体をさらしてしまったのだ。

 もしかしたら不気味に思われたかもしれない。

 彼女が悲観していると、クリフから予想外の言葉が飛び出した。


「俺も同じさ!」

「⁉︎」


 クリフは言うと、体を斜に構えて左拳を前に突き出した。

 彼は息を吸いこみ、静かに吐き出す。

 そして拳を握りしめて両脇を締め、腹に力を込めると詠唱した。


「我が脚に疾風が宿る!」


 ロゼッタは、クリフの謎の言動に顔をしかめた。

 詠唱の前後でパッと見、何ら変わった様子がなかったのだ。


 しかし、なぜだろう?

 クリフの体から大きなエネルギーを感じる気がする。

 彼女が考えていると、急にクリフが言い放った。


「俺の魔法は、魔力で肉体を強化する!」


 彼は言うと駆け出した。

 速い!


 突風鷲(ブラストイーグル)が獲物を狙って急降下する瞬間よりも速い。

 クリフは向かいくる狼の軍勢に信じられない速さで飛び込んでいく。

 これは人間業ではない。

 ロゼッタは驚いて思わず声を上げた。


「クリフ‼︎」

「うおおおおおおおおお‼︎」

 

 クリフの目の前に狼の軍勢が迫る。

 すると、一匹の雷狼(スパークウルフ)がクリフを目掛けて飛び掛かった。

 しかし。

 その鋭い牙がクリフに到達する前に、逆にクリフが懐に飛び込む。

 

「喰らえ‼︎」

「キャン‼︎」


 クリフの鋭いパンチが敵の腹にめり込んだ。

 雷狼(スパークウルフ)は痛手を負い、弾き飛ばされる。

 まずは、一匹。


 だが、狼達の追撃の手はやまない。

 彼らは、クリフの隙を狙って次から次へと飛び掛かる。

 しかし、クリフは全ての攻撃をステップで避けて、鋭いカウンターを次々に打ち込んだ。

 襲いかかる狼達は、あれよあれよと言う間に呆気なく蹴散らされていく。


 すると突然。

 一匹の雷狼(スパークウルフ)が全身に青い電気をまとった。

 クリフは一瞬、身構える。

 これに直接触れれば感電してしまう。

 クリフが躊躇(ちゅうちょ)したその一瞬の隙に、青い電気をまとった敵はクリフに容赦なく襲いかかった。

 その直後。


「キャン‼︎」


 青く輝く狼は白目をむいて空中を舞った。

 雷狼(スパークウルフ)の腹をテディが鋭いアッパーパンチで打ち上げたのだ。

 テディの体が一瞬、キラリと黄色く輝く。


「”雷耐性”獲得」


 雷狼(スパークウルフ)はそのまま吹き飛ばされ、ドスッと鈍い音を立てて地面に落下した。

 クリフは、その一部始終を見届ける。

 すると、ロゼッタが声をかけた。


「クリフ、無事か?」

「ああ、助かったよ」

「無茶な奴だ。だが、どうやらお前もやり手だな」

「そう言ってもらえて光栄だよ」


 先ほどテディが吹き飛ばした雷狼(スパークウルフ)の青い電気が消滅する。

 すると、それを見た他の狼達はロゼッタとクリフを警戒しながら取り囲んだ。

 二人は完全に包囲された。


 しかし。

 ロゼッタは余裕の表情で、右腕を真っ直ぐと正面に構える。

 そして、勢いよく腕を横へ振った。


「テディ! やれっ!」


 ロゼッタが言うと、テディが高速で周囲を回転。

 そして、狼達を次々に薙ぎ払った。

 狼達は回避する間もなく、バタバタと倒れていく。


 テディの攻撃範囲外にいた狼達は、その様子を見て恐れ慄いた。

 やがて一斉に尻尾を巻いて森へ逃げ出していく。

 ジョンは逃げ出す狼達に怒号を浴びせた。


「貴様ら逃げるな! 戦え! クソが!」


 ジョンは怒りの感情をむき出しにしている。

 そして、怒りに任せて二人の信者に命じた。


「おい! ボーッとしてんじゃねぇぞ! 森へ行って切り札を連れてこい!」

「ハッ、はい!」


 二人の信者は命令を聞いて駆け出した。

 無数の雷狼(スパークウルフ)と黒装束の男二人は次々と森へ駆け込んでいく。


 その様子を村人達は建物の影から見守っていた。

 村人達の顔からは次第に恐怖が消えていく。

 やがて、ぽつり、ぽつりと物陰から人が出てきた。


 先ほどまで腰を抜かして動けなかったデレクも静かに立ち上がる。

 そして彼は、急いで笑顔を取り繕った。


「は……ははは……勝った。魔王教団に勝ったぞ!」


 デレクは敵が蜘蛛の子を散らして逃げていく様子を見て、腰のホルダーから魔法の杖を引き抜いた。

 そして、後方に隠れている村の男達に叫びかける。


「残る敵はリーダーだけだ! やっちまおうぜ!」


 それを聞いた村の男達は、一人、また一人と魔法の杖を抜いた。

 各々約束された勝利に笑みを浮かべる。

 そして、男達は建物の影から次から次へと飛び出した。


「うおおおおおおおおおお‼︎」


 全員、杖を掲げて鼻息を荒く全力疾走する。

 彼らは、我先に取り残されたジョンの元へと急いだ。

 デレクはその先頭を走り、勇猛果敢(ゆうもうかかん)に叫ぶ。


「大将の首は、このデレク様がもらったぜ‼︎」


 彼がそう叫んだ瞬間。


 ドオンッ! ドオンッ!


 森から地鳴りが響いた。

 村の男達は、驚いて足を止める。


「なんだ⁉︎ 地震か?」


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 地鳴りの感覚は次第に早まる。

 周囲にはミシミシと木の折れる音が響いた。

 男達は周囲を警戒する。

 すると。


「ウオオオオオオッ‼︎」


 突然、森の木々を切り開いて大型の魔獣(モンスター)が現れた。

 家よりも巨大な緑色の人型生物だ。

 魔獣は脂肪を蓄えたその巨大な腹をブルンブルン揺らしながら村に接近してくる。

 そして、岩のように巨大な腕を意味もなく振り回して地面に打ちつけた。


 ドオンッ!


 巨大な腕が地面を打った衝撃波で、村人達の体が浮き上がる。

 村人達はバランスを崩して次々に転んだ。

 そして、再び恐怖で動けなくなった。


「嘘だろ‼︎ あれは妖巨人(トロール)だ‼︎」

「そんなっ‼︎ あんな怪物、どうやって連れてきたってんだ‼︎」


 震え上がる村人たちを見て、ジョンはほくそ笑んだ。

 そして、妖巨人(トロール)の到着を確認して彼は叫んだ。


「来たか、我らが切り札! この村の全てを破壊しろ! 完全破壊(デストロイ)だ‼︎」

「ウオオオオオオッ‼︎」


 妖巨人(トロール)は言われて、その場にあった荷車を片手ですくいあげる。

 そして村の男達に向かって投げつけた。

 男達は急いで立ち上がり、再び逃げ惑う。

 しかし、デレクは硬直してしまい、その場から動けない。

 やがて、彼はつまずいて尻餅をついた。


「ヒィィッ‼︎ お助けっ‼︎」


 やがて、デレクの体に大きな影がさした。

 宙を舞った荷車が、デレクに急接近したのだ。


「うわあああああああああああ‼︎」


 デレクは悲鳴を上げ、恐怖のあまり、手で視界を遮った。

 その直後。


 大きな荷車はデレクを直撃!

 したかのように見えた……。


「…………」


 しかし、衝撃音が聞こえない。

 突然、辺りが静かになった。


「……あれ?」


 デレクは恐る恐る、手を下ろして前方を確認してみる。

 すると……。

 なんと目の前には驚くべき光景が広がっていた。

 自分の真上に落下するはずだった荷車が、空中にピンで止められたように静止していたのだ。

 その荷車の下には、一人の少女が立っている。

 デレクは震える声で呟いた。

 

「ろ……ろぜっ……ロゼッタ?」


 デレクは赤髪の少女を見上げた。

 彼女が掲げる左手の先からは青く輝く無数の魔法の糸が伸びている。

 糸は荷車にしっかりと巻きつき、しなやかにその大きな車体を支えていた。

 か細い糸が重量のある物体を支えている光景は驚きとしか言いようがない。

 まったく信じられないような光景だった。


 デレクは言葉が出ない。

 するとロゼッタは、デレクにサッと視線を送った。

 そして静かに告げた。


「お前は下がっていろ」

「うっ……」


 言われてデレクは鼻水と涙を流しながら尻でズリズリと後退りをした。


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